子供の頃から憧れていた女性理髪師。その憧れをそのままに中年に差し掛かった男は、ふと訪れた理髪店の美しい女主人に求婚してしまう。話だけ聞くと荒唐無稽に思えるこの展開がしかし、ロシュフォールから溢れ出す女性への憧れと敬意で満たされた映像からは、何の違和感もなく受け入れられる。そしてもっと素晴らしいのは、この女主人がそれを受諾すること。二人とも色気はあるが年齢は不詳。過去も現在も不明。とにかく、主役でさえその人物のディテールについて何ら説明されていないところがこの映画の特徴であり、命でもあるのだ。そしてこの受諾の瞬間に、ドラマはファンタジーへと変化を遂げる。「生活」の香りは微塵も漂わない。ただ、二人がいる静かな、気品に満ちた空間。
ラストは衝撃的ではあるが、女性はそうすることで永遠の愛の時間を得ようとしたのだし、男は受け取った手紙と妻の残した空間で、やはり永遠の愛の余韻を手に入れたのだ。
やがて色あせ、変貌すること必定の「最高のとき」。女性はこれを自ら持ち去ることで、男性は時を止めることで永遠に繋ぎとめようとする。
この作品には、観た者の人生観や恋愛感を変えてしまう魔力が備わっている。
ルコントはこれ一作で伝説となった。
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