窓からローマが見える

監督 池田満寿夫
製作 1982年 日伊
出演中山貴美子、クラウディオ・カッシネリ、デリア・ボッカルド、佐藤陽子
受賞  
紹介「エーゲ海に捧ぐ」に引き続く池田満寿夫原作・脚本・監督作。日伊合作、全編イタリアロケを慣行。音楽はポール・モーリアが担当。
ローマで歌を勉強する17歳の日本人少女O(オー)と、妻のあるドン・ファン写真家カルロとの恋とその結末。始めは、陽気なラテンのナンパ劇。しかし、パリでモデルをする写真家の妻オルガが自分を襲ったレイプ魔との情事に溺れ、写真家が、ローマに居るはずのないオルガの幻影に脅かされはじめるに至って、物語はサスペンス的な様相を帯びてくる。そして、Oを巻き込んだある事件によって、オルガの情事の場所が明らかになり、今までカルロの幻想と思えていた、ローマを歩くオルガの姿に対するイメージを、観客は再度巻き戻してみざるを得なくなる。
それにしても、主演の中山貴美子。一点の汚れもない、無邪気な妖精のような彼女の存在感は、この作品の中で絶対的なものである。彼女も、オルガも、共に愛する男が居ながら、寂しさを埋めるために他の男に身を委ね、不本意ながらもそこにある快感を見出してしまうという点では共通している。が、そのもたらす印象は両極端だ。男の虜になって汚れてゆき、やがて男に捨てられてしまうオルガに対し、Oは男を虜にし、そして男の愛が自らの求めるものでないと悟ると彼を妻の許へと送り返す。オルガが情欲の不思議を象徴するのに対して、Oは少女の持つ残酷な神秘を天真爛漫に象徴する。これに中山はまさにはまり役。汚れ無き遊女の妖気とでも言うべき彼女の目元と、台詞の間に多くのメッセージを添える口許の動き。
演技は大根なのかもしれないが、スクリーン映えは絶品だ。彼女はこの作品がデビュー作で、わずか三作品に出演した後姿を消している。デビューが国際作品というビック過ぎるが故の不運なのか、あの妖精感を生かす作品との出会いがなかった不運なのか。残念である。

監督のパートナー、バイオリニストの佐藤陽子は、なんとジプシー・シンガーの役で登場。本物のジプシーに混じっても違和感のないこの妙なフィット感がおもしろい。

評価 ★★★★
  

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