関東平野で初雪〜平成10年12月3日夜〜

 南関東と山梨県で3日夕方から降りだした雨は、気温の急降下とともに山沿いから雪に変わり、山梨県や埼玉県南部(所沢市)、東京多摩西部(八王子以西)では積雪も観測された。
 東京23区内でも、気温が3度を下回った午後8時ごろから雨に雪が混じりはじめて「霙(みぞれ)」の状態となり、これが今冬の初雪となった。 これは東京(大手町)では平年よりも27日も早い。
 雪が降り始めた午後8時頃の気温は、東京都心部で2〜3度、埼玉南東部で2度前後、埼玉南西部から多摩中西部にかけてはなんと0度近くまで下がった。 これらはもちろん今冬の最低気温。 
 雨量もけっこうまとまり、午後7時から9時にかけては1時間に2〜3ミリの降水量。 0度近くまで下がった地域では一時的に雪が激しく降ったことが推定され、筆者の住む埼玉南西部の所沢市では、停車中の自動車や瓦屋根、茶畑や刈り入れ後の畑地などには午後10時時点で1〜2センチの積雪が観測された(速報ページの写真参照)。
   
 この雪は、通常2月から3月に時折関東地方に大雪をもたらすものとよく似た仕組みで起きたものと考えられる。 東北や北海道に偏って流れ込んでいた大陸からの寒気が、一時的に強まった南岸近くの前線に向かって吹く北〜北東風に乗って関東平野に流れ込んだために気温が下がり、そこへ降りだした冷たい雨が蒸発することでさらに空気の温度を下げて(夏の打ち水や、冷風扇と同じ原理)、ついに雪が融けることなく地上に達する・・・という原理。
 ただ、この仕組みにはわからないところも多く、東北地方よりも温度が低くなることや、今回多摩中西部や埼玉南西部でなぜ異常に温度が下がったか、という細かいところまではなかなか説明がつかない。 

強い寒気の南下 寒波の南下が強いとき
   
 また、逆説的になるが、この現象は、寒波の南下が弱いときに起きる。 一般に寒波の先端には長く伸びた前線ができる。 寒波が強く南に流れ出しているときには、寒気が前線をフィリピンから小笠原諸島南部を結ぶ北緯20度ぐらいまで押し下げるので、関東平野を含めて本州の太平洋側では北西の風が山脈を吹き越えてからっ風となって吹き下り、乾燥した晴天になる。
 しかし、寒気が大陸から東の方=東北や北海道に流れ出し、南の方までやってこない場合には、前線は南の暖気の力で北緯30度近くまで北上し、太平洋側でも雲が多くなる。 寒気は弱い訳なので、晴れ間があれば、寒波が強い場合に比べて気温は高くなる。 しかし、前線上を低気圧が進んできたり(今回も小さな低気圧が前線上を通過したようだ)して前線が強まると、前線の北側の地上付近では前線に沿って北東から吹く風が強まる。 すると、その風が北日本に流れ込んでいる冷たい空気を関東地方に引き込み、雲が日差しを遮ることと重なって気温が大きく下がるのである。
 寒波の南下が弱いとき
    
 だから、この現象は寒波が強く南下する1月の厳冬期には起きにくく、寒気は強いものの南の暖気も次第に強くなって寒気の南下を阻むようになる2月後半から3月にかけて起きやすい。 
 暖気が強いことは12月も同じだが、冬至前のこの頃はまだ大陸も完全には冷えておらず、よって寒気は弱く、また、関東地方に吹き込む北東からの風が吹き渡る東北沖の太平洋の海水温はまだまだ高い(土よりも水の方が「熱容量」が大きいので冷えるのに時間がかかる)ので、この現象が発生するのは極めて珍しい。
 
 今年は11月後半から真冬なみの寒気(5500m上空でー45度)がたびたび南下するなど、寒波の勢力がそうした悪条件を克服するほどに強いために起きた現象と言えるだろう。
平成10年12月5日