流星(ジェイコブ・チャン版) 2001/02/11

□あらすじ
 金融界で極めた頂点から一瞬にして転落した男は、絶望のまどろみの中で、泣きじゃくる乳飲み子を見つける。置手紙から、留守中に誰かが彼の邸宅に置いて行ったらしいことがわかる。彼は赤子を一度は捨てようとする。が、降り出した雨にやむなく連れ帰り、そのまま4年の月日が流れた・・・。彼は、ダウンタウンでアルバイトをしながら、やんちゃ盛りの男の子に育ったその子を、親以上の愛情と厳しさで育てている。そんなある日、一人の美しい富豪夫人が彼の許を訪ねる。 

□感想 
 レスリー・チャンという俳優が好きだ。今やステレオタイプ化してしまった香港映画はほとんど観ないのだが、たまたま予告が気に入った「上海グランド」という作品で出会って以来、彼だけは憎からず思い、その動向にそれとなく注目をしてきた。常盤貴子と共演した「もういちど逢いたくて/星月童話」、「追憶の上海」と、レスリーに張ったアンテナにかかって鑑賞した作品は、どれも一定の満足を与えてくれている。
 レスリーは、どこか谷村新司にも似た茫洋とした風貌、低い身長から、決して美男子とは言えない。もともとは歌手ということもあって、役者は副業、といった感覚があるのか、役に入れ込むといった姿勢も見せない。でも、そうしたことが逆に彼の魅力を増しているような気がする。全身から醸し出されるナチュラルでニュートラルな雰囲気。そして何より、「中国俳優臭さ」がないのがいい。中国、特に香港の作品には、俳優が表情や仕草を殊更に誇張し、妙に力の入った、ある意味舞台演劇臭い、或いは伝統演劇臭い演技をするものが多く、観ていてそれがけっこう目に付き、ストーリーへの没入が妨げられることがままあるのだが、レスリーに限ってはそれが一切ない。だから、日本人女優である常盤と共演しても、何の違和感もなくラブストーリーを演じることができる。「上海グランド」にしても「追憶の上海」にしても、どこかヨーロッパ映画を思わせる洒落た空気を演出することができる。
 この作品も、空しいマネーゲームの世界を引退し、アルバイトで日々をしのぎながら捨て子と向き合う日々を送る青年が主人公であり、そうした彼の魅力を十分発揮しうる映画となり得たものであった。いや、彼は立派に、まるで主人公がレスリーその人であるかの如く、それを演じきった。しかし、脚本の力の弱さが彼に十分な活躍の場を与えなかったような気がする。
 ストーリーは、青年と捨て子、そして謎の(と言っても過剰な示唆もあってネタはバレバレなのだが)富豪夫人との交錯を中心に据えつつも、香港のダウンタウンにおける、ストリート・チルドレンや貧しい老人、そうしたものに対する当局の政策の不備など、社会問題の描写を加え、さらに、そんな中で繰り広げられる小さく悲しい恋の物語までを描こうとする。この欲張りが良くなかった・・・。ストーリーの焦点が散漫になってしまった上に、どの軸も中途半端。そして最も大切なラストシーンも、時間が無かったのか余力が残っていなかったのか、何とも煮え切らないものに終わってしまっている。子供があまりに簡単に大人たちの論理に従うところにも、もっと厚みが欲しかったし、なにより観客の多くは、子供の他にもう一色(ひといろ)のドラマを期待したのではないだろうか。それもまた、満たされないものに終わっている。
 でも、レスリーのファンにとっては、彼のはまり役とも言えるこの映画は、愛すべき作品のひとつとして語り継がれてくことだろう。有能なトレーダーとしての厳しい男の顔と、淡い恋に戸惑う男の顔、そして子供をこよなく愛し、守り抜く父としての顔を合わせ見ることができる、とても贅沢な作品だからだ。子供好きにもまた、オーディションの末400人の中から選ばれたという4歳のエリクソン・イップの見せる素晴らしい演技はたまらない感銘を与えることまちがいない。
 ジャッキー・チェンばかりが香港映画じゃない。これからもレスリーには、香港の""欧州派""として洗練された作品を作り続けていって欲しい。


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