KT & 阪本順治監督選 2002/05/02

 30年前に日本を、そして世界を揺るがせた金大中(現・韓国大統領)拉致事件をテーマにした世紀の名作「KT」がいよいよ5/3に全国公開されます。そこで今号では、この「KT」のいち早い紹介と、人種が入り乱れる混沌とした街・大阪を舞台にした不器用な人生と人情を一貫して描きつづけてきた阪本順治監督の旧作の紹介を行います。

■「KT」(2002年 日韓) オススメ度:★★★★★
監督/阪本順治  音楽監督・主題歌/布袋寅泰
出演/佐藤浩市、原田芳雄、キム・ガプス、筒井道隆

◆あらすじ ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
 朴大統領との一騎打ちに敗れた彼は、日本と米国を往復しながら再起の機会を狙う日々を送っていた。朴シンパ一色に染まった韓国政府は、彼をKT(キム・テジュン)というコードネームで呼び、その動きを監視すると共に、彼の息の根を止めるチャンスを窺っていた。そして日本での彼ら韓国人たちの活動の陰には、自衛隊や公安、警察の積極的・消極的関与が見え隠れしていた。豚として生きるか、死んで狼となるか。この動きとの関わりの中で、登場人物たちの人生哲学があぶり出されてゆく。

◆みどころ ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
 KTが何者であるのか、彼の思想がどうであるか。そんなことは彼らには関係ない。祖国。組織。そして自己のために、彼らは彼らなりの戦争を展開してゆく。国家は組織に、組織は個人に、そして個人は部下に、責任を転嫁してゆく保身の常道。それでも組織に属する者ならばまだ「保険」のかけ様もあろう。しかし、組織に見放された者は。。。
 20世紀日本を語る上で欠かせない歴史の大きな謎・金大中拉致事件を、新事実をふんだんに盛り込みつつドキュメンタリータッチで追う中で、様々な立場で関与した人々の人生や心象を鮮やかに描き出す、阪本監督渾身の映像詩だ。
 拉致直前の胸が締め付けられるような異様な緊張感、そして観終わった後に襲ってくる身震いするような感動の嵐を、多くの人々にぜひ味わって欲しい。劇場での鑑賞を強く勧めたい一作である。
 ラストはどこか「新・仁義なき闘い」を髣髴とさせる、男の最期を彩る阪本美学だ。このシーンがこの作品全ての印象を決していると言ってもいい。
 初期作品では、人情味にあふれながらも、役者や実在の人物の存在感に頼った荒っぽい作りが目立った阪本監督。しかし、前作「新・仁義なき闘い」を期に映像詩人へと一大変身を遂げた。たった二時間の中で、この歴史的事件の顛末を追うことと、関わった者たちの生き様が彩る詩的世界を構築することの二つを成し遂げるなど、彼を置いてほかにできる者はいないだろう。。。
 
☆☆☆☆☆☆☆☆☆  阪本監督の過去の作品から  ☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 阪本監督と言えば、「ボクシング」や「将棋」と言った一瞬の勝負に賭ける男の生き様を描いた作品のイメージが強いですが、過去の作品群を見ると、意外に多彩なテーマを扱ってきていることに気付かされます。
 ここでは、それぞれのテーマ毎にオススメの作品を紹介して行きます。

(1)勝負モノ
 このジャンルではやはり筆頭は、監督デビュー作である「どついたるねん」(1989年 ★★★★)だろう。「なにわのロッキー」と呼ばれ愛され、リング上の事故でこの世界を去ったプロボクサー・赤井英和を本人が演じる、どつきどつかれアホ一代記。当時話題性だけでも充分だった赤井が意外にも役者としての魅力を発揮し、相楽晴子や麿赤兒、原田芳雄といったベテラン陣の好演もあって、荒っぽいが非常に魅力的な作品になっている。ボクサーものとしては、これを更に発展させたソウルフル・アクションに、こちらも元ボクサー・大和武士を起用した「鉄拳」(1990年★★★)があり、また、浪速のジョーこと辰吉丈一郎の復活劇を証言による実録と再現ドラマで綴った「BOXER JOE」(1995年★★★☆)がある。
 また、勝負モノとしてはもうひとつ、「王手」(1991年★★★)を忘れてはならない。これは、赤井英和が新世界に住む真剣士(賭け将棋士)を演じるもので、NHK朝ドラ「ふたりっ子」の原典とも言える作品。ボクシングとは全く畑違いの将棋という世界に活きる男を、赤井が非常に魅力的に演じていて、見応えある一作だ。
 
(2)下町人情モノ
 近作で有名なのが藤山直美主演の「顔」(2000年 ★★☆)。数々の賞を取った高評価作なのだが、藤山の魅力に頼りすぎた荒っぽい演出が目立ち、筆者はあまりオススメできない。このジャンルでぜひ見てほしいのは、「ビリケン」(1996年 ★★★★)。阪神大震災復興とオリンピック会場誘致話に揺れる通天閣界隈(新世界)を舞台に、守り神ビリケンさんとその化身(杉本)を巡るほのぼのとした大阪下町人情喜劇。格段の特撮も使わない実写版でのこのファンタジックな演出は素晴らしく、それを一級の俳優陣が見事な演技で支えていて、感動が収まらない一作だ。

(3)男の人生道
 「KT」の世界に最も通じるのがこのジャンル。中でも、前作「新・仁義なき戦い。」(2000年 ★★★★☆)は身震いするほどの感動作だ。深作欣二監督、菅原文太主演で一世を風靡した「仁義なき戦い」シリーズのリメイクなのだが、アクション主体の原作に対し、本作は実に繊細で流れのある心理描写を見せている。それぞれの登場人物が、それぞれのやり方で自らの立場を、友情を守りつつ、状況に、そして自らの人生にけじめをつけてゆく。身震いするほどの粋さ、カッコよさなのだ。
 まあ、ここまで息詰まる展開はちょっと・・・という向きには、「傷だらけの天使」とそれに繋がる「愚か者〜傷だらけの天使」二作がオススメ。前者はお人好しの探偵(トヨエツ)と、さらに輪をかけてお人好しの青年(真木蔵人)が死んだヤクザの息子の引き取り手を求めて東北を渡り歩くロードムービー。後者は、その青年が金欠につけ込まれて人捜しを依頼され、見つかったそのターゲットの青年(鈴木一真)との間に不思議な友情が芽生える、という物語。何れもコミカルでほのぼのとしていて、酒でも飲みながらの鑑賞にうってつけだ。

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