I am Sam 2002/06/23

 前々号で予告特集を掲載した「I am Sam」は、筆者の過大な期待を凌駕する秀作で、大満足でした。えてして期待の大きな映画ほど落胆も大きいものなのですが、本作に限ってはそのジンクスも無縁。
 この作品の特徴は、役者で魅せる映画だ、ということ。感銘深いストーリーもさることながら、ショーン・ペン、ミシェル・ファイファーというハリウッドで最も信頼できるオールラウンド・プレイヤーの代表格二人の見せる見事なコラボレーションに魅了される2時間。そして演技と存在感でこの二人と対等に渡り合った我らがダコタ・ファニング嬢。昨年の映画シーンを席巻した「ショコラ」を彷彿とさせる総合的な満足度の高い作品で、「KT」と並んで筆者の今年前半の代表作となりました。
 ということで今回はこの「I am Sam」の簡単な紹介と、名優ショーン・ペンのい過去作の中からオススメのものを紹介してみようと思います。

■「I am Sam アイ・アム・サム」(2001年米) オススメ度:★★★★☆
監督/ジェシー・ネルソン
出演/ダコタ・ファニング、ショーン・ペン、ミシェル・ファイファー
□あらすじ…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…
 知的障害を持つサム(ペン)は、消えた恋人が産み落とした愛娘ルーシー(ファニング)と共に貧しくも楽しい毎日を過ごしていたが、ルーシーがサムの知能レベルに達してしまったことで二人の生活には転機が訪れる。ルーシーを「保護」しようとする当局に対し、なんとか彼女と引き離されないようにとサムは敏腕弁護士(ファイファー)に依頼して保護者適格性をアピールしようとするが、幸せへの答えを導き出したのは意外にも・・・
□みどころ━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
 役者には天才型と努力型がいるなどと言うが、本作でのペンの演技は、彼がそのどちらに属すのかは別として、「演技術=テクニック」以外の何ものでもない。健常者が障害者を演じる難しさ。特に知能や精神を病んだ人物を演じることの困難さは誰もが知るところだろう。役者自身や観客には、自分が見知るそうした人々に関するある種の「イメージ」がある。が、それをなぞってしまうと、ただの形態模写に陥ってしまう。そして度を過ぎれば、障害者に対する侮辱とさえ受け取られかねない。かつて、「レインマン」でのダスティン・ホフマン、「レナードの朝」でのロバート・デニーロと、こうした役柄で高い評価を得たのは、万人が認める名優たちだ。そして本作によって、ペンも見事その名優殿堂に名を連ねることとなった。映画を見ている2時間の間、だれしもサムが実はペンであること、これが演技であることを忘れてしまうだろう。それほどに彼のテクニックは卓抜している。
 そして彼のそんな名演技を引き出したのは、抜擢当時ほとんど無名のダコタ・ファニング。家族に障害者がいるなど、家庭に重大なハンディキャップを背負った子供は豊かな情操を宿して成長することが多いらしい。物心が付いて親が他の親と「違う」ことに気付き、その現実を受け入れ、その親を肯定し、自然と思いやるように育ったルーシーという聡明な少女の人間性を、ファニングは余裕さえ見せながら表情豊かに演じてみせる。インタビューに対して彼女は、ペンは決して脚本通りには演じない、すごい俳優だ、と語っているが(7歳でこのコメントというのもすごいことだ!)、ロケを重視したのと同じだけ、役になり切った俳優たちの現場での「イキ」を大切にした演出と、それを可能にした三人の名優たちによって奇跡のように実現した作品なのだ。
 ストーリー面では特に奇をてらったところはないのだが、愛こそが子供を、そして親をも育てる、ということを改めて思い知らせてくれると同時に、愛だけではどうしようもないことも現実にはあること、障害者をただ哀れみ、過大にその意志を尊重するだけでは問題は解決しないということを周囲の者も、そして障害者自身も今一度認識させられる。その全ては、サム自身が道を切り開いて行く法廷闘争とその結果としての多くは語られないラストシーンとに集約されている。
 この作品でもうひとつ、注目すべきは、このサム、知能レベルは7歳なのだが、ことビートルズに関する知識では誰にも負けないということ。のっけから、愛娘の命名を迫られ、「♪ルーシ・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイヤモンズ・・・ルーシー・ダイヤモンド・ドーソン!」オー、そう来るか!とこれには思わず唸らされた。これ以降もことある毎にビートルズの話題や知識が織り込まれ、ファンにはたまらないところ。
 筆者のようにダコタに惚れて観るも良し、あるいはS・ペン、M・ファイファーのファンとして、またビートルズ目当てでも、どんな期待も決して裏切らない素晴らしい作品である。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆  関連作品紹介  ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
 ショーン・ペンの過去作からのオススメの3作品を紹介。
■「Uターン」(1998年 米) オススメ度★★★★☆
監督/オリバー・ストーン 共演/クレア・デーンズ、ジェニファー・ロペス
 仲間の金を持ち逃げする途中に車が故障し、<Uターン禁止>という標識に従ったために迷い込んだ時空の穴のような不思議な街。彼はそこを抜け出すために知恵と手を尽くすが、運命はどんどんと悪いループへと迷い込む。
 世にはストーン嫌いも多く、テイストの相性が感想を分けるが、ナチュラル・ボーン・キラーズが好きな人はきっと大満足の、ストーン監督会心のカットビ・ムービー。
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■「ギター弾きの恋」(1999年 米) オススメ度★★★☆
監督/ウディ・アレン 共演/サマンサ・モートン、ユマ・サーマン
 天才的な腕を持ちながらも破滅的な人生を送ったジャズ・ギタリストの、人生只一度のホンモノの恋。でも、彼が失意の底でそれに気付いた時、彼女は残酷な事実を告げる・・・。フェデリコ・フェリーニの名作「道」を彷彿とさせるストーリーが深く印象に残る。筆者のようにウディ・アレンが苦手な人も、冒頭にいきなり訳知り顔で登場する彼さえやり過ごせば平常心で鑑賞できる、貴重な「一般向け」作品(笑)。
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■「ゲーム」(1997年 米) オススメ度★★★★☆
監督/デビッド・フィンチャー 共演/マイケル・ダグラス
 「ファイト・クラブ」「パニック・ルーム」のD・フィンチャー監督による一級サスペンス。手の込んだ設定もさることながら、ラストにかけての予想だにしない展開があまりに見事。一応、物語はラスト10分で落ち付きを見せるが、腑に落ちない点や語り尽くされていない点が残り、見終わった後もいつまでも尾を引く重厚さ。「ロスト・ハイウエイ」がお気に入り、といった通の鑑賞にも耐えて余りある超オススメの一作。

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★★東西で二本の宮崎あおい出演作が同時公開!!★★
 6/29(土)には東京(銀座シネパトス)で「富江 最終章〜禁断の果実」が、そして大阪ではなんと三館で「パコダテ人」が公開されます。
http://www.asahi-net.or.jp/~ns8m-hgc/movie/fan/Aoi/index.htm
「パコダテ人」はこのあと、7/6から京都弥生座、7/13から名古屋グランド7/20から広島・横川シネマ、7/11,20には青森県二館と相次いで公開されます。
 何れもkoala大期待の女優・宮崎あおい主演作。3月以降引き続き公開中の大ヒット主演作「害虫」と合わせて三作品同時の上映ラッシュです。6/25にスペシャルDVDが発売される彼女の出世作「sWinGmaN(スイングマン)」(ビデオは既に発売・レンタル中)と共に、一気にこの天才映画女優の作品に触れるチャンスとなっています。ちなみに「害虫」は8/2に特典付きのスペシャルDVDが発売されます。

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<koala>

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