es 2002/07/04

 ドイツ映画といえばここのところ「ラン・ローラ・ラン」や「ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア」などといったソフトでエンタメな作品が相次いで日本に届き、ヴィム・ヴェンダースが築き上げた「固く理屈臭い独画」というイメージはすっかり払拭されつつありました。
 が、今回久々に、如何にもドイツらしいテーマにドイツならではの重く迫力ある脚色を施した作品「es」がやってきました。

■「es(エス)」(2001年 独) オススメ度★★★★
原題/Das Experiment
監督/オリバー・ヒルシュピーゲル
出演/モーリッツ・ブライプトロイ、クリスティアン・ベッケル
 東京 シネセゾン渋谷 上映中/東京 テアトルタイムズスクエア 7/20〜
 大阪  テアトル梅田  8月上旬 /北海道 シアターキノ 8/10(土)〜
 名古屋  ピカデリー4   9月 /福岡  シネテリエ天神   9月
 京都 朝日シネマ 8月 /神戸  シネリーブル神戸 8月
□あらすじ━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
 1971年、米国スタンフォード大学で実際に行われ、以後禁止状態にある模擬監獄実験。その実験台となった一人の男の人物像や人間ドラマをこの史実とからめて描く。
□みどころ━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
 報酬は4000マルク。新聞広告に応募して集まった男たちは看守役と囚人役とに分かれ、模擬監獄で二週間を過ごすことになった。
 はじめはごっこ遊びとタカをくくっていた彼らも、わずか三日後には各々の役どころに沿って秘めたる人格が露わとなり、それぞれに精神的に追い詰められて行く。
 囚人たちは抑圧された状況を打開し、一日も早くここを脱出しようとし、一方の看守たちは、自分たちの優位な立場を死守するため、囚人たちによる反撃を封じ込める行動に出た。ある意味でこれは実験の主催者たちが想定した""変化""だったはずだが、中断したり脱落したりすると4000マルクがフイになる、という拘束条件は、実際の監獄以上に彼らの行動を縛った。また、二週間という短さや、看守における職業意識のなさも、シュミレーションとしては不完全であり、それがまた主催者の予想を超えた被験者たちの反応へと結びついて行く。
 こうした被験者や主催者たちの実験に対する見方の変化が実に細やかに描写されていて、しかもストーリーの焦点を主催者ではなく被験者に一人、中でもこの環境をある目的に利用しようとする分子に据えることで、ある種の客観性と見方の広がりが出せたようだ。このあたりは、近年の実録もの映画の中では傑出する「KT」の手法と似ている。対する「突入せよ<あさま山荘事件>」が当事者に視点を据えたためにやや精彩を欠いたことと比較してみて欲しい。
 二時間の上映時間のほとんどがこの息詰まる監獄内での精神的・肉体的バトル。彼らはそれぞれの役割に応じた緊張を強いられただけだろうが、この映画を観ている我々には、看守・囚人双方の緊張感が、打ち響くピアノの重低音に乗って重なって押し寄せてくるために、その精神的圧迫感たるや我慢の限界を超えるものがある。心臓は高鳴り、呼吸は浅く速く、胃は縮あがって、極度の不安状態に追いやられるのだ。だから、決して食後に鑑賞しないことをお勧めする。
 封印された歴史を白日の下に晒し、観客にもそれを疑似体験させる。こういう芸当は映画という媒体にしかできない。それだけに、より多くの人に、この機会を逃さず劇場で是非""体験""して欲しい作品だ。

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆  関連作品紹介  ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 実録ものの映画は過去に数多くあるが、良くも悪くも、事実を追いかけることだけに終始してしまい、本来娯楽であるはずの映画としては物足りない作品も多い。その中で筆者が最も印象深く記憶しているのは、「バラキ」だ。
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■「バラキ」(1972年 伊・米) オススメ度★★★★☆
監督/テレンス・ヤング 出演/チャールズ・ブロンソン、リノ・バンチュラ
□みどころ
 持ち前の頭脳と冷静さ、用心深さでマフィアを渡り歩き、重用されてきた男、バラキ。彼はファミリーの内部抗争に巻き込まれ、謀略によって警察の手中に落ち、不当な刑期を得てしまう。
刑務所内にもファミリーの手は執拗に及び、彼の命は再三にわたり危機に晒される。そして、敬愛するボスの信頼も得られていないどころか、裏切り者の濡れ衣の下命まで狙われていることを知った彼は、FBIの要求を呑み公聴会で組織の全貌を暴露証言するに至る。
 信頼できる仲間に囲まれた暮らしを求めて組織の一員となることを選び、結果的に裏切られた男の人生の悲哀がブロンソンの慈愛深い顔に刻まれた深い皺に重なる。
事実を越えた事実と、一人の男の生々しい人生に目が釘付けになる、すばらしいドキュメンタリー映画だ。
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 人体実験と言えば、真っ先に思い出すのはキューブリックの名作「時計じかけのオレンジ」。瞼が閉じないように固定された状態で恐怖の映像を見せられ続けるアレックスの姿は未だに記憶に新しい。
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■「時計仕掛けのオレンジ」(1971年 英)オススメ度★★★★☆
監督/スタンリー・キューブリック 出演/マルコム・マクダウェル
□みどころ
 近未来。暴力とセックスに明け暮れる毎日を送っていた高校生アレックス坊やが、仲間の裏切りで投獄されるが、やがて政府の人格改造プログラムの実験台となって社会復帰。暴力や性衝動が肉体的苦痛となって現れるという屈辱的状況に絶望するが、政争の中再改造され、めでたく怒りと暴力と性欲の権化、アレックスが再生する!
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<<< 特集上映 疾走する次世代の女優・宮崎あおい >>>
場  所 :吉祥寺バウスシアター(http://www.baustheater.com/)
      東京都武蔵野市吉祥寺本町1-11-23  TEL:0422-22-3555
期  間 :7/27(土)?8/9(金)
上映作品 :宮崎あおい主演作「害虫」、「ユリイカ」の二作品
スペシャル:7/27(土)に「害虫」の塩田明彦監督トークショウを予定
☆「ユリイカ」は既にDVDが出ていますが、クロマティックB&W(彩色白黒)という世紀の手法が醸し出す微妙な色彩の真の素晴らしさはスクリーンで観なければ味わえません。この貴重なチャンスをぜひ逃さないで下さい!
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☆「パコダテ人」は7/6(土)からいよいよ京都公開!
 上映館は新京極弥生座。http://movies.yahoo.co.jp/m1?ty=th&id=20125
 大阪では「テアトル梅田」「千日前弥生座」「動物園前シネフェスタ」計三館にて上映中。各館とも上映期間が2〜3週間と短いので、見逃さないように!

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