青い春 2002/07/10

■「青い春」(2001年 日) <公開中> オススメ度★★★★
監督/豊田利晃  原作/松本大洋
出演/松田龍平、新井浩文、山崎裕太、忍成修吾、小泉今日子
□あらすじ━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
 春。卒業生が去り、新三年生たちの関心事は番長の座の行方。キモ試しでその座を争うという学園の習わしが選び出したバンはネクラな九條。が、学園こそ天国と言い切る彼は、予想を裏切って意外な程のカリスマ性を発揮して校内を席巻する。咲かない花であることを確信するまでは、同じ苗。平等に養ってももらえる。苗こそ人生の花とばかり、咲き誇る。しかし。。。
□みどころ━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
 激しい痛みを伴った青春へのレクイエムだ。
   九條:<先生、咲かない花も、あるんじゃないですか?>
   教師:<咲かない花×××××。そう××ることが大切なんだ>
 番長と教師のこの会話が耳に残る、
 主演の松田龍平は、この作品のために役者になったのではないかと思える程、究極のハマリ役。彼の持てるキャラクターのすべてがこの九條という少年と完全に重なり、共演者たちを遙かに凌ぐ強烈な存在感を発散する。醒めている。表情が動かない。キレない。冷静さのままで放つ暴力の息を呑む怖さ。そんな彼が花壇の世話をする時と、心許せる青木と過ごす時だけは、ほんの少しだけ表情が緩む。この細やかな演出とそれに応えた龍平の演技があるからこそ、ラストでの彼の心情が一層際立つのだ。
 原作脚本・演出・役者。この三者ががっちりとタッグを組んでの奇跡のような作品。見どころは演技やストーリーだけに止まらない。ミシェル・ガン・エレファントによる本編とあまりにシンクロした素晴らしい音楽。そしてぜひ注目して欲しいのは、校舎内のそこかしこに黒ラッカーで書かれた""落書き""のクールなアート感。これがプロの所業であることはのっけの屋上シーンから気付かされる。書の掛け軸を思わせる見事な空間配置で壁に書かれた「幸せなら手をたたこう」の文字。そしてその傍らのクールな縦横のアミダ模様。教室内にも廊下にも、統一感のある落書きアートがあふれる。エンドロールで確認したのは<落書き:森朝子>という一行。本編以外にもこんな楽しみを提供してくれるとは、なんだか得した気分だ。

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆  関連作品紹介  ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
 「青春」というキーワードを題名に含んだ秀作を紹介してみよう。恋愛は一人で幾つも経験することができるけれど、青春は一人一人の人生でたった一度しか経験できない。それだけに、人の数だけ青春ドラマはあるし、その描き方には監督や原作者の人生が色濃く影を落とすもの。見比べてみると面白い。

■「愛と青春の旅立ち」(1982年 米) オススメ度★★★★
監督/テイラー・ハックフォード 
出演/リチャード・ギア、デブラ・ウィンガー
 青春に失望し、意気盛んに士官学校に入隊した青年が、仲間や女性、そして厳しくも優しい教官との交流のなかで、反抗心、怒り、葛藤を克服し、身も心も一人前の大人の士官に成長して行く姿を見事に描いた秀作。
  青春もの映画の定番中の定番。テーマ曲があまりに有名。
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■「青春の門」(1975年 日) オススメ度★★★★
監督/浦山桐郎 出演/吉永小百合、仲代達矢、大竹しのぶ
 五木寛之の同名小説を原作に、太平洋戦争前から朝鮮戦争にかけての炭坑の町・筑豊を舞台に、幼年期から青年期へのひとりの男の心身の成長を、厳しい時代背景と波乱に満ちた家族関係の中で描く大作。吉永の汚れ役はあまりに生々しい。見応え十分。
 同監督の続編「青春の門 自立編」(1977年;田中健、大竹しのぶ、いしだあゆみ)もあわせてどうぞ。
 同小説からの映画化は、ほかに深作欣二・蔵原惟繕共同監督のもの(「青春の門」;松坂慶子、佐藤浩一、若山富三郎、杉田かおる ★★★)もある。こちらは浦山モノに比べると、原作に忠実に描いた印象で、あっさりしている。
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■「青春群像」(1953年 伊) オススメ度★★★★
監督/フェデリコ・フェリーニ 出演/フランコ・インテルレンギ ほか
 1953年ベネチア映画祭「サン・マルコ銀獅子賞」受賞。
 親友リカルドの妹で町一番の美女サンドラを「できちゃった結婚」で妻にした女たらしの青年モラルドを中心に、脚本家志望の友人、芸人稼業の青年の四人の青年が繰り広げる青春の光と影を生き生きと描き出した秀作。ビスコンティの名作「若者のすべて」と相通じる表現形態をとっている。
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■「青春残酷物語」(1968年 日) オススメ度★★★★
監督/大島渚 出演/桑野みゆき、川津祐介、久我美子、渡辺文雄、佐藤慶
 方向感を失った社会の中で、欲望の赴くままに青春の魂をたぎらせた若い男女の軌跡とあまりに残酷な結末を描く。彼らの暴走に終止符を打ったのは、大人たちでも彼ら自身でもなく、彼らが足を踏み入れながらも距離を保てるという漠然とした幻想を抱いていた、歪んだ社会の闇の部分の力だった・・・。
 かぐや姫の「神田川」の世界を髣髴とさせる、青年の部屋での同棲の日々が、桑野の切ない笑顔とともに脳裏に焼きつく。

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 7/27(土)〜8/9(金)まで、東京・吉祥寺バウスシアターにて宮崎あおい特集上映が行われます。題目は共に海外で受賞した「害虫」と「ユリイカ」。特に「ユリイカ」のクロマティックB&Wという技法によるモノクロともカラーともつかない色彩の美しさは、DVDでは決して味わえないスクリーン鑑賞だけの秘宝。この機会を逃すと、3時間40分という尺の長さもあって、もう二度と眼にする機会はないかも?
****************************舞台挨拶決定!****************************
* 8/3(土)5:10の上映前に「害虫」主演女優の宮崎あおいさんと、   *
* 日本映画の新鋭、沢木哲さんが来館し、舞台挨拶を行う予定です!   *
* 吉祥寺バウスシアター 0422-22-6631 http://www.baustheater.com/  *
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