異常人気な日本映画 「ピンポン」&「ピカレスク」 2002/08/14

 とびきり暑い今年の夏、日本映画もとっても熱い!
 いや、とにかくスゴイんです。
 「ピンポン」は、この暑いのに、夜の部を観るために炎天下行列を作って整理券をゲットしないと入場がおぼつかない程の異常人気。おかげで、いい席に座っているのはこの時期ヒマな大学生ばかり。そして上映開始直前には期待のあまり拍手が巻き起こるという、洋画でさえ滅多にない盛り上がり方を見せています。
 一方の「ピカレスク 人間失格」は、主演の河村隆一のファンと思しき40代以上の女性で連日満員の大盛況。毎週張り替えられる場内展示写真パネルのプレゼント企画を目当てに通い詰めている人あり、遠く東北から新宿まで遠征してくる人あり。ポスターも一人で3枚、4枚と買って行くので、飛ぶように売れています。日曜日に行った時には、男性は観客の僅か5%程度。否、もっと少なかったカモ。いやはや、片身が狭いの何の。香水の香りにむせびつつ、体をこわばらせて観賞したのでした。。。
 魅力的な俳優が出演していて、ストーリーが面白ければ、日本映画でもみんな観に来るんです。このところ、「笑う蛙」「うつつ」「とらばいゆ」などのように、テレビドラマでお馴染みの俳優もどんどん映画に進出し、企画も「映画だから」と肩肘張らない気楽なものが増えてきているようで、邦画界はとてもにぎやかになっています。おかげで、邦画の上映作をフォローするのに精一杯で、なかなか洋画にまで手が回らない今日この頃。今月末には「リターナー」や「夢なら醒めて」も公開されますね。

■「ピンポン」(2002年 日) オススメ度:★★★★
監督/曽利文彦 脚本/宮藤官九郎(「GO」)
出演/窪塚洋介、ARATA、夏木マリ、三輪明日美、竹中直人
□あらすじ━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
 ヒーローは生まれながらにヒーローなのだ。でも、ヒーローがヒーローであり続けるためには、ヒーロー自身にも心のヒーローが必要なのだ。そして、万人が認める卓球ヒーロー・ペコ(窪塚)と、幼少時から彼に教えを受けた卓球の達人・スマイル(ARATA)は、互いが互いのヒーローだった。しかし、慢心と迷いは二人のこの無二の関係に濃く影を落としていた。果たして、ヒーローは帰ってくるのか。それとも。。。
□みどころ━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
 松本大洋の原作を「GO」の宮藤官九郎が脚本化。
 おもしろおかしく編集された予告編にはいささか不安を覚えていたのだが、蓋を開けてみると意外にも見応えたっぷりの息詰まるガチンコ青春ドラマ。この作品に何を期待するかによって評価も180度異なってくるとは思うが、「どうせおちゃらけ」と見切っていた筆者にとっては、予想外に奥深いストーリーに大満足。すごく得した気分で劇場を後にした。
 スポーツを土台にしつつ、スポーツ自身ではなく人間の心を描き出すという趣は、日本版「少林サッカー」と呼んでもいい。何が素晴らしいと言って、原作と脚本の完成度の高さ。とにかく無駄な存在が一人もない登場人物のキャラクター設定の見事さ。本作の評価はこれに尽きる。そして、この何れ劣らず重要な役柄を演じる俳優の素晴らしいキャスティングと、それに十二分に答えた役者たちの大見得を切った派手な演技も素晴らしい。「少林サッカー」にも通じるが、実写を巧みに補って高速でボールが飛び交うピンポンの迫力を演出したCGの用い方もうまい。
 「ピンポン」だけに、音楽監督が石野卓球(電気グルーブ)という笑える人選も、一種のサービス精神?それはともかく、石野のプロデュースの下で本作の主題歌を担当するスーパーカーというグループの音楽、このポップ感がペコさんの宙を駆けるピンポンの躍動感と見事にマッチしていて、映画のリズム感をより高めていることにも注目。
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■「ピカレスク 人間失格」(2002年 日) オススメ度★★★☆
監督/伊藤秀裕 原作/猪瀬直樹 『ピカレスク 太宰治伝』
出演/河村隆一、さとう珠緒、緒川たまき、裕木奈江、とよた真帆、佐野史郎、大浦龍宇一、猪瀬直樹、田口トモロヲ、大杉漣
□あらすじ━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
 芥川賞受賞のため、文壇登壇のために激しい執念を燃やして小説を書き続けた不遇の文豪・太宰治のナルシズム溢れる半生を描く。
□みどころ━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
 太宰といえば、酒におぼれ、薬におぼれ、肺を病んで、果てに女と無理心中するという破滅的人生を歩んだ小説家というイメージで従来は描かれてきた。
 しかし本作では、豪農である実家の庇護の下、涼しい顔をして東京で女と遊び暮らし、金が止められそうになったら半ば本気、半ば狂言に自殺未遂、心中未遂を繰り返して実家をあわてさせるおぼっちゃまであり、文学のためではなく文壇登壇のために執念を燃やして小説を書き続けた野心家であり、強い生への執着を持ったまま、「グッド・バイ」とばかりナルシズムの果てに戦争未亡人と不倫の無理心中を遂げた、ひとりの人生演出家として、全く新しい視点で氏を描いている点が面白い。そして演じるのが、自他共に認めるナリシスト・河村隆一。悲壮感も破滅感もなく、生き様の演出のために自殺を繰り返す男。そして遂に、死の演出者たる女に魅入られて、命を賭けた最期のパフォーマンスへと駆り立てられる結末。いやはや、とかく難しい太宰論から離れて、ひとりの男の人生として実にドラマティックではないか。
 河村隆一自体がナルシストなだけに、かっこよく魅せる自己演出はお手の物で、他のベテラン俳優陣の中にあっても彼の演技に遜色はなく、河村=太宰の人生演出に命と体を差し出す女たちを演じる女優陣のキャスティングも的確かつ豪華。小さな政府を標榜する政府改革プロジェクトの渦中にいる原作者の考えが太宰の思想と重なることを臭わせるシーンもちゃっかり盛り込まれるご愛敬も。

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆  関連作品紹介  ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
 「ピンポン」の宮藤官九郎第一回脚本作であり、窪塚洋介の出世作でもある「GO」をまだ観ていない人は、この機会に是非。
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■「GO」(2001年 日) オススメ度★★★
監督/行定勲 出演/窪塚洋介 、柴咲コウ、大竹しのぶ、山崎努、 山本太郎、大杉漣、塩見三省、萩原聖人
□あらすじ━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
 「在日」少年の日常の葛藤を、日本人少女との恋愛を軸に描く。
□みどころ━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
 一般に映画は監督のものと言われる。しかし本作では、宮藤官九郎のあまりに「強い」脚本がしばしば台頭し、行定監督の持ち味である<張りつめた透明感>を凌駕する。が、すぐにまた監督の色が盛り返す・・・そういった監督と脚本とのせめぎあいが<観戦>できる、とても面白い作品となった。トータルでは、やや脚本が優勢か。でもラストはやっぱり行定カラー。歴代の行定作品とは大きく異なり、劇場のほとばしりとスピード感がみなぎる、少々荒っぽい作品だ。
 キャストは、窪塚も柴崎も、持ち前の雰囲気をうまく生かした演出のおかげで、非常に輝いている。冷静に観れば演技力不足は歴然としているのだが、そこをポップなムードで包み隠してしまう演出が心憎い。
 でも、何より面白いのは、ストーリーを離れて、「朝鮮学校」の内部と日常という、一般の日本人が絶対に知り得ない世界を垣間見ることができるところ。未だかつてテーマになり得なかったもの、なったとしても一面的な見方しかできなかったものを、ここまで真正面から取り上げた勇気と企画力は称賛に値する。そして、悪ガキたちが見せるブチ切れたワルサがまた面白い。キモ試しの地下鉄飛び込みやバイク略奪。善悪を越えて妙に感心してしまった
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