「パーフェクト・ブルー 〜夢なら醒めて〜」 2002/09/05

 竹内義和の小説「Perfect Blue 夢なら醒めて」を原作とする実写版の映画「夢なら醒めて・・・」が現在東京で好評公開中です。「閉じる日」で素晴らしい存在感を魅せた前田綾花と、「殺し屋1」のイチ役でブレイクした大森南朋が主演し、監督は何とポルノ映画の巨匠・サトウトシキ。
 実はこの原作には、5年前に製作されたアニメ版(VHS/DVD販売・レンタル中)が存在します。現実と具現化した幻想との見事な重層構造の表現で世界を驚かせた「パーフェクトブルー」がそれ。
 はっきり言って、この二作品は全くの別物。同じ原作からよくぞこんなにも異なった映像世界やストーリーを導き出せたものだと感心してしまいます。なので、アニメ版を観た人もぜひ実写版を、そして実写版を見て気に入った人はぜひアニメ版を観て、両者を見比べて感動を深めて欲しいと思います。

□関連サイト
http://www.parkcity.ne.jp/~s-kon/perfectblue.html
http://www.office9.net/takeuchi/menu.html
http://www.office9.net/takeuchi/eizou/perfectblue/index.html
http://www.palnet.tv/perfectblue/index.html

■「夢なら醒めて・・・」(2002年 日) オススメ度:★★★★
監督/サトウトシキ
出演/前田綾花、大森南朋(なも)
<東京・テアトル新宿にてレイトショウ公開中>
□あらすじ━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
 「究極の愛とは、その人の人生を生きること。」そう言ってはばからないアイドル・<愛>の「ファン」・<堀部>。彼は、彼女への愛の深さの余り、遂にはもうひとりの<愛>へと転生してしまう。そしてお望み通り、その愛は「悲劇」で終わりを告げる。。。
□みどころ━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
 もともとはアニメで高い評価を得た原作を、サトウトシキ監督が実写版として映像化。幼少時に故郷で出会って以来ずっと一途な愛を捧げてきた<堀部>の強く静かな思いと、一編の歌を自分に残して世を去った親友への思いを胸にトップアイドルへの道を静かに且つ力強い信念を抱いて登って行く<愛>の思い。この二人の心象世界が、<愛>自身が唄うその因縁の歌の切ない調べと共に、世界観を大切にしながら丹念に映像として紡ぎ上げられてゆく。実写でなければ表現できない、主人公の表情や息遣いの描写に重点を置いて、寄りの映像を多用して場面は展開して行く。
 場面で一番好きなのは、コンビニで働く<堀部>の前に突然<愛>が現れた時の彼の表情と咄嗟の対処。遭えるなんて思ってもみない。否、遭ってはいけない。でも遭いたい。遭えたら、どんなにか心踊ることだろう。でも、遭ってしまったら、この思いが変節してしまうのではないだろうか。それが怖い。大体、遭ったら何を話す?本人には自分のこの強い思いは決して語ってはいけないような気がする。それにもし拒絶されたら?気味悪がられたら??でも、そんな心の準備も整わぬ時に突然、チャンスはやってくる。。。そんな一ファンの喜びや戸惑いが入り混じった感嬢を、大森南朋はあまりにビビッドに表現。共感のあまり思わずこぶしを握り締めて、「そうだそうなんだよな!」と膝を叩いてしまった。
 舞台挨拶で綾花嬢も述べていたが、彼女自身が唄うこのヘタウマな主題歌が、妙に耳に残る。この歌の出来が映画の成否を担っている重要なアイテムだけに、パラダイス・ガラージが製作したこの楽曲のクオリティの高さには大満足。劇場を出る時、無いのを承知でCDの入手方法をスタッフに詰問してしまった。

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆  関連作品紹介  ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
■「パーフェクト・ブルー」(1997年 日 アニメ) オススメ度★★★★
監督/今敏 キャラクターデザイン/江口寿史 声/岩男潤子
□あらすじ━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
 アイドルグループ""CHAM""のメンバー・霧越未麻は、脱アイドル宣言をして女優に転身する。しかし、もともと歌手になりたくて上京してきた彼女の心の迷いは、やがて彼女の人格を分裂させ、さらにそれは劇中劇である未麻が出演するサイコスリラー・ドラマのストーリーと複雑にシンクロしてゆく。アイドル歌手であり続けようとするもう一人の未麻の人格は、元はアイドルだった未麻のマネージャーが積み残した夢への思いや、アイドル・未麻の熱烈なファンであり、彼女の守護者を自認する醜い青年の思いを通じて具現化し、次々と事件を引き起こして行く。そして遂にその矛先は、アイドルを捨てた未麻自身へと向けられて行く。
□みどころ━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
 自らの幻影に苦しめられる未麻が次第に現実感を失って行くのと同時に、観ている我々にも虚実の境界がわからなくなり、現実と幻影、そして劇中劇が作り出す虚構の3つの世界が入り乱れた空間へと引きずり込まれて行く。この複雑な重層構造のすばらしさ、そしてそれが引き起こす不安感の演出には、思わずうならされる。見終わった後、寒気がするほどの感動でしばらく茫然自失状態となってしまった。
 1997年に公開されるや、世界を驚かせたというのも頷ける。未麻の幻影など、アニメでしか為し得ない映像効果や演出がふんだんに取り入れられている点も評価に値する。
 惜しむらくは、アニメが江口寿史のデザインで、未麻の顔があっさりし過ぎていること。ストーキングされるほどのアイドルなのだから、それなりにディープなかわいさを演出してほしかった。

■「閉じる日」(2000年 日) オススメ度★★★★
監督/行定勲 出演/沢木哲、前田綾花、富樫真、永瀬正敏
□みどころ
 岩井俊二監督の下で助監督を務めてきた行定勲監督の記念すべき独立第一作。
 音楽はUAのプロデューサーとしても有名な朝本浩文が担当。主題歌を歌う藤田アサミが、誰もいない河川敷でアンニュイに歌うシンガーとして劇中にも再三登場。オリジナルの音楽とのコラボは、師匠の「スワロウテイル」を強く思い起こさせる。
 人里離れたロッジに長らく二人だけで済む姉と弟。姉・名雪(富樫真)は売れっ子の女流作家。弟・拓海(沢木)は高校生。そしてこの姉弟には、近親相姦であるとか、親を殺したのではないかなど、悪い噂が絶えない。事実二人には過去に消し難いおぞましい記憶があった。この生き続ける記憶を精算すべく、姉はこの悪夢を小説に綴り、弟は廃屋で一人長い時間を過ごす毎日。そんなある日、拓海の前に、彼に一途な思いを寄せる美しい少女が現れる。時を同じくして、姉にも別の男の影が。自らの小説に追いつめられて行く姉。一方の弟は、彼の許を離れようとしない少女によって、少しずつ記憶の輪廻から解放されて行く。そして遂に姉は・・・でもこれは、このすべての<できごと>は、もしかして幻影?姉弟の共同幻想だったのか?謎をかけるようなラストが余韻を残す。
 モデルの前田綾花が謎めいた少女を雰囲気たっぷりに好演。本作のイメージをグッと高めている。

■「殺し屋1」(2001年 日)オススメ度★★
監督/三池崇史 出演/浅野忠信、大森南朋、塚本晋也、寺島進、國村隼
□みどころ
 究極の変態スプラッタ・ホラー・バイオレンス。
 誰か俺をいたぶってくれ!殺してくれ!というマゾのヤクザ(浅野)と、痛めつけられると衝動的に相手を惨殺してしまう泣き虫殺し屋「1(イチ)」、そして、そんな殺し屋に「イジメられっ子」だったというトラウマを植え付けてマインドコントロールし、人殺しをさせる謎の男(塚本)。
 Hなシーンよりも殺しの凄惨さのためにR−18指定を食らったのではないかと思わせるスプラッタ・ホラー映画もタジタジの殺人手法。ここまで来ると怖いと言うよりも笑ってしまう。でも、劇場で真っ暗な中で観ていると、やっぱり気分が悪くなってくるのだ。
 他人の痛みを感じない暴力。ヤクザが追求するのは生身のままでとことんいたぶる暴力。対して「1」の暴力はえげつないが、一瞬だ。痛みも何も、やられた瞬間に相手は人間でも生き物でもなくなってしまっている。
 そして、いたぶられている男も女も、意外にそれを待ち望んでいるという事実もあったりして。
 ただまぁ、こうして分析してみても実は仕方がなくて、理屈抜きにアヘラアヘラと2時間をオバカに楽しんでさっぱりしたら忘れてしまう、そんな観方が一番向いている映画なのだろう。そう思えば、笑うツボはいっぱいあるし(一番気に入ったのは、口が裂けた浅野忠信にまつわる映像効果と、皮を吊るす拷問)。ま、楽しんでくだされ。

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