共通点は、松尾スズキ? 2002/09/13

 日本映画の勢いは止まりません!
 かたやプータロー三人男のモラトリアム脱出記、かたやチグハグ・ギャング
に拉致された実直青年の嵐のようなスルー・ザ・ナイト・ドライブ。監督もも
ちろん別人で全く関係の無いこの二作なのだが、観終ってみて、一歩引いて思
い返してみると、何かしら根底に流れる<思想>のようなものが共通している
ように思えてくる。それは何も、どっちにも松尾スズキが出ているから、では
なくて、人生を新しいステージへと進ませる時に、人=他人の存在というもの
がとても大切な意味を持つんだ、という確信。具体的に何彼をしてくれるとい
うことではなくて、自分ひとりでは決して足を踏み入れない世界を見たり、そ
こに入ったりするきっかけを、他人との関わりが半ば強制的に作ってくれると
いうこと。ポン!と背中を押してくれる、といった感じ。迷いの中にあっても
とっても前向きなこの二本、見逃すなかれ!!
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■「チキン・ハート」(2002 日) オススメ度★★★★
監督/清水浩
出演/池内博之、松尾スズキ、忌野清志郎、荒木経惟、岸部一徳、馬淵英里何、
春木みさよ、尾美としのり
□みどころ++++++++++++++++++++++++++++++++++++
 2分2000円で殴り放題の「殴られ屋」というバイトをする青年と、親戚
の家で居候する40過ぎのプータロー・マルさん、そして破天荒な行動が魅力
的なサダさんとが過ごす、モラトリアムな時間。
 青年は元プロボクサーで、なぐり返す気持ちが薄れて休業中。マルさんは元
教員で、居候先からそろそろ定職に就くように言われている身。正体不明のサ
ダさんは、妻子を捨てて放浪中と言うが、実際のところは定かではない。譲り
受けた廃船を改造して大洋に乗り出すべく準備中だ。そう、3人が3人とも、
近々自分にけじめを着けなければいけない、ということを自覚しつつ、最後の
一歩が踏み出せずにいる意気地なし(=チキン・ハート)たちなのだ。そんな
中で、生まれて初めて生きがいを見つけたかのように日夜航海の準備に暇が無
いサダさんの放つ刺激が、残る二人を次第に動かし始める。
 舞台をアラーキーが開くおでん屋台に定め、連夜そこに集う3人の会話を中
心に展開する舞台演劇的な手法が冴える。そして、Mr.ビーンかぶれの松尾ス
ズキはともかくとして、忌野清志郎=サダがとにかくいい。もう最高なのだ。
突拍子も無い行動を繰り返すサダのキャラクターも、それと本人のキャラとが
重なる忌野が演じることによって、人物像に大きなリアリティが加味されて、
物語の説得力が倍化する。寡黙なはずの青年が、そのサダの行動についてなら
饒舌になる、という描写も、忌野=サダを思い浮かべられるからこそ、ほほえ
ましい。
 そして、三人の要のようなサダの人物像を前中盤で強く印象付けて置いて、
物語が急転するクライマックスで、彼についての悪い噂や、彼の幼少時を物語
る数少ない遺物を畳み掛けてくるという展開もまた素晴らしい。
 面倒な説明なしに、三人の関係やそれあぞれの心象をここまで描き出してし
まう脚本力に拍手。そして怪優・イマワノにスタンディング・オベィション!!
 余談だが(でもないか)、馬淵英里何ってほんとに正体のわからない女優だ。
タバコ屋のネエちゃん、えらくキレイだけど何かワケありっぽくて、うーん、
誰だ?と鑑賞中ずっと悩んでいたのだが、エンドロールを見て「!!」。そうだ
った。馬淵が出演していたのだった。さてはコイツか、あのネェちゃんは。ま
た七変化にやられた。。。「ピンポン」でパープリン女を演じて我々の目を欺いた
三輪明日美嬢共々、彼女も日本映画に欠かせない実力派性格女優の一人だ。明
日美嬢などは、スクリーンで客に自分と気付かれないことに快感を覚えていた
りもして、なかなかの役者魂なのだ。
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■「DRIVE ドライブ」(2002 日) オススメ度★★★★
監督/SABU 
出演/堤真一、柴咲コウ、安藤政信、筧利夫、寺島進、大杉漣、ジョビジョバ、
小林明実、ピエール瀧、松尾スズキ、木村郁美、松雪泰子、大森南朋、田口ト
モロヲ
□みどころ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
 面白い!
 何一つ道を踏み外したことのない、否、踏み外したくても外せない性分の青
年。ある日彼は、いつもの通り、決まった時間に決まった場所で決まった動作
をして心の安らぎを覚えているところを突然、銀行強盗一味の3人組に車ごと
拉致されてしまう。そして逃げた彼らの相棒を追って、めくるめく夢のような、
いやちがう、悪夢のような一昼夜の4人のドライブが始まる。そしてこの「出
会い」が次々に新たな出会いへ数珠と繋がり、一味はそれぞれに新たな人生へ
と踏み出して行く。最後に残った頑なな青年には何も起こらないのか・・・と、
思いがけぬ男の手引きでご先祖様と相まみえた彼は・・・
 誰もが自分の中に迷いや弱さを抱えている。それを自分の手で克服できれば
素晴らしいが、それができないからこその迷いや弱さなのだ。そして、運命に
身を委ね、人との関わりに身を任せた時、人生は思わぬ展開を見せ、1ステー
ジランクアップした自分に気付く。ポンと背中を押してくれるきっかけが、出
会いという偶然の中にはある。
 誰が主役という訳でもない本作の出演者リストを見ていて、思わず「豪華だ」
と唸ってしまうことが嬉しい。いつのまに日本映画の俳優の層はこんなに厚く
なったのだろう。今の邦画界は、日本人の「今」を体現できる新感覚の俳優た
ちであふれかえっている。本作で一際輝いているのは寺島進。扮した坊主の息
子得意の仏法説教を瞬時にしてパンクロックライブのアジへと転化させて見せ
た彼の感性と表現力の素晴らしさには圧倒されてしまった。生半可に演じれば
本人にも脚にも照れが生まれてしまうリスキーな、しかし本作一番の見せ場を
彼は見事に演じきった。
http://www.cinemabox.com/access_schedule/shinjuku.shtml
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■「夢なら醒めて」
 追加舞台挨拶(今度は南朋さんも交えて)9/25(水)
 サトウトシキ監督オールナイト10/5(土)(予定)
 詳しくは http://www.cinemabox.com/access_schedule/shinjuku.shtml
■国内外映画祭スケジュール・HP集
 以前特集した国内の映画祭ですが、その後、大小あらゆる映画祭のスケジュ
ールを網羅した恐るべきページを見つけました。山形国際ドキュメンタリー映
画祭のページ内にあります。ご活用下さい。
http://www.city.yamagata.yamagata.jp/yidff/links/links.html


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