恋愛映画特集 2002/10/03

 筆者の場合、なぜ映画を観るのか?と聞かれれば、「一生かかっても体験できないことを疑似体験させてくれるから」と答えることでしょう。そしてその「疑似体験」の筆頭にはもちろん「疑似恋愛」を挙げます。美しきヒロインに観客として恋をして、さらにそのヒロインを恋する主人公に自分を同化させて共にときめく。灰色の日常が2時間だけ、バラ色へと変わる!
 ということで今回は、主人公にグッと感情移入できそうな作品を選んでみることにします。テーマは、真摯な恋、期間限定恋愛、そして秘めたる恋。

■「火垂」(2000年 日) ★★★★★
監督/河瀬直美 (「萌の朱雀」)
出演/中村優子、永澤俊矢、山口美也子、光石研
□あらすじ
 奈良を舞台にくりひろげられる、ストリッパーと陶芸家との真摯に向き合った深い愛の軌跡。
□みどころ
 河瀬直美監督の、独特の長回しによる感情抽出手法が、愛をゆっくりと育てて行く主役二人の間に流れる静かな時間と、少しずつ溶けて行く根雪のように、わずかずつ、しかし確実に近づく人生の春の足音を見事に映像化。練り上げられたストーリーと演出のキレで、長編監督デビュー作「萌の朱雀」を超えた。
 この作品に脚本はあるのだろうか?そう疑いたくなるほど中村優子と永澤俊夫の交わす台詞は即興的で自然。そしてそれが近しい者どうしの間に流れる得も言われぬ空気感を醸し出している。
 河瀬監督は故郷・奈良にこだわりを持っている。そしてこの作品は、その奈良という風土なくしては成立し得ない世界を描いている。ねっとりとした人間関係。あくせくしない日常生活。先祖や親子の間の強い絆。そうした中で、流れ者と土着の人間との関係が生まれ、過去を捨て去る心の痛みが生まれ、互いを理解しようとする苦しみが生まれる。
 ドキュメンタリーに根ざしたドラマティックな演出。河瀬監督は着実に独自の映像世界を構築しつつある。

■「東京マリーゴールド」(2000年 日)★★★★
監督/市川準
出演/田中麗奈、小澤征悦、斉藤陽一郎、石田ひかり、寺尾聰、三輪明日美
□あらすじ
 相手の恋人が帰ってくるまでの、一年間の期間限定恋愛。申し出たのは女の方。男にとってはオイシイ話のはずだった。でも、その結末は。。。
□みどころ
 <恋には必ず賞味期限がある。出会った頃のときめきはいつか色あせ、情や愛や執着へと形を変えて行くもの。でも、最初にその期間を限定されたら、その期間内にきっちり恋を終わらせる自信はありますか?>
 「期間限定恋愛」。刻々とカウントダウンされて行く残り時間の中でどんどん深まって行く恋。迫り来る最後の日から目を背けるように、いつしか部屋まで借りて半同棲を続ける二人に姿があまりに切ない。
 ファニーフェイス・田中麗奈の装わないたたずまいは、市川監督が点描する恋人たちの街の風景に見事にとけ込み、観客の心を主人公の心に同化させて行く。設定のおもしろさに、説得力のある映像とキャスティングがマッチして、実に印象的でラブリィな作品に仕上がっている。

■「シラノ・ド・ベルジュラック」(1990年 仏。ハンガリー)★★★★★
監督/ジャン=ポール・ラプノー
出演/ジェラール・ドパルデュー、アンヌ・ブロシェ
□あらすじ
 大鼻の醜い男が生涯守り抜いたある貴婦人への秘めたる恋。
 彼女に惚れた若者に成り代わって、彼女に愛の詩を捧げ、戦場から恋文を送り続けるシラノ。年老いて、彼女の傍らで詩を朗読する栄誉を得た彼が最期に読んだのは。。。そして彼女は。。。
□みどころ
 壮絶である。「美女と野獣」が美談なら本作は現実である。色男揃いの社交界。醜く身分も低いシラノに勝ち目はない。それでも恋心を伝えたい。愛を捧げたい。なれば、色男の姿を借りて、持ち前の抜きん出た文才を以てそれを行おう。。。あまりに切ないこの選択。そして慟哭のラストへ。多くは語らない。ぜひシラノの気持ちに成り切って、彼の一生を体験してもらいたい。彼の生涯は不幸だったのだろうか?それとも幸せだったのだろうか?


koala TOP koalaの映画三昧 TOP koalaのミニシアター 映画メルマガ「movie times」 掲示板