J・H・アングラードの魅力爆発 「甘い嘘」で愛に酔え! 2002/10/13

 筆者の中では久々のフランス映画のヒット作。やってくれたのはまたしても愛の伝道師、ジャン=ユーグ・アングラード。東京では、東京国際映画祭開催日(10/26)までの公開となりそうなので、劇場に急げ!
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■「甘い嘘」(1999年 仏) オススメ度 ★★★★★
監督/マティアス・ルドゥー(初監督作)
出演/ジャン=ユーグ・アングラード、クロチルド・クロ
□あらすじ
 新進作家ジャンとその妻ミシェル。貧しい彼らにある日突然、向かいに住んでいた見知らぬ老人の豪邸ほか遺産一式が舞い込んだ。しかし、その理由もわからず、陰気な邸内、そして雇用継続が義務付けられた不気味な女執事。ひとつ、またひとつと、邸内から発見され、あるいは誰かの手によって届けられる写真や手紙、領収書、そしてビデオといった「証拠」の数々。若く美しき妻への信頼は、愛の深さ故に激しく崩れて行く。一体真実はどこにあるのか。嘘はどこに、誰にあるのか。支配者の意図は何なのか。愛の危機。なのに、ああ、なんたることか、その危機をまるで栄養源とするかのように、ジャンの新しい小説は残酷にも日々ページを新たに書き上げられて行く。果たしてその最終章にはどんな結末が書き加えられるのだろうか。ランプすらまともに灯らない屋敷の中で、一刻も目が離せない愛の試練のドラマが展開する!
□みどころ
 これはすごい。アングラードだけに甘い甘いお話かと舐めて懸かったら、完全にしてやられた。ヒッチコックもびっくりの、まさにサスペンス オブ サスペンス。それでいて愛がたっぷり詰まって、息もできないぐらいだ。タイトルの意味は、ラストのラストまでわからない。でも、それがわかったときの、天を仰ぎたくなるような万感迫る思いたるや!冒頭のシーンからのいきさつや、登場人物たちの表情の揺れが脳裏にフラッシュバックし、その一つ一つの意味が解けて行く。愛ゆえの信頼。愛ゆえの不信。愛ゆえの献身。愛ゆえの力。愛を知らぬ者、愛を信じぬ者には想像だにできない愛の秘蹟がこの物語のカギを握る。真実の愛を知る者は幸せである。愛の真実を知る者は・・・やはり、幸せなのである。片や、愛を知らない者は愛を憎む。愛を知らぬ者が愛を知る者に掛けた愛の罠。愛を知る者には、その愛こそが弱みである。一方、愛を知らぬ者には、愛への無知こそが脅威なのである。愛が勝つのか、愛への憎しみが勝つのか。あるいは、勝者など存在しないのか。
 キリスト教の祈りの一節に、「我らを試みに引き給わざれ」という好きな言葉がある。本作を見ていて、ふとそれを思い出した。
 「ニキータ」「恋の病い」「ベティ・ブルー」「裸足のトンカ」、そして「甘い嘘」。アングラードの代表作に列すること必定だ。
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 アングラードについては去年12月に一度特集しているので、その時に触れなかった作品からいくつか紹介してみよう。
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■「世界で一番好きな人」(1995年 仏) ★★★★
監督/アレクサンドル・アルカディ 共演/ジュリア・マラバル
□みどころ
 小児科医の許に突然現れたピアノの上手な少女。進行性の脳障害に冒された彼女は彼に執着し、彼は医師の職を捨ててまで彼女と生きる。しかし病状は極まり。。。
 長い歳月にわたって繰り広げられる純粋な一級の恋愛ドラマ。ただ、少女役のマラバルの可憐さに比して、長じた彼女の役を演じた女優には大いに失望。
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■「裸足のトンカ」(1997年 仏)★★★★
監督/ジャン=ユーグ・アングラード 共演/パメラ・スー
□みどころ
 引退を決意したスプリンターの前に突然風のごとく現れた走る妖精トンカ。 彼女は短期間で驚異的な才能を開花させ、彼に走る勇気と情熱を与え、また風のように彼の前から消え去った。それも永遠に。甘い思い出と胸の空白を抱いて、彼は海外遠征の機中にあった。。。
 アングラード第1回監督作。初監督とは思えない見事なまでの完成度。あらゆるシーンと登場事物が後段へのさりげなくも素敵な伏線となるように仕組まれた緻密な脚本も素晴らしい。彼女が彼に残した大いなる心の遺産を胸に再起への道を歩み出す彼の静かな心象で終わるラストがまたいい。
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■「キリング・ゾーイ」(1993年 米仏)★★★
制作総指揮/ウエンティン・タランティーノ 共演/ジュリー・デルビー
□みどころ
 タランティーノ総指揮による鬼気迫る銀行強盗アクション。アングラード=恋愛ドラマという固定観念を見事に打破してくれる異色作でもある。一度お試しを!
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■宮崎あおい、BS−i連ドラ出演中
 「ユリイカ」「害虫」で国際的評価を得た女優・宮崎あおいは現在、10月6日スタートのBS−i(デジタル放送)連ドラ「ケータイ刑事 銭形愛」(日曜23:00〜)に出演中。毎回30分で2クール(半年)。
http://www.bs-i.co.jp/zenigataai/
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■田中さんのノーベル賞
 島津製作所の社員研究員である田中氏がノーベル賞受賞。管理業務に向かないと自己分析してみせた彼に対し、社では彼を役員待遇に昇格させるとのアナウンス。これを見ていてふと思い出したのが、伊藤整原作の同名小説を増村保造監督が映画化した名作「氾濫」(1956年,主演:佐分利信・若尾文子)。小さな薬品会社での研究の末世界的商品を開発した主人公が、社の世間体のために役員に祭り上げられて研究の場を失い、挙げ句に社に持て余されて、管理能力欠如を殊更に問われて元の一研究員へと降格。しかし、その過程で一旦膨張し乱れた家族の暮らしや人間関係はもはや元には戻せず、宴の後にはまるで没落貴族のような無惨な家庭が残される。。。というもの。研究者のための装置作りを社是とする島津に限って研究員を担ぐような真似は絶対にしないと思うが、「待遇改善」によって田中氏の研究環境が悪化しないことを切に望むばかりだ。
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