やっぱり富樫森はホンモノだった! 2002/11/02

 富樫森監督の実質長編第二作となる「ごめん」が公開中です。名作との呼び声高い前作「非・バランス」のイメージを引きずることなく、今回は、やっと性徴期を迎えたほんの小学生が落ちる、大人以上に本気の恋を描き、またまた観る者の心に深い感動と与え、生きる喜びを呼び覚ましてくれます。予告編を観て、たかが子供映画、あるいはちょっとエッチなコメディなどとタカをくくってしまわないで、ぜひ劇場に足を運んで、あるいはやがて出るだろうビデオで全編を観賞して欲しい一作です。「非・バランス」に関しては以前一度簡単に触れたことがありますが、もう一度、ちょっと濃い目に紹介してみます。

■「ごめん」(2002年 日)★★★★
出演/久野雅弘、櫻谷由貴花、國村隼、河合美智子、森毅
□あらすじ  --- * --- * --- * --- * --- * --- * --- * --- * --- * --- *
 精通と共に急に沸き起こった異性への興味と興奮に戸惑う大阪の小学6年生・セイは、祖父母の住む京都に行った時、カワイイ少女に一目ぼれ。彼はやっとの思いで彼女の家を捜し当て、初恋にして遠距離恋愛が幕を明けた、かに見えた。でも、彼女はなんと中学2年生。そしてとんでもない気の強さ。おまけに、親は離婚していて、彼女が引き取られている父親は借金苦に喘ぎ、経営する喫茶店も風前の灯。なんという高い障害・・・それでも彼はガンバリ、二人の仲が深まったかに見えたある日、彼は果敢にも告白するが。。。でも、ドラマはこれだけでは終わらずに、変転の末意外な展開を見せる。どうなる彼女の運命。どうするセイ。どうなる二人の恋路。
□みどころ  --- * --- * --- * --- * --- * --- * --- * --- * --- * --- *
 セイがおっさんくさいというのもあるかも知れないが、「精通」という男には懐かしい思い出を重ねつつも、けっこう大人の恋愛劇として思わず引き込まれ、見入ってしまった。普通、子供の世界では、親たちの都合による引越しや
転校というのは、克服しようの無い別れの要因。これを切なく演出した子供ドラマは無数にある。ところが、この作品に登場する恋人たちにはそれがない。ねるとんでも「千葉と横浜」程度でお断りの定番理由である互いの家の在り処。ところが彼らは小学生のクセに大阪と京都の間を訳もなく移動して逢瀬を重ねる。だから、彼女が最後通牒のように突き付けた事実をものともしない彼の最後のあのキメ台詞は、異様なまでの説得力と真実味を帯びてくる。大人でもあきらめざるを得ないような恋の障害をものともしない、この一途さを大人たちよ、見習うべし!(かく言う私が一番・・・)
 パワフルなのは彼らだけではない。マセてはいるが、所詮小学生。しかも性的なことへの興味は大人以上とあって、とにかく感情の表現がストレート。彼も友達も、告白しまくるワ、歯に衣着せず他人の恋にちょっかい出すワ。屈託が無い。関西というてらいのない風土もあって、人生なんて結局恥で固められたもの、と言わんばかりに、フラれてもコケにされても、男の子も女の子も、積極果敢に自らの恋愛道を貫いて相手に自己アピール。まわりの大人たちも、包み隠し無く自らの人生を子供たちにも曝し、ただでも情緒不安定な彼らに容赦無く新たなストレス、新たな刺激を与える。ここには、「教育」といった大人対子供の図式ではなくて、子供たちが大人の世界にもみくちゃにされ、傷だらけになりつつ、自らの力で「成長」してゆく過程がある。本論からは外れるが、イジメられっ子に対し先生が、「やられたらやり返せ。それができなければ、うまく逃げろ」と言うシーンが好きだ。そうなんだ。人生、そんなに甘くはないのだ。こうした大人に<<守られない>>子供の世界を見ていると、「大人は判ってくれない」などといったフランス映画をつい思い出してしまった。
 上映期間が短いようなので、チャンスを逃さないように劇場へGO!

 そうそう、余談ですが、富樫監督は相米慎二監督監修の「ポッキー坂恋物語 かわいいひと」で監督デビューしたんですよね。この作品のエンドロールに、<映画を教えてくれた 相米慎二へ>と書かれていて気付きました。「sWinGmaN」「パコダテ人」の前田哲監督もそうでした。
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■「非・バランス」(2000年 日)★★★★☆
出演/派谷恵美、小日向文世
□あらすじ
 チアキは、中学に上がるときに、厳しい学生生活を生き抜くために、二つの誓いを立てた。すなわち、
(1)クールに生きて行く
(2)友達は作らない
 小学校の時、親友、だと思っていたクラスメートにひどいイジメを受けたことが、未だに彼女を苦しめていたのだ。クラス誰とも口をきかない。関わり合いにならない。同級生なんて、恋人なんてクダラナイ。でも、それとは裏腹に彼女の心は救いを求めていた。そして、彼女はある日、何でも願いを叶えてくれるという伝説の<ミドリノオバサン>に遭遇する!思わず駆け出して助けを求める彼女。ところがそれは、この世で誰よりも助けが必要な、孤独な年老いたオカマのキクちゃんだった。。。こうして知り合った二人は、互いの人生に深く足を突っ込み合いながら、時に傷つけ合い、時に癒し合いながら、めくるめくひと夏を共に過ごすことになる。そしてチアキは、今まで逃げてきた人生の障害に真正面から向き合って立ち向かうことの大切さを学び取って行く。自分の人生には,結局自分で落とし前を着けるしかないんだ・・・
□みどころ
 素晴らしい作品。心の垢がスーっと剥がれ落ちる思い。説教がましい理屈もヌキ。何も考えずにファンタジーに身を委ねられる。
 とにもかくにもキクちゃんを怪演した小日向文世の存在が大きい。悲しい人生を悲しく見せない根っからの道化・キクちゃん。そして、最後は逆にチアキに勇気づけられて、忽然と姿を消したキクちゃん。やっぱり彼女(?彼?)こそがミドリノオバサンなんじゃないかな?彼のてらいのない演技は、観る者をすんなりとそんなファンタジックな気分に引き込んでくれる。ケセラセラ!ビバ!ラ・ビータ!!
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★仙台PFFに「BORDER LINE」「月の砂漠」を観に行くゾ!
 11/3・4と仙台までぴあフィルムフェスティバルを観に遠征します。
http://www.pia.co.jp/pff/24thpff/sendai/top/index.html
 目当ては、バンクーバー国際映画祭で審査員特別賞を受賞し、プサン国際映画祭にも出品が決定している、前田綾花主演作「BORDER LINE」
http://www.pia.co.jp/pff/24thpff/sendai/scholarship/main/border_line/link_index.html
と、青山真治監督の新作であり、奥様・とよた真帆さんとの出会いともなった「月の砂漠」
http://www.pia.co.jp/pff/24thpff/sendai/invitation_works/main/aoyama/link_index.html
です。

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