至福のとき & 映画祭上映新作情報 2002/11/13

 今回は、チャン・イーモウ監督期待の新作「至福のとき」観賞速報と、東京国際映画祭・ぴあフィルムフェスティバルin仙台で上映された新作映画の速報をお届けします。
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■「至福のとき」(2002年 中国)★★★★☆
監督/チャン・イーモウ
出演/チャオ・ベンシャン、ドン・ジエ(新人)
HP/http://www.foxjapan.com/movies/happytimes/
   http://www.sonyclassics.com/happy/
□オススメ文
 またイーモウがやってくれた。まさに現代中国版「街の灯」だ。軽い笑いから体を震わせる涙まで、見事な構成力で観客を導いてくれる。悲劇に襲われた子供への、深い慈しみから出たウソと、それに気付いても敢えてそのウソに甘んじる子供。この思いやりの応酬はフィリップ・ド・ブロカの名作「陽だまりの庭で」を彷彿とさせる。
 またアイドル発掘ものか、とか、また感動を狙った作品か、とか、観る前にはあれこれと猜疑的になったりもしたのだが、わかりやすいプロットでありながら結末やそこに至る過程を観客に容易に予想させないところに、あらためて監督のすごさを再認識させられた一作だ。
□あらすじ
 40過ぎて独身。結婚を焦る主人公の失業者が、見合い相手に前夫が残した連れ子の面倒を見させられる。連れ子は全盲の少女。見合い相手は彼に少女を厄介払いして、さっさと別の金持ちと結婚してしまった。主人公は、はじめこそ見合い相手に気に入られるためだったが、しかし次第に情は移り、最後は実の父親よりも深い愛情を彼女に注ぐ。しかも、彼は彼女に安心させるため、何から何までウソで固めてしまった。これがまた悲しみを誘う。詐欺師と言われればそうかもしれない。でも、優しさから出たウソは、決して人を深く傷つけはしない。稚拙なウソのオンパレード。彼女はとっくにそれを見ぬいていた。でも、彼の精一杯の、いや、身の丈以上の優しさは、継母やその息子に虐待され続けて冷え切った彼女の心を温め、忘れていた笑顔を取り戻させる。彼女が十分成長していて、ウソが稚拙だったことは、二人にとって幸いだったのかもしれない。彼女は、愛に飢えていた。彼女が欲しかったのは、愛だけだ。愛の存在を信じさせてくれるだけでよかったのだ。彼はそれに十分答えた。彼は、自分の正体が明らかになってしまうことすら考えもせず、彼女の目の回復を心底祈り、願う。この悲しき愛に観る者の胸は震え、嗚咽が抑え切れない。
□みどころ
 数々の過去の名作からエッセンスを取り入れつつも、決してあざとくもならず、また単なるコピーにも決してしない素晴らしい物語の創造力。失業や貧富の差、家族の崩壊など、現代中国の光と陰をしっかりと映像に焼き付けつつ、観客に笑いと大きな感動を与え、商業映画の本質とも言えるエンターテインメント性をしっかりと両立させる構成力。今最も世界で信頼のおける監督と言いきってもいい。感服だ。
□チャン・イーモウをもっと知りたい!
 彼の過去作については、今年の4/5号掲載記事「活きる」で紹介済み。詳しくは、筆者のサイト
http://www.asahi-net.or.jp/~ns8m-hgc/movie/column/minicolm.htm
内の、当該記事のバックナンバー:
http://www.asahi-net.or.jp/~ns8m-hgc/movie/column/COL113.HTM
を参照されたい。
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           <<<最新作レビュー>>>
 10月下旬〜11月上旬にかけて行われた東京国際映画祭、そして夏に始まり順次全国巡回中のぴあフィルムフェスティバルで上映されたコンペ作品および招待作品からいくつかをピックアップして簡単にレビューしてみます。

■「卒業」(2002 日)  ★★★☆
   監督/長澤雅彦    出演/内山理名、堤真一、夏川結衣
 ストーリーの面白さもさることながら、舞台挨拶で出演者も口をそろえていたように、裏方のプロの仕事が光る一作。好天続きの撮影でもどんよりした曇天に見せてしまうなど序の口で、特にめを奪われたのは雨降りの演出。本物の雨天では撮影できないので、当然人工降雨なのだが、これがハリウッド映画でさえ見たことがないほどのうまさ。そして圧巻はラストの雪。降りしきる冷たい雨が一瞬降り止んだかと思うと、白いものがちらちら。雪に変わったんだ!そして次第に降りが強くなるとともに、湿った光景はサーっと乾き、透明感を増して行く。この映像効果が息を呑むほど素晴らしい。

■「戦場のピアニスト」(2002 仏独波英)   ★★☆
  監督/ロマン・ポランスキー カンヌ映画祭パルムドール(最優秀)受賞
 ヨーロッパよ、おまえはいつまでナチの亡霊に怯え続けるのか?「ライフ・イズ・ビューティフル」も含め、未だにドイツに対するあてつけのように作り続けられるナチ・ユダヤ人迫害関係作品にはほとほとウンザリ。ナチ占領下にあっても自分を保ち続けたある男を内省的に描いた本作も、人物設定の面でやや観るべき点があるものの、ある種セルフィッシュで共感を覚えるに足る人物像でもなく、少なくとも日本人にとってはさしたる感銘を呼ばない作品だ。ただ、主人公のピアニスト・シュピールマンが奏でるピアノの調べだけは、胸に染み入る素晴らしさ。

■「JamFilms」 (2002 日)★★★ 
 若手7監督による無テーマ・短編オムニバス。共通テーマがないのでオムニバス化に今ひとつ意味を見出しにくいが、集めて長尺化することで興行を容易にしたということだろう。面白いアイデアなので、今後はテーマを決めるなり、新人監督の作品をベテランの中に混ぜ込んでデビューの場を提供するなりといった発展が期待される。
 独自の世界観をうまく短編に凝縮させたのは北村監督。センス抜群の爆笑ギャグ満載で最も楽しませたのは堤幸彦監督(TRICK)。無難にまとめた篠原監督。相変わらずの望月監督。岩井・飯田・行定各氏は、短編の特性を生かせず、プロットもイマイチで、やや期待はずれ。 (http://www.jamfilms.com/)

■「月の砂漠」(2001 日) 監督/青山真治 ★★ 
   出演/三上博史、とよた真帆、柏原収史、碇由貴子
 夢に向かって走り続けたあげく、たどり着いたのは友も家族もいない不毛の砂漠。道を失い、行くも戻るも地獄、というのが砂漠のイメージなのだが、どうしたことか青山監督、妙に安易な砂漠脱出への「答え」を提示してしまった。撮影を通じて深まった現夫人(とよた真帆)との関係が監督の心象に変化をもたらしたのか。それに、バブル崩壊後10年以上も経った現在に於いて、IT革命の寵児の猛烈な仕事中毒ぶりが招いた悲劇、というテーマは、いささか時代遅れであり、また使い古された感が否めない。

■「いたいふたり」(2002 日)★
  監督/斎藤久志 出演/西島秀俊、唯野未歩子
 深く愛し合い過ぎて、互いに相手の身体的痛みを共有してしまう症状に苛まれる新婚カップルの騒動記。アイデアはおもしろいが、こうした症状が招く様々な事態に関するネタ出しが不十分で、30分程度の短編がせいぜいの内容。これを約2時間に引き伸ばされたのだから、見ている方は退屈でたまらない。

■「BORDER LINE」(2002 日)監督/李 相日(リ・サンイル)★★★☆
  出演/沢木 哲、前田綾花 麻生祐未、光石 研、村上 淳
 バンクーバー国際映画祭アジア部門審査員特別賞受賞。親を殺し、北へと逃亡を続ける少年の物語を軸に、同じく家族や人生に絶望を抱いた更に二人の人物の人生をこれに交錯させて描くロードムービー。実話がヒントになったという主テーマを、3人の物語へと膨らませた監督の構成力、物語創造力が見事。そして、登場人物の心象に「天候」をリンクさせた演出も見事。奇跡のようなキャスティングも含め、見応えある一作。救いのない暗い物語は苦手だと語る監督が、こうした人々の人生にどんな光をさしかけるのかに注目して鑑賞してほしい。
http://www.pia.co.jp/pff/24thpff/sendai/scholarship/main/border_line/link_index.html

クチコミ
「OUT」★★★☆
2時間以内によくぞこれだけのエピソードを無理なく入れ込めたものと感服。仲間が犯した殺人の後始末に仲間が協力し、そしてそれが彼女たちの人生の展望へとつながって行く過程がしっかりと描き込まれていて、おもわず引き込まれる一作。

「9デイズ」★★★☆
 加齢を感じさせず、喜々として現役CIA部員を演じるホプキンスの健在ぶりとチャレンジ精神、そしてストーリーの面白さで、満足感が高い一作。



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☆第3回東京フィルメックス 開催間近!
 回を追うごとに驚くべき進化を遂げるこの映画祭。今年は、世界で高く評価された塚本晋也監督の「六月の蛇」や黒澤清監督の「アカルイミライ」がいち早く招待上映され、コンペには「害虫」ラストに女衒役で登場した伊勢谷友介の初監督作「カクト」がエントリーするなど、話題満載。
http://www.filmex.net/2002/compe.htm

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