この秋、絶対に見逃せない日本映画二本 2002/11/24

 見落とせない日本映画新作二本として、シンガー・UAを主役に抜擢した話題作「水の女」と、古きよき日本映画全盛期への郷愁と現代の日本映画界への痛烈な批判に満ちた「ラストシーン」を紹介。

■「水の女」(2002 日) 監督/杉森秀則  ★★★☆
□出演/UA、浅野忠信、YUKI、小川眞由美 http://www.hikariyu.com/
 UA、浅野忠信、YUKI共演という夢のような実験的作品。ラストシーンの印象からして、UAの歌うエンディングテーマ「閃光」一種のPVと位置付けることもできる。
 結婚目前でフィアンセも父親も一瞬にして失った、生まれついての雨女。傷心旅行に出かけて帰宅してみると、見知らぬ男が留守中に住み着いていた。火が好きだというその男に彼女は、家業の風呂屋のボイラーマンにならないかと勧める。こうして、素性も過去も知らないどうしの奇妙な共同生活が始まる。でも、漠然と「永遠」を思い描く彼女の心とは裏腹に、男が予言したとおり、確実に、そして衝撃的に、終わりの日はやってきた。。。
 名も知らぬ男と女が築き上げる愛欲と癒しの世界。形を変えた「ラスト・タンゴ・イン・パリ」だ。二人しか登場しないこうした空間が好きだ。フランス映画的と言ったらいいのか。非現実的だからこそ、映画に求める世界観。つかの間、一生実感することの叶わぬこうした夢幻空間に観客を誘い込んでくれる。こんな脆い世界を、映画初主演のUAと、日本一ラフな俳優・アサノが、究極的に純粋な表現で見事に演じあげた。期待通りの快作だ。
 おまけとして、舞台となった風呂屋という職種に関する豆知識的な話題もちりばめられていて、こちらでも楽しめる。煙突掃除、ボイラー室、燃料、富士の絵。その中で、開店前までの半日で描き上げられる壁面いっぱいの富士山の絵は圧巻。この感動は、床面から一続きに描かれた夕映えの富士が画面いっぱいに広がるラストでさらに倍化される。
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 アサノとミュージシャンとのコラボと言えば、後に奥様となったCharaと共演した岩井俊二作品「Picnic」が思い出される。技巧に走らず、いつも自然体に演じる彼の演技は、素人であり感覚的な表現者であるミュージシャンの演技と相性がいいのかも知れない。
■「Picnic」(1996 日) 監督/岩井俊二 ★★★
 精神病院から塀づたいに冒険旅行に出かける3人の入院患者の若者たち。道中出会った教会の神父に手渡された聖書に書かれた神、世界観と、彼ら個々の世界観とが交錯、旅は思わぬ悲劇的な結末を迎える。。。
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■「ラストシーン」(2001 日) 監督/中田秀夫 ★★★☆
□出演/西島秀俊、麻生久美子、若村麻由美、麻生祐未、大杉漣、竹中直人、
ジョニー吉長、小日向文世、野波麻帆 http://www.omuro.co.jp/lastscene/
 華やかな映画の世界にも、テレビの出現により影が差し始めた1960年代。コンビを組んでいた人気女優の突如の結婚・引退により威光も消え、居場所を無くした虚飾のスター俳優がいた。そしてテレビ全盛の現代。テレビ局のバックアップによる映画の撮影現場は、かつての活気も映画への愛も失い、新旧世代の映画を愛するスタッフの心さえ離れて行きつつあった。そんな瀕死の現場に、名もない老人の役で、かのスター俳優が戻ってきた。もはや彼を知る人もわずかで、しかも彼らに残る彼の記憶は決して芳しいものではない。しかも健康を害し、時間重視のテレビ的現場にあってNGを連発する彼に、スタッフの苛立ちは募る。しかし、彼の映画に残した思い、そして「死ぬ前にもう一度、映画に出演したい」という強い執念を知ったスタッフの女性(麻生久美子)が彼の出演シーンを守るために発した一声が、だらけきったスタッフを我に返らせ、この老俳優の人生のラストシーンとなる最終カットを実りあるものとすべく動き出させる。
 「リング」で一世を風靡した中田秀夫監督による、古き良き日本映画へのオマージュ。受け身で映画を楽しむ我々には知る由もない映画制作の裏側、そしてテレビ局全盛の今日における現場の活気低下。かなりデフォルメされてはいるのだろうが、映画人が自ら描いているのだから、かなり思い当たる面もあるのだろう。映画を愛する筆者にとっては、立場は麻生久美子演じる現場スタッフのそれに近い。もし本当に現場がここまでダラケ切っているとしたら、大きなショックだ。
 往年のスター俳優が西島秀俊、というのはややキャラクターが弱いが、その欠点は、まさに映画華やかなりし頃のスター女優を演じた麻生祐未、そして映画好きが嵩じてスタッフになったものの、映画への愛と情熱に欠ける現場に徒労感を覚える女性を演じて、「命」に引き続く助演として強い光を放った麻生久美子の両女優の存在感が補って余りある。
 そして、老スターを演じたジョニー吉長がいい。台詞が詰まらずに言えるか、気づけばスタッフと同じように、筆者も手に力が入り、固唾を飲んで画面に見入っていた。この人、ジョー山中とも組んだことのあるミュージシャン。ミッキー・カーチスのようなキャリアだ。ジャン・ロシュフォールか大泉滉かというような立派な顔立ちと、それと裏腹な素人っぽい演技。このギャップが、本作での老俳優の経歴とあまりにマッチしている。詳しいプロフィールは
http://www.omuro.co.jp/lastscene/profile.html を参照されたい。
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 最近、西島秀俊をやたら映画で見かける。昨年の「世界の終わりという名の雑貨店」に始まり、「クロエ」、「Dolls」、本作、「いたいふたり」。そして12月公開の「すべては夜から生まれる」が期待されるところ。特に出演ペースが速まったわけではなく、たまたま新旧作品の公開時期が重なったようだ。伊藤英明とダブるキャラクター、そして線の細さが気になるが、崩れのある美男子、といった役どころで、主役にこだわらずに新境地を開拓して欲しいところ。
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 12/14(土)、かの山田広野氏が今年も活弁オールナイトという暴挙に挑戦。渚ようこのライブも付いて、楽しいイベントになりそう。
http://www.katsuben.net/
http://www.cinemabox.com/access_schedule/shinjuku.shtml
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