トモロヲを探せ!? 日本映画のウォーリー、田口トモロヲ 2002/12/04

 田口トモロヲ。今やNHK「プロジェクトX」の語り手として不動の地位を築いてしまった感があるが、この人の本業は映画俳優。それも、日本映画を陰で支える究極の端役俳優。そのカルトな活躍振りは、彼の名前を知らずして日本映画ファンを自称するなかれ、と言われるほど。
 一口に端役俳優、脇役俳優と言っても、実態は様々。しかし、脇役でありかがら有名になっている俳優となると、やはり麿赤兒や田中要次、ベンガルなど、濃いキャラの持ち主が多い。ところが、田口トモロヲはその対極。エンドロールで名前が流れて初めて出演していたことがわかり、客席にどよめきが走るという、正体を消しての出演が大半。その道の有名人なので、彼を出演させた場合、どんなチョイ役でも出演者リストにクレジットされる場合が多く、それがまた彼の知名度を上げて行く。こうしたキャラクターの有名俳優は、彼以外では、徳井優(引越しのサカイCMで有名)ぐらいしか思い浮かばない。あ、そうそう、若手の、それも女優で、三輪明日美嬢が早くもこの境地に達しつつある、というのはちょっと末恐ろしく思い当たるか。
 田口トモロヲの場合、顔にもさしたる個性がなく、しかもオカマやフーテンなど、扮装に身を包んでの登場も多く、最初から出演していることがわかっていても見落としてしまう程。しかし、彼の歴代出演作を見てみると、その輝かしきラインナップには驚かされる。デビュー20年、いや、実質的なデビューである1988年からはわずか14年にしてクレジットされた分だけでも既に130本を超える出演作のなかからその一部を紹介してみると・・・
 メジャーどころでは「さわこの恋」(1990;斉藤慶子主演)、「ヌードの夜」(1993;竹中直人主演)、「カンゾー先生」(今村昌平監督)、「あした」(1995;大林宣彦監督)、「不夜城」(1998;金城武主演)、「富江」(1999;菅野美穂主演)、「アンドロメディア」(1998;SPEED主演)、「東京日和」(1997;竹中直人)、「ケイゾク」(2000)、「御法度」(1999;大島渚監督)、「ピカレスク 人間失格」(2002;猪瀬直樹原作、河村隆一主演)、「MONDAY」、「お墓がない!」「man-hole」。
 岩井俊二監督作品では「Undo」「Love Letter」「打ち上げ花火」「スワロウテイル」「FRIED DRAGON FISH」。
 塚本晋也監督作品では「鉄男」「鉄男II」「双生児」「バレット・バレエ」、そして最新作の「六月の蛇」は、ヴェネチア国際映画祭で審査員特別賞受賞(監督)。
 挙げ句の果てには「うなぎ」(1997;今村昌平監督)でカンヌ映画祭パルムドール(最優秀賞)受賞の栄誉に与っている。
 このリストはそのまま、この15年の日本映画の歴史そのものと言っても過言ではない。邦画のおさらいを兼ねて、彼の出演作を一気に見直して見て、ついでにトモロヲ探しをやってみる、というのはどうだろう?
 そんな彼にも、主演作はある。塚本晋也監督作品に二作、「鉄男」「鉄男II」、そしてサブ監督の「弾丸ランナー」などなど。「鉄男」は、体からボルトや針金、果てはドリルが生えてくるという、とんでもない奇作なのだが、こうした宿命を背負ってしまった男の悲哀が出ていて、けっこう楽しめてしまったりする、塚本初期の傑作シリーズだ。
 そして今まさに、彼の待望の新作主演映画が公開中である。その名は「理髪店主のかなしみ」。ひさうちみちお原作漫画の映画化で、脚フェチでマゾな理髪店主の身に起こる嬉しくも裏悲しい騒動を描いた作品である。またもや奇作・・・
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■「理髪店主のかなしみ」(2002年 日) ★★★ 監督:廣木隆一
出演:田口トモロヲ、柄本明、須之内美帆子、ひふみかおり、千原靖史、中村麻美、ひさうちみちお
オフィシャル:http://www.slowlearner.co.jp/movies/rihatuten/index.shtml
上映館:いまのところ、テアトル新宿だけ。イベント目白押し。
□雑感
 「かなしみ」っていうか、「よろこび」でしょ?
 脚フェチでマゾの理容師が、ひょんなことから憧れの美脚の女神によって事件に巻き込まれる。彼女が彼に接近してきたのは、ワナか、それとも愛か?それでも彼は、愛する姫を救うため、妄想と現実の交錯する中で、「敵」に敢然と立ち向かおうとする。やっかいなのは、彼がマゾであること。これが、もしかすると悪意かもしれない彼女の調子を狂わせもする。なぜって、彼は彼女に足蹴にされると、逆に喜んでしまうのだから。彼は彼女と添い遂げられるのか?そんな興味も、果たして彼が彼女にこっぴどく捨て去られることに悲しみを感じるのかどうか?という疑問によって混乱させられてしまう。そこがまた面白いのだ。
 ところで、エンドロールで気付いたのだが、中村麻美嬢は一体どこに登場していたのだろう?原作者のひさうちみちお氏は、確かに出演してるのを確認したのだけれど。
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■『続魁!山田広野の活弁天国』オールナイト開催決定!
 平成の活弁士、山田広野を知っていますか?え?無声映画の語り手?まあ、それはそうなのですが、なんと観てびっくり、彼は映画まで自分で作ってしまっているのです。自分で作ったナンセンスな無声映画に、これまたナンセンスな語りを付けて、絵と音と、二度オイシイ抱腹絶倒の山田広野の活弁ワールド。筆者も、水戸短編映像祭で初めて観て以来病み付き。その広野氏が、なんと夜通し活弁をやってしまうという恐るべきイベントが今年も開催されます。
 とき:12/14(土)深夜24:00〜
 ところ:テアトル新宿
http://www.cinemabox.com/event/event.cgi?2
これに来れない人も、山田広野氏が全国で催すライブがある!詳しくは
http://www.katsuben.net/
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■おもしろい本発見! 〜松尾スズキ著「大人失格」〜
 松尾スズキと言えば、自身の率いる劇団「大人計画」の演出家であり、また日本映画に欠かせない個性派俳優でもあるが、そんな彼がマガジンハウスに連載したエッセーを大幅にふくらませた文庫が出版されている。その名も「大人失格」(光文社 知恵の森文庫)。仙台にピアフィルムフェスティバルを観覧に行った際に会場のロビーで見つけて衝動買いしたのだが、いやこれが面白いの何の。とても電車の中では読めない。腹筋痙攣しまくりで、肩は揺れ、口元は緩む。周りの乗客に気味悪がられること必至だ。ぜひお試しを

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