koala賞は「カクト」by伊勢谷友介! 第3回東京フィルメックスから作品紹介 2002/12/14

 12/1〜12/8に東京は有楽町界隈で開催された映画祭「第3回東京フィルメックス」。昨年までのこじんまりした雰囲気とは打って変わって、今年は、ヴェネチア国際映画祭で審査員特別賞を受賞しての凱旋国内初公開となる塚本晋也監督の「六月の蛇」をはじめ、黒沢清監督の新作「アカルイミライ」、サブ(SABU)監督の新作「幸福の鐘」が何れも初公開、さらにはコンペ部門に出品された俳優・伊勢谷友介の長編初監督作品「カクト」、雨上がり決死隊の宮迫が主演した同じくコンペ部門の「蛇イチゴ」など、邦画のラインナップが素晴らしく、マスコミにもおおきく取り上げられるなど衆目を集める祭典となった。一ヶ月前の「東京国際映画祭」で初公開された「Jam Films」や「卒業」、ぴあフィルムフェスティバルでは青山真治監督の「月の砂漠」も合わせ、今秋の映画祭は、実力派日本人監督の健在振りと邦画の快調さを見せ付ける場となった。
 筆者もしがない勤め人故、時間の制約(と、体力の限界)から全作品を観る余裕はなかったのだが、作品内容紹介からノミネートした上で、新作は特別招待・コンペ合わせて7作品を鑑賞。その中で筆者一番のオススメ作は、新鋭・伊勢谷友介長編初監督作(是枝裕和監督プロデュース)の「カクト」に決定!(^○^) もともと監督志望だったとは言え、新人離れした<カワイクナイ>手腕には正直驚きを隠せない。特別招待作品三作の中では、荘厳なタイトルでカマをかけて微妙に観る者の予想を外してみせた小憎いSABU監督の「幸福の鐘」を推薦。
 これらの映画祭公開作の多くは、新年早々〜春にかけて相次いで劇場公開される予定となっている。それぞれ過去に大きな実績のある監督の手による作品なので、鑑賞前に同監督の旧作を今から<予習>してみるのも一興だろう(特に「六月の蛇」の塚本監督!)。
 それでは簡単に各作品を紹介してみよう。気に入った順にネ(^_^)b
 正式な各賞はhttp://www.filmex.net/2002/whatsnew.htmで。

■「カクト」(日) 監督:伊勢谷友介 オススメ度:★★★★
出演:伊勢谷友介、伊藤淳史、桃生亜希子、周防玲子、寺島進、香川照之
□あらすじ
 若くして田舎から東京に出たものの、闇世界との関わりから抜け出せなくなった若者(伊勢谷)の許へ、田舎から何も知らない彼の親友(伊藤)がひょっこり訪ねてくる。夢と現実の中で揺れる伊藤は、伊勢谷のダチ公と共に、伊勢谷の絶体絶命の危機に巻き込まれ、嵐のような一夜を共にすることになる。
□みどころ
 是枝裕和監督第一回プロデュース、俳優・伊勢谷友介長編初監督作。
 斬新かつ的確な映像処理に、キレのいいカット割。初メガホンとは到底思えない快作。テイストは行定勲監督の「ロックンロール・ミシン」に近く、プロットは単純かつ明確。日ごろ、モデルとして殊更にカッコヨク撮られることが多い彼の実像は、実はこの映画で彼が演じるキャラクターに近いとは本人の談。名刺代わりに撮った作品だと照れる彼に、並々ならぬ才能のきらめきを見た。

■「幸福の鐘」(日) 監督:SABU オススメ度:★★★★
出演:寺島進、西田尚美、鈴木清順、板尾創路、篠原涼子、益岡徹
□あらすじ
 製鉄所の閉鎖によってクビになった中年男がふらりと蒸発し、その道中で彼は、様々な人生模様に遭遇する。めくるめく出会いと経験のあと、ハタと我に返った彼は。。。
□みどころ
 邦画ベテラン監督による新作三本の中では筆者一番の推薦作。
 名バイプレーヤー寺島進が無言劇に挑んだ意欲作。果して彼は言葉を発するのか、彼がいかなる家庭環境にあるのか、荘厳(?)なタイトルの意味する結末とは?そんな興味に惹き付けられて、最後までスクリーンから目が離せず、一気に楽しめる、監督一流のひねりの効いた快作だ。

■「小雨の歌」(台湾) 監督:連錦華(リェン・チンホァ) オススメ度:★★★★
主演:陳湘[王其] (チェン・シアンチー)
□あらすじ
 何と祖父と結婚して、故郷の中国を離れ、新天地を求めて台北へと密入国してきた少女・燕子(イェンツ)を軸に、大陸人たちの夢を残酷に飲み込んで行く台湾の厳しい現実を詩的に描く。
□みどころ
 流民にはあまりに厳しい台湾の現実の描写、果てしない絶望感や、路傍の犬を介した出会いと友情、そして別れの演出。後味の悪さNo.1の尾を引く秀作だ。

■「蛇イチゴ」(日) 監督:西川美和 オススメ度:★★★☆
出演:宮迫博之、つみきみほ、大谷直子、寺島進、手塚とおる、蛍原徹、笑福亭松之助
□あらすじ
 一見平和なサラリーマン家庭の虚飾が、勘当中のフーテン・ホラ吹き息子の帰還とともに引き剥がされ、家族は不幸のどん底に落ちる。。。
□みどころ
 是枝裕和監督による、「カクト」(伊勢谷友介監督)に引き続く第二回プロデュース作品。向田邦子を髣髴とさせる、食卓や居間の空間を軸にした家族ドラマ。評価すべきは、脚本の良さと、映画初主演のコメディアン・宮迫の意外な程の好演。まだまだテレが残るものの、俳優としての可能性を十分にアピール。
 演出面では、場面の移り変わりにことごとくキレを欠き、せっかくのストーリーの面白さを生かしきれなかったところが反省点か。しかし、それを割り引いても、ラストシーンが残す何とも言えない開放感は素晴らしい。監督・主演ともに次作に期待!

■「六月の蛇」(日) 監督:塚本晋也 オススメ度:★★★
出演:黒沢あすか、神足裕司、塚本晋也、寺島進、不破万作、田口トモロヲ、鈴木卓爾
 ヴェネチア国際映画祭審査員特別賞受賞
□あらすじ
 性交渉のない仮面夫婦が、その美しき妻の肢体を狙ったストーカーの介入によって性的に目覚める。
□みどころ
 監督が「鉄男」制作時に半ば書き上げ、温めつづけた脚本。それだけに、テイストは洗練された「双生児」や「バレット・バレエ」よりも「鉄男」に近い。圧巻は、全編に渡って降り続く激しく陰鬱な雨。これと黒沢あすかの肌ににじむ「汗」が、淫靡な香りを一層強めている。塚本ファンは必見の一作。

■「チキン・ポエッツ」(中国) 監督:孟京輝(モン・ジンホイ) オススメ度:★★☆
出演:チン・ハイルー、チェン・ジェンピン
□寸評
 書けなくなった詩人が、養鶏業を興して成功した元詩人の許を訪ね、そのまま居候を決め込む。一見、成功者と落伍者の対照に見えるが、その実、商業主義の嵐の中でもがく80年代族の処し方をデフォルメしたものとも言える。「中国映画史上初」という前衛的でポップな演出が楽しいが、メッセージを理解するには、中国世情に関する深い知識が要求されるドメスティックな作品でもある。

■「アカルイミライ」(日) 監督:黒沢清 オススメ度:★★☆
出演:オダギリジョー、浅野忠信、藤竜也、笹野高史、りょう、加瀬亮
□寸評
 フリーター志向でキレやすい。そんな現代若者層と、彼らを雇用する立場にある中年世代との、埋めようもない深い溝を、「クラゲ」を媒介にして暗い映像で綴る、黒沢監督一流の後味の悪い一作。世代間の理解よりも未来の明るさよりも、クラゲが気持ち悪い!ちなみに映像面では、デジタルハイビジョンを用いた実験的な作品でもある。


koala TOP koalaの映画三昧 TOP koalaのミニシアター 映画メルマガ「movie times」 掲示板