夜を賭けて 2003/01/15

■「夜を賭けて」(2002年 日韓) オススメ度:★★★★
監督/金守珍(俳優) 第一回監督作
出演/山本太郎 ユー・ヒョンギョン、唐十郎、奥田瑛二、風吹ジュン、樹木希林、李麗仙、清川虹子、六平直政
HP/http://www.yoruwo-kakete.com/
<渋谷シネ・アミューズ、新宿武蔵野館にて上映中!>
□あらすじ
 俳優・金守珍の初監督作品。梁石日(ヤン・ソギル)の同名小説の映画化。
 アジア最大の武器工場であった大阪砲兵工廠の爆撃跡に眠る金属を夜毎掘り出しては金に替えて生計を立てている朝鮮人居留区の住民たちの、明日なきも力強い日々と、日本や祖国・北朝鮮の政治的な力によってやがて訪れる転機や別れを、日本社会の最下層にしっかりと息づく人々の発する音楽と声と肉体の躍動によって鮮やかに描き出した渾身の一作。
□みどころ
 居留区の若きリーダー格の青年・金義夫を演じた山本太郎の魅力が弾け、その恋人・新井初子を演じた柳(ユー・ヒョンギョン)の美貌と凛とした存在感が深く印象に残る。
 六平演じる金村利正を筆頭に、とにかく彼らのテンションはむちゃくちゃ高い。寄ればすぐに掴み合いの喧嘩。ただでも狭い室内に耳をつんざく怒号が飛び交い、なけ無しの食料が無残にも床に、壁にとぶちまけられる。最初の30分は、このあまりのエネルギーレベルの高さに驚き、正直なところ気分が引いてしまう。胡散臭い金属ブローカーとして登場する唐十郎がカッコ良かったりするのだが、そう言えば全編、彼の率いる劇団の芝居を観ているようでもある。そう、人物の配置や絡みが、とても舞台的なのだ。殊更に目をむき、舌を突き出して表情を大きく作り、場面の状況よりも一層声を張る。絵として一番美しいのは、荒くれ男たちがこぼれおちそうになって小さな船に乗り、野望を剥き出しにした表情で船の行く先、つまりはカメラを睨み付けるシーン。予告編にもあった、あのシーンだ。
 こうした男たちの躍動感に、クレイジー・ケン・バンドが歌う素晴らしい主題歌がさらに彩りを添える。
 演じる俳優たちも、日本人、朝鮮人を含め、皆思い切りのいい演技で、まるで演じることを心の底から楽しんでいるよう。それがまた観客である我々に伝わってきて心地よい。
 ──────────<<関連作品紹介>>──────────
 韓国・朝鮮人をテーマにした作品としてまず思いつくのは近作の「GO」(行定勲監督:窪塚洋介・柴咲コウ主演)だが、時代背景からすると、本作は「キューポラのある町」や「修羅雪姫 怨み恋歌」(梶芽衣子主演)に近い。北朝鮮からの帰国招請に揺れる在日朝鮮人たちの描写は「キューポラ」と共通し、また、クライマックスの展開はこの「修羅雪姫 怨み恋歌」に酷似している。ここでは、ビデオ・レンタル可能な「キューポラ」を簡単に紹介しよう。
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■「キューポラのある町」(1962年 日) オススメ度:★★★★★
監督/浦山桐郎 主演/吉永小百合、浜田光夫
□あらすじ
伝統の鋳物工場にも自動化の波が押し寄せ、昔ながらの職人が無用となりはじめた川口市。作業中の事故で負傷して働きが悪くなって工場をクビになった昔気質の鋳物職人一家が主人公。困窮を極める家計に、長女(吉永)の修学旅行や高校進学もままならない。そんな中、彼らと共存する朝鮮人労働者たちの「北」への引き上げが始まり、町には別れの季節がやってくる・・・。
□みどころ
 労働者の街の底辺に息づく人々の日常、苦悩、喜び、大人と子供それぞれの世界における人種問題を、見事な演出で生き生きと描き出した秀作。浦山の監督デビュー作でもある。吉永は盲腸炎手術直後の悪コンディションを押して出演。アイドル絶頂期とは思えない相当な汚れ役を見事演じ切り、女優魂を見せつけている。
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 「夜を賭けて」でも一段と輝く山本太郎。彼の過去作では、今般逝去された深作欣二監督の「バトルロワイヤル」、そして本作同様、日本国内の韓国・朝鮮人社会を描いた「GO」(行定勲監督)、そして安保闘争が目指した「革命」が疑心暗鬼に満ちた「狂気」へと変貌して行く断末魔を鮮やかに描き出した秀作中の秀作「光の雨」(高橋伴明監督;萩原聖人・裕木奈江・大杉漣共演)が挙げられる。ぜひこの機会に観賞して頂きたい。

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