キス★キス★バン★バン 2003/02/04

■「キス★キス★バン★バン」(2000年 英) オススメ度:★★★★☆
監督/スチュワート・サッグ
出演/ステラン・スカルスガルド クリス・ペン ポール・ベタニー
上映/シブヤ・シネマ・ソサエティほか
HP/http://www.gaga.ne.jp./kisskiss/
□あらすじ
 後継者の教育を終え、あるまじき引退を決行した殺し屋フィリックス。そんな彼に紹介された仕事は「子守り」。子守りとは言っても、その子=男・ババはもう30過ぎ。過保護な父親の束縛で、全人生を地下室で送ってきたババは、知能はまともなのだが、極端な世間知らず。早々に地下室での子守りに飽きたフィリックスは、ババを外に連れ出す。一方で、フィリックスをつけ狙う怪しい影が。。。
□みどころ
 この作品を一言で表現するなら、人間の尊厳と愛の賛歌。人生を長いトンネルの中で棒に振ってきた3人、いや、フィリックスの恋人も入れれば4人か、が、ほんの少しの勇気と愛を取り戻し、実りある新たなステージへと乗り出して行く物語。自らの孤独と無意味な人生に見てみぬ振りをしてきたフィリックスと、それすら知らなかったババ。この二人を出会わせて、それぞれがそれぞれに影響を与え合って成長してゆく。明確なテーマとわかりやすいストーリー、そして脇の登場人物たちの卒の無さ。悲しい出来事さえも肯定的にに見せてしまう一貫した前向きさ。そして粋なエンディングの演出。
 レディースディというのもあって、夕刻の劇場前には長蛇の列ができ、場内はほぼ満員の盛況。この映画館でこんなに客が入っているのは初めて見た気がする。
 そして、この盛況ぶりも大いにうなずけるこの作品のすばらしさ。公開開始から年末年始を挟んで一ヶ月あまり経って未だの混雑ぶりには、やはりクチコミで話題を呼んでいった「アメリ」に似た漏りあがりを感じる。
 男性は殺し屋の哀愁と粋なエンディングに酔い、女性は、生後30年たって初めて外の世界を知ったババの、ファンタジックに描かれるめくるめく経験にほほえみ、、、男も女もそれぞれに楽しめる素晴らしい娯楽作品だ。

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 ぎこちない子育てもの、ということで、関連作品を紹介。
■「八日目」(1996年 仏) ★★★
監督/ジャコ・ヴァン・ドルマル
出演/ダニエル・オートイユ、パスカル・デュケンヌ、ミュウ・ミュウ
□かいせつ
 家族との絆を犠牲にしてまで働くことに疑問を感じ始めていたプロのセールスマンと、亡き母の面影を追って施設を一人抜け出したダウン症(蒙古症)の青年との心の交流をファンタジックに描いた異色作。
 「レインマン」や「まぼろしの市街戦」を彷彿とさせるストーリー展開。決してハッピーエンドでもなく、身障者に対する「思いやり」を強制する啓蒙的な内容でも無いところがハリウッド作品とは一線を画すところ。弱者であるはずの身障者も、振る舞い様によっては、彼らに対する真の愛情を持たない=自信の無い人々に対しては恐怖と圧力を与え、強引に主張を成就させ得る強者にもなれるという発想がユニークであり、目から鱗のある種の痛快感がある。
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■「コーリャ愛のプラハ」(1996年 チェコ) ★★★★
監督/ヤン・スビエラーク
□かいせつ
 職を失った中年で独身の一流チェロ奏者ロウカが、儲け話に乗っての偽装結婚の末、ひとり亡命を果たした「妻」が残した息子コーリャを育てるハメに。
 子供嫌いが子育てをするドタバタの中に、東西冷戦〜ベルリンの壁崩壊〜東欧社会の解放に至る世相が反映され、国際的な展開が感動を巻き起こす秀作。
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■「長屋紳士録」(1947 日) ★★★★
監督/小津安二郎
□かいせつ
 八卦見の田代(笠)が九段で拾ってきた迷子の子供を、子供嫌いのおたね(飯田)が面倒をみることになった。彼女は事あるごとに子供を叱りつけるが、次第に情が湧いてくる。そして同居1週間後、本当の子供として養って行く決心をした矢先、ひょっこり子供の父親(小澤)が現れる。。。
 子供嫌いの子育て騒動記の原点と言えばこの作品。一部には「コーリャ」のモチーフになったのではないかと噂される程。単純なプロットとたまらないおかしさ。小津ものが苦手な人にもぜひ奨めたい一作。
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■「グロリア」(1981年 米) ★★★★
監督/ジョン・カサヴェテス
出演/ジーナ・ローランズ、ジョン・アダムス
□かいせつ
 ギャングの一味として荒れた半生を送ってきた独身女グロリアが、ひょんなことから組織が追う少年をかくまってしまい、見捨てられずに一味をひとりで敵に回し少年を守ってニューヨーク・ブロンクスからピッツバーグへ、薄氷の子連れ逃避行をするハメになる。。。
 「キス★キス★バン★バン」に最も近いのがこの作品。
 並み居るギャングの手下相手に拳銃片手の仁王立ち。持ち前のハッタリと機転で次々と窮地を脱する展開は痛快そのもの。そんな彼女が時折見せる母の顔や、女の表情が、得も言われぬ安堵感を与えてくれる。

■「ジャッキー・ブラウン」(1997年 米) ★★★★
監督/クエンティン・タランティーノ
出演/ロバート・フォスター、サミュエル・L・ジャクソン、バム・クリアー、ロバート・デニーロ、マイケル・キートン、ブリジット・フォンダ
□かいせつ
 中年スチューワーデス=ジャッキー・ブラウンが、負の人生と決別すべく、腐れ縁の武器商人と警察とを手玉にとりつつ一世一代の大芝居を打って、ブラックマネー50万ドルを掠め取ろうとする、超カッコイイ黒人女性が主役のノリノリ痛快ムービー。
 「グロリア」をベースに、タランティーノの音楽や映画、そして日本への愛が遺憾無く表現されている。「レザボア・ドッグス」の技法を踏襲しつつ更に洗練したといえる本作。50万ドル受け渡しへ向かう三者三様を或る時は同時進行で、或る時は別進行で、テンポのいいカット割りを駆使して緊迫感たっぷりに描かれている。

<koala>

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