”メジャーなカルト”「アレックス」byノエにハマレ! 2003/03/04

★「アレックス」  オススメ度★★★★(★〜★★★★★)
監督/ギャスパー・ノエ
全国で上映中(http://www.walkerplus.com/tokyo/latestmovie/mo1742.html)

☆あらすじ
 「時間はすべてを破壊する。」パーティから一人抜け出したガールフレンドが○○○され、○○をむちゃくちゃに・・・。ある、取り返しのつかない事件の発生に至った経緯を遡って行くことで、逆に原題でもある「Irreversible」即ち、
戻れない、取り返しのつかない「時間」というものの残酷さを思い知らせる。

☆みどころ
 <オススメはできませんが、観てみます?>これがこの作品を観た人の合言葉。ノエ・ファンは冒頭の前作を引き継ぐカットから既にニンマリ。そうでない人も、開始15分後には構成意図がわかって、ひそめていた眉をもとに戻し、ノエ独特の映像に引き込まれて行く。そして誰もが、やりきれない思いが渦巻く深い余韻を胸に無言で劇場を後にし、ハマった人も合わなかった人も、生涯この奇作の記憶を消すことができない。。。
 カルトと言われつつも、その明確なプロットとストレートな語り口でファンを増やし続けるノエ監督の、間違いなく最高傑作だ。
 G・パルトロウの「スライディング・ドア」は、「もしもあの時・・・」という誰もが経験する「後悔」「タラ・レバ」をやさしく映像化した作品だった。しかし本作は、「歴史に『もし』はない」を地で行く残酷な現実を容赦なく突き付ける。それでいて、映像は、主人公の脳裏に渦巻く「後悔」の念そのもの。「運命は、はじめから決まっているものなのよ。」という恋人の悲しい「予言」まで思い出させる惨さ。この屈折や矛盾こそが、ノエのノエらしいところ。そして、観客の忍耐の限界を試すかのようなおぞましいオープニング・タイトルや暗く乱れた映像。怖いもの見たさに、ぜひ。ハマっても、知りません♪
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 ギャスパー・ノエの人気過去作二作を紹介。「アレックス」では、冒頭部で「カノン」を引き継ぐ登場人物が登場し、彼のコメントが重要な物語の契機となるので、これら過去作を観てから、「アレックス」を観るのがオススメ。

★「カルネ」(1991年 仏) オススメ度 ★★★★

 「カルネ」とは、フランスで好んで食されている馬肉の赤さと安さに対する軽蔑を込めた俗称。そしてこの映画は、ある馬肉屋(馬肉は、一般の牛肉とは違う、馬肉専門店で販売されている)と愛娘の物語である。 「アンダルシアの犬」も
「デリカテッセン」もびっくりの、生きた馬の解体シーンで幕が開く。画面いっぱいの血の洪水と、息あるままに腹を、首を裂かれ、皮を剥がれる馬の切ない表情に、すっかり戦意喪失させられた状態で見せられる40分のエログロ短編には、父と娘の端目には異常な、しかし本人たちにとっては至って自然な静かな愛の日々と、そこに至る14年の歴史、そして見事な女体に育った娘の姿に混乱する父=男の「今」が焼き付けられている。そして、不気味な音響と共に頻繁に差し挟まれる字幕画面には、ゴダール=ヌーベル・バーグの残像が見て取れる。
キワモノとの評判が高かったこの作品、正直、観る前はもっとえげつないナンセンスものかと思っていた。でも、40分が標準長の作品と同様に思える充実した全編には、父の娘に対する愛と、それに身を任せる娘の無垢が満ちていて、意外な満足感に浸ることができる。ゲンスブール父娘を彷彿とさせる配役もgood。

★「カノン」(1998年 仏) オススメ度 ★★★★

 馬肉屋のオヤジと美しい娘の危うい日常を描いた前作「カルネ」の続編。 初潮でパンツについた血を強姦と勘違いして刃傷沙汰を起こし、娘は施設に引き取られ、自らは服役し、店も家も失った馬肉屋のオヤジ。本作では、出所後転がり込んだスナックのママにつかまり、そのまま妊娠され、ママの郷里へと都落ちしたオヤジが、屈辱と抑圧に絶えかねてパリに舞い戻り、葛藤の末ついに我が娘と結ばれるまでを描く。

前作「カルネ」の内容は本作の冒頭でダイジェスト紹介されるので問題ないが、やはり予め鑑賞してから本作を観るのがオススメ。
確かに表現方法は個性的で時に奇抜。メディアでも、そうした面に注目した紹介が大部分だったのだが、実は本作(前作もそうだが)、ちっとも難解ではない。ゴダール以降、ニューウェーブの映像作家たちはとかく、映画の常識を破ることに力点を置き、観客の存在には表向き注意を向けない姿勢をとる傾向が強かった。
本作も、随所に挿入される画面いっぱいの挿入文字や、大音響とシンクロした映像の展開には、そうした新鋭の気風が伺える。が、表現の意図は至って分かりやすく、オヤジがこの世で唯一深く愛する娘への切々たる思いが伝わってくる。
父の心を知ってか、そっと微笑み父にまとわりつくもの言わぬ娘シンシアがあまりにいじらしい。

<koala>

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