<前田綾花>で観る新作映画2本 / PFFスカラーシップ作品 2003/07/16

 前田綾花という女優をご存知だろうか。かつて、行定勲監督の「閉じる日」に出演して、象徴的な少女の役で強い印象を残した彼女は、あの邦画のミューズ・麻生久美子や、三輪明日美・ひとみ姉妹と同じ事務所に所属する新進女優。以前にも「パーフェクト・ブルー 夢なら醒めて」の公開時に紹介したので、記憶されている方、あるいは、チェックされた方もお出でかも知れない。
 演技者というより、穏やかな中に強い意志を感じさせるその独特な面立ちを生かして、ただ黙して立ち尽くすとか、無口な少女とかいった具合に、象徴的な役どころとして使われることが多い彼女。演技力という面ではまだまだ未開発・未知数なところも多いのだが、さすが麻生さんを擁する事務所だけあって、主演・助演を含め、出演作が目白押し。すごいペースでキャリアを積み上げている状況。(実は、同じ行定監督の「GO」にも出演していたのだが、本編ではカットされてしまったらしく、また「バトルロワイアルU」では、オーディションでは選外となりながら、何とメイキングに登場している)昨年後半の「夢なら醒めて」(DVD化済み)の記憶も醒めないうちに、早くも今、二本の新作が同時に公開されている。うち一本は、彼女が初めて(後にも先にも)明るい役に扮した、沖縄が舞台のラブコメ「サマーヌード」。もう一本は、3年前のぴあフィルムフェスティバルでグランプリほか全4部門で受賞した李相日(リー・サンイル)監督の手による、偶然が偶然を呼んで5人の人生が交錯する壮大なロードムービー「BORDER LINE」。物静かに見える彼女だが、現場では監督と撮影方針についてかなりのバトルを繰り広げるらしいというウワサも。そんな新人女優は、この作品の後も、素手に取り終えた公開待ちの作品が目白押し。
彼女の出演作、というのをキーワードにして作品を物色して行けば、ある種邦画のインディーズシーンを総観できる状況となっている。映画に強い事務所に所属しているだけに、邦画ファンとしては、彼女の今後の展開から目が離せないところ。
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■「BORDER LINE」 ★★★★☆ http://pff.jp/border/
監督/李相日(リー・サンイル)
共演/村上淳、麻生祐未、光石研、都はるみ
劇場/渋谷 ユーロスペース
□あらすじ
 殺人を犯した少年が自転車で広島から東北まで逃げ延びたという実在の事件にヒントを得ながらも、それに李監督がたっぷり肉付け。家族というものに大きな不信を持ちつつも捨て去れない5人の人々の人生が、偶然を重ねつつ交錯してゆくさまを追う壮大なロードムービーへと昇華させた。
□みどころ
 中心は、父親を殺して逃亡する少年(沢木)。そこに、まるで糸の切れた凧のように根のないタクシー運転手(村上淳)が、彼を車に乗せて送るハメになるという、まさにナビゲート役(狂言廻し)として絡み、誤解が重なって深まった親との心の溝を埋められないまま孤独を満たすように援助交際へと身を落としてゆく女子高生(前田)、組の金を持ち逃げしたチンピラと、相棒である彼を殺すハメに陥ったうだつの上がらない中年のヤクザ(光石)、そして、夫のリストラ、息子のイジメで崩壊した家庭になおもしがみつこうとする主婦(麻生)の計5名の人生が相互に交錯してゆく。
 緻密に構成された脚本と、的確な配役に見事にプロとして答えて見せた性格俳優たちの確かな演技、そして、駆け出しのキャリアながら臆することなくこうしたクセある俳優たちを自在に動かせた監督の演出力があいまって、非常に完成度が高く、観る者に深い印象を残す見応えある作品となっている。
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■「サマーヌード」 ★★★☆ http://www.buttercine.com/summernude/
監督/飯塚健
共演/野波麻帆、あさりど、きたろう
□あらすじ
 明日は何が起こるかわからない・・・。「運命」をキーワードに、南海の楽園、常夏の石垣島を舞台に、わずか2日の間に起こった、恋と命にまつわるさまざまな物語が交錯する。
□みどころ
 最近の沖縄ムービーブームに乗って公開された作品ではあるが、ロクな演出もせずに現地の俳優の「素(す)」のおもしろさを前面に押し出したものとは違って、台詞回しにもちゃんと演出が効いていて、<平良とみ>に象徴される沖縄ものがどうも苦手、という人にも問題なく観賞できる出来映え。
 愛する人に思いを伝えたい。様々な人のそうした願いを乗せた大花火の打ち上げに向けて、ドタバタコメディはクライマックスへと一気に収束して行く。<きたろう>や<あさりど>といったコメディアンたちをはじめ、ほどよくコミカルな演出が場内を終始笑いに包む。演出の流れの中で、こうした笑いを呼ぶシーンと、心理描写に重点を置いたシーンとの動と静のメリハリが絶妙に効いていて、軽いギャグでも笑いのツボを突いてくる。
 このところ、評論家受けを狙っていたずらにひねくれた作りの邦画(インディーズ系洋画も同じ)が多い中、こんなに素直に心から笑える映画は逆に貴重。久々に映画を観て爽快感が残った気がする。一日先、一秒先は誰にもワカラナイ。だから、今を精一杯輝かそう!そんな前向きなエネルギーをもらえる映画だ。
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 さて、李相日監督のデビュー作「青〜Chong〜」は、ビデオ化もされておらず、なかなかお目にかかる機会がないのだが、ちょうど先週からこの作品を世に出したぴあフィルムフェスティバル(PFF;http://www.pia.co.jp/pff/top.html)が東京を皮切りに全国展開を開始していて、いくつかの開催地域では、その特別上映企画として観るチャンスがあるかもしれない。東京では残念ながら先週の日曜日に上映が終了してしまったが、関東近郊では、仙台でも比較的大規模なフェスが催されるので、見落とした方はそちらを狙ってみてはどうだろうか。
■「青〜Chong〜」 ★★★☆  李相日監督 PFF2000グランプリ受賞作
 異国・日本の中にあって朝鮮人コロニーを、民族アイデンティティーを守り抜こうとしている在日朝鮮人たちの日常を、高校野球への加盟が許可された朝鮮学校の学生たちと、子供たちの日本人との恋愛や結婚という「裏切り行為」に戦々恐々とする大人たちの二面から描き出す。
 上にも書いたが、あの「GO」よりこちらが先に作られている、ということを念頭に置いてご覧頂きたい。素人と言っていい映画学校の学生たちを使いながら、自主映画色を感じさせない監督の演出力が光る。
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 PFFでは、コンペ受賞者に対して次回作の製作を支援するスカラーシップ制度を実施している(http://www.pia.co.jp/pff/scholarship/index.html)。李監督の「BORDER LINE」もそのひとつ。このラインナップからお気に入りを紹介すると・・・
■「空の穴」 ★★★★
監督/熊切和嘉 出演/寺島進、菊池百合子
 北海道でドライブ中に男に捨てられた少女・妙子(菊池)。空腹と傷ついた羽根を癒すために、彼女はひなびたドライブイン「空の穴」に転がり込む。そこの息子でコックをする青年イッちゃん(寺島)は、彼女の出現と振る舞いに戸惑いながらも、彼女を受け入れ、やがて愛し始める。彼も又、幼い頃に突然消えた母が残した心の傷が癒えずにいた。心のすれ違いにも気付かずに共に過ごした数日間。互いが互いの傷を癒した時、別れの日が訪れる。。。
 女の子の心の繊細さと、それを包みきれない男のもどかしさ。絶妙に織り込まれたおかしみを楽しみつつ、随所で胸が締め付けられもする。「時代屋の女房」を彷彿とさせる、切ないラブストーリーだ。
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■「タイムレス・メロディ」 ★★★☆
監督/奥原浩志 出演/青柳拓次、市川実日子、近藤太郎、余貴美子
 ピアノ調律士、ビリヤード場に住み付いて無為な時間を過ごす青年、青年の友人で、母らしくない母から海外移住に誘われている少女、ビリヤード場に出入りする戸籍の無い男、凍て付いた夫婦生活に限界を感じつつも心の繋がりを信じる男。この五人の孤独な人々が織り成す空虚な時の流れ。彼らは互いに接触するのだが、その関係には驚くほどに互いの心の交流を欠いている。。。
 娯楽的でも芸術的でもない作品なのだが、映像が雄弁で、説明も無いまましきりと観る者にメッセージを投げかけてくる。そして、「時の流れ」が季節感や事物の変化といった尺度を借りることなく映像化されている点も高い評価に値する。
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■「二十歳の微熱」 ★☆
監督/橋口亮輔 助監督/篠原哲雄 出演/袴田吉彦、片岡礼子
 う〜ん、ホモ・レズの世界は苦手なり〜〜。でも、男女だけだとワンパターンになってしまう人間関係も、こういう中性的な人物を介在させると俄然バリエーションが豊富になって、ドラマを面白くしてくれる、という要素は認めてもいいかも。そしてこの作品のもう一つの価値は、インディーズ映画のミューズ、片岡礼子の初出演作である、ということ。
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■「裸足のピクニック」 ★★
監督/矢口史靖 出演/芦川砂織、Mr.オクレ、泉谷しげる、あがた森魚、鈴木砂羽
 運命の落とし穴にはまりこんでしまった主人公の奇妙な体験を描いた、和製「Uターン」的ストーリー。設定にはどこにも飛躍はなくて、決してあり得ない話ではない。でも、それだけに(?)よけいに可笑しさが募る。
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■「自転車吐息」 ★
監督/園子温(「自殺サークル」)
 高校を卒業して、居場所も目的も失った少年たちの心に浮かんだのは、かつてクラスメイトたちと撮影した未完成の自主映画。彼らはそれを完成させようとするが。。。
 う〜ん、正直言ってこれはつらい。評論家受けはするのかも知れないが、登場人物たちの行動が常軌を逸していて、もはやその心象風景を推し量ることができず、かといってファンタジックな描写でもないので、結局は異常者たちの常人には理解できない世界と成り果ててしまっている。断片的には面白い表現や主題も感じ取れるのだが、ここまでリアリティを欠いてしまうと、気持ちが引いてしまう。若手映画作家独特の独善的な世界。
 ただ、映像の処理は決して稚拙ではなく、商業映画としての品質を備えている。


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「キャンディ」 
 マーロン・ブランド、リンゴ・スター、ジェームズ・コバーンまで引っ張り出して作られた大いなるおバカ映画だけれど、主演のミューズ、リナ・オリンの可愛さだけでにやにやしつつ2時間が満足裏に過ぎてしまう。ポスターやチラシの彼女に恋した男性諸氏なら、観てみて損はなし。 <koala> ★★

「ターミネーター3」 
 いけない、いけない、悪役だぞ、と言い聞かせながらも女ターミネーター「TX」のキュートな魅力に引き込まれてしまって自己嫌悪。未来ものなのに全編を支配するレトロ感は全二作を踏襲。アクションも迫力満点で、大満足。★★★★★<koala>

「夏休みのレモネード」
 題名からは想像もできないほど宗教宗教した内容。このギャップは「ポネット」並。好奇心豊かな子供がユダヤ教ラビの子息を天国を餌に「改宗」させようとするお話、とも取れるので、外国では「PG」マーク付き上映。そのあたりを覚悟して観るなら、多感な少年の一夏の成長物語として楽しめる。 <koala>★★★


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