続々公開! 昨年の映画祭参加作品たち 2003/08/06

 昨年後半にかけて開催された「東京国際映画祭」「東京フィルメックス」「ぴあフィルムフェスティバル」に出品された邦画・アジア映画の小作品が、既に紹介した「BORDER LINE」(PFF)や、そろそろ上映が終了しそうな「六月の蛇」(TFX)に続けとばかり、次々とと劇場公開されています。上映が開始されたもの、まもなく開始されるものを一挙に紹介します。最近観たい映画がないなぁと思ったら、昨年に映画祭で新作を見過ぎていたことが原因だった、という、筆者のような贅沢な悩みを抱える人も関東には多いのかも?
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■「カクト」 ★★★★ 
監督・主演/伊勢谷友介 共演/寺島進
公開/渋谷シネ・アミューズ(上映中)
□あらすじ
 羨望を浴びながら田舎から東京に出て暮らしている青年が、慣れきったと思いこんでいた大都会で無防備に築き上げた危険な交友関係にわずかなほころびから亀裂が生じ、一気に命さえ危険に曝す状況へと追いつめられる、悪夢のような一夜を含む四日間を、田舎から彼の許を訪ねた純朴な青年との対比に中で描く。
□みどころ
 是枝裕和監督第一回プロデュース、俳優・伊勢谷友介長編初監督作品。
 東京フィルメックスで観賞した中ではこれがマイ・ベスト。
 俳優はいつも製作現場を見ているので、ひとたびメガホンを取るといい映画を撮る場合が多い、とよく聞くが、本作を観ると、そんな定説もしかりと納得させられてしまう。 
 若者が罪の意識も皆無なままヤクザやドラッグに触れ合ってしまう都会の闇を、自然なストーリー展開の中で簡潔に描き出した構成力、脚本力は驚異。その上、ドラッグが引き起こす幻覚の映像表現も独創的・挑戦的で実に素晴らしい。ラストの結び方には賛否あったようだが、所詮、悲劇的結末にするか収拾を付けるかの二択でしかないのだから、あとは観る者の好みの問題だろう。
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■「蛇イチゴ」 ★★★★
監督/西川美和 出演/宮迫博之(雨上がり決死隊)、つみきみほ
公開/渋谷シネ・アミューズ(9/6〜)
□あらすじ
 平和なサラリーマン家庭。堅物の娘(つみき)は結婚を間近に控える身。ところが、勘当中のフーテン・ホラ吹き息子の帰還とともに、この家庭の虚飾が引き剥がされ、家族は不幸のどん底に落ちる。思考停止に陥る両親と犯罪の香り強い兄に挟まれ、呆れた恋人にも見放された娘に兄が残したのは、20年の時を経て届けられた真実の証だった。。。
□みどころ
 是枝裕和監督による、「カクト」(伊勢谷友介監督)に引き続く第二回プロデュース、西川監督初長編。
 場面転換のキレの悪さ、意味不明な映像効果など、監督にとって研究すべきいくつかの課題はあるが、そんな些細な技術的問題など吹き飛ぶほどにストーリー展開がおもしろい。そして、この作品最大の功績は、家族なら殺意さえ覚えるに違いない筋金入りのドラ息子を怪演した宮迫を俳優開眼させたこと。キャスティングを見たときにはウケ狙いの布陣かと思ったのだが、その先入観はいい意味で裏切られた。
 テイストは向田邦子ドラマ風の食卓劇で、物語の流れやメリハリも心地よく、観て誰もが素直に楽しめる一作。オススメ。
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■「六月の蛇」 ★★
監督・主演/塚本晋也  主演/黒沢あすか、神足裕司
公開/渋谷シネアミューズ、有楽町シネ・ラ・セットほか公開中
□あらすじ
 自分を理解し、受け入れようとしない夫に欲求不満を抱く妻が、その心の隙に入り込んできたストーカーによって大胆に解放され、「女」として開発されてゆく。
□みどころ
 監督が「鉄男」シリーズよりも前から10年越しで温めてきたプロット、という事実を知って観れば、監督の作品の進化からは取り残された感にも納得できる。演技よりも映像としてのインパクトを期待して起用した神足氏は邦画として見た場合には表現力を欠くが、海外では監督の意図どおり高評価。監督の熱烈なファンが多いイタリアでは、「鉄男」を彷彿とさせる演出も効いてか、ヴェネチア国際映画祭審査員特別賞を受賞。
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■「藍色夏恋」 (映画祭公開時「藍色大門」)★★★☆
監督/イー・ツーイェン 出演/シァ・シャオユィ 
公開/日比谷シャンテシネほか公開中
□あらすじ
 高校三年生の夏、親友が思いを寄せる男の子に、その親友に頼まれて接触するうち、逆に付き合ってしまうヒロイン。でも、同性の親友と異性の彼氏、そのどちらが本当に大切なものなのか、彼女に答えは出せない。そして、自信も夢も未来の展望もない彼女にとって、将来を見据え、洋々たる前途が広がる彼は、あまりにもまぶしかった。。。
□みどころ
 主人公の二人は共に監督が「台湾の渋谷」と別称される繁華街でスカウトしたズブの素人。だが、スカウトされた学生たちによるオーディションを兼ねたASAYANばりの1ヶ月に及ぶハードなトレーニングと、本番前の入念なリハーサルによって、手垢のついていない実際の学生だからこそのヴィヴィッドな感情表現が見事にフィルムに焼き付けられ、非常に完成度の高い作品となった。
 単純なストーリーだし、気の利いた台詞があるわけでもない。若者たちの風潮はどこの国も同じなのか、彼らの話す言葉の語彙は少なく、一つのシチュエーションでは同じ台詞の繰り返し。だが、これにまたリアリティがある。彼らは彼らなりにイントネーションを変えてみたりして、それなりに感情の動きが込められているのだ。テレビドラマの経験が豊富な監督によるリアリティを大切にした作風に、台湾の「今」を感じ取ることができる。
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■「幸福の鐘」 ★★★★
監督/SABU 出演/寺島進 公開/渋谷シネアミューズほか(秋〜予定)
□あらすじ
 製鉄所の閉鎖によってクビになった中年男が、殺気立った職場の喧騒を後に、ふらりと蒸発する。その道中で彼は、様々な人々と不思議な出会いを重ね、その果てに、まるで啓示を得たかのごとく我に返り、もと来た道を、妻の待つ我が家へと引き返す。
□みどころ
 気が付くと、主人公は放浪中全くの無言。この「気が付くと」がミソで、無言とは思わせないほどに寺島進の表現は雄弁で全く違和感がない。この面白い演出と寺島進の名演技を楽しむだけでも、一見の価値有り。そして、最後にはサブ監督ならではの、思いもよらぬオチが用意されていて、こちらも楽しみ。本作は、東京フィルメックス招待上映作品。
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■「月の砂漠」(2001 日) ★★ 
監督/青山真治 出演/三上博史、とよた真帆、柏原収史、碇由貴子
公開/テアトル池袋ほか(9/6〜)
□あらすじ
 夢に向かって走り続けたあげく、たどり着いたのは友も家族もいない不毛の砂漠。。。
□雑感
 道を失い、行くも戻るも地獄、というのが砂漠のイメージなのだが、どうしたことか青山監督、妙に安易な砂漠脱出への「答え」を提示してしまった。撮影を通じて深まった現夫人(とよた真帆)との関係が監督の心象に変化をもたらしたのか。それに、バブル崩壊後10年以上も経った現在に於いて、IT革命の寵児の猛烈な仕事中毒ぶりが招いた悲劇、というテーマは、いささか時代遅れでもある。でも、閉塞感の極まった昨今、こういう逃げ道のある物語が必要とされているのかも知れない。

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