最新作紹介 「セクレタリー」&「名もなきアフリカの地で」 2003/08/20

■「セクレタリー」 ★★★★ 8/11 シネマスクエアとうきゅう
□あらすじ
 自傷癖を抱えたリーの心を射たのは、""Secretary""の響き。早速彼女は、募集中のエドワード法律事務所に出向いて面接を受け、見事採用される。与えられた仕事は、タイプと電話番。延々と打ち続く単調で退屈な時間に、彼女は快感を覚える。そして、しばらくたったある日から、エドワードによる仕事から性癖に至るまでありとあらゆる事に関する激しい叱責の日々が始まる。しかし、思わぬ事に、彼女はその折檻に快感を覚えてしまう。それを見たエドワードは、自制心を失うことを恐れて、心に背いて彼女を遠ざけ始める。。。
□みどころ
 「秘書」。その響きがイメージさせるのは、雇い主との二人きりの静かな時空間。誰もが垣間見たいと思うその隠微な世界への妄想を、この映画は見事に具現化してくれている。それも、セクハラとか、サドマゾとか、そんなエログロな話ではなく、もっと高貴な陶酔感を以て。予告編でワクワクして観に行っても、その期待以上のものを与えてくれる、そんな満足度の高い映画だ。主人公が、第三者的に見てある種「異常な」世界に踏み込んで行くだけの理由付けがしっかりと為されているところが高評価。結末も大いに納得。こうした背景構築がないと、即ピンク映画やAVのように薄っぺらな作品に転落してしまうのだが、それでも客は付きそうなところ、そこに甘んじなかった制作陣の心意気に乾杯。

■「名もなきアフリカの地で」 ★★★ 8/13 シネスイッチ 
□あらすじ
 ナチ台頭下のドイツを脱出してケニアの大草原に移住したユダヤ人夫婦とその娘の3人家族の、苦悩と未知の喜びが交錯した10年の月日を描く。
□みどころ
 主役の女の子のあまりの可愛らしさに心動かされ、動乱下、祖国とは似ても似つかない異境にやってきた少女の冒険記みたいなものだろうと思って観賞したのだが、蓋を開けてみると、一見、揺るぎない絆で結ばれている夫婦や家族というものから、社会的地位や資産、そして言葉さえもすべてはぎ取ってしまったら、一体関係はどうなり、何が残り、何が失われるのか、ということを、ある家族の変遷を通じて考えさせる、なかなかに重厚な物語だった。テイストは「セブン・イヤーズ・イン・チベット」に近いかもしれない。それに「めぐりあう時間たち」を掛け合わせれば本作になる、と言ったところか。
 ナチによるユダヤ人迫害、という周知の史実を契機にして、それ以上それにこだわることなく、夫婦愛や家族の絆へと物語を発展させて行く構成力は見事。ふんだんに写し込まれたアフリカの厳しくも美しい大自然の映像と、そこに舞い降りた天使のように可憐な少女の好対照に目を細めるうちに、重いテーマをそっと受け止めることができる、そんな作品だ。
 ・・・それにしても、夫婦が寄り添い続けるというのは、何と難しいことか。「夫婦は、互いに相手に寄せる思いの深さが同じでないから難しい」重すぎる言葉だ。「めぐりあう時間たち」に引き続き、独身者が抱く結婚生活へのわずかな夢を見事に打ち砕いてくれた。

■「パイレーツ・オブ・カリビアン」★★★ 8/12 新宿ジョイシネマ
□あらすじ
 「失ったものは取り返せ!」をテーマに、部下に世界最速の海賊船=ブラック・パールを奪われた船長ジャック(デップ)、その部下で、呪いを解くための金貨を奪われた今の海賊船長、彼らに愛しの君を奪われた鍛冶屋の青年、そしてジャックに船を奪われた提督が、カリブ海を縦横無尽に駆けめぐって騙し騙され、壮絶な争奪戦を繰り広げる一大活劇。
□みどころ
 大量のキャストとCGに巨大なセットを駆使した2時間半にも及ぶ巨編を、有能だが人が良くて、でも嘘つきでお茶目な海賊船長に扮したジョニー・デップが一人で支えてしまう、まさに彼ひとりのために作ったような作品。全編デップ!デップ!で、デップファンにはもうどうにもたまらない一作。彼の振りまく色気には、男でも正直、惚れ惚れしてしまう。映画の内容がどうでもいいとさえ思わせる主役としてのカリスマ性はシュワちゃん級だ。この作品をみて、プロットがどうのとかそう言った批評をする気にならないもの。もちろん、デップの名を汚さない程度の構成や演出はキチっと施されているからこその満足度なのだけど。
 長いには長いけれど、かなりがんばって大胆なシーン・カットが施されているのでテンポはよくて、退屈も飽きもしないし、眠くもならない。設定や繋がりがよくわからないところもあったりするけど、そんな細かいところなんてどうでもいい。要は、刻々移り変わる敵味方さえその場その場でわかればいいのだ。逆に、次の展開が全然読めないところがワクワク感の源泉だったりするぐらいだ。このあたりは、ディズニーランドのアトラクションから生まれたストーリーらしい。ジェットコースターに乗って長〜いセットを通り抜けてゆくような感覚、と言えばまさにその通り。
 洋画ならではの長い長いエンドロールを我慢して観たその後には、ある登場「人物?」の飽くなき執念を示す重要な(?)サービス・カットが用意されているので、ぜひカーテンが閉じる最後の瞬間まで席を立たずに!


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