はなればなれに 2001/02/24

■あらすじ
 ならず者の男二人と良家のお嬢さんとの恋と悪事の顛末記。彼女が同居する叔母の愛人が大金を隠し持っていることを聞き出した二人は、彼女をけしかけてその金を奪う計画を立てるが・・・

■みどころ 
 製作から40年近くの月日を経ての日本初公開(アニエス・bの企画上映で公開されたことはある)。しかも、ゴダール史上最もチープでキュートな愛すべき作品!!
 なぜ今まで日本公開の機会がなかったのだろう?それには諸事情もあろうが、ファンもアンチも含め、日本人が彼の作品に抱くイメージと掛け離れた作品であることが関係者に二の足を踏ませていたことは間違いないだろう。それほどにこの作品は「眼から鱗」なのだ。
 撮影当時ゴダールは主演のカリーナと夫婦関係にあった(同年終わりを迎えるが)。この作品でカリーナは、ゴダールの心を占領した彼女のイメージそのままに、踊り、泣き、笑い、野を巡り、自転車を駆り・・・、まるで<表情のコスプレ>のように、彼女の面差しは千変万化を遂げる。サザエさんのような<変な>髪形と、前をクリップで留めたスカートで門限を気にしつつ街を闊歩する晩生のお嬢さん役。もう、彼女のことが好きで好きでたまらない。そんなゴダールの心がストレートに表現されている。ストーリーなんてどうでもいい、と勢い余って言いたいところだが、ところがどっこい、即興を旨とする彼には珍しく、敢えて安っぽいB級犯罪サスペンスとして、しっかり映像が作りこまれている。「一分間黙ってみよう」などという遊び心も織り交ぜつつ。時折挟まれる、演出意図を吐露するようなナレーションも、登場人物の表情と見事にシンクロしていて、とても小気味よく、面白い。
 ビデオ化の有無は不明だが、幸い、上記の如く現在全国五ヶ所での公開が予定されているので、とにかく可能な限りぜひその眼でご覧になってほしい。いままでのゴダールに対するイメージが消え去り、なんとも爽快な気分で劇場を後にできること請け合いである。

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★ゴダールを知っていますか?

 皆さんはジャン=リュック・ゴダールというフランスの監督をご存知だろうか。ちょっとした映画ファンなら名前は聞いたことがあるだろうし、人に薦められるまま1〜2本観てみたという人も多いかもしれない。で、その印象は?「ワケがわからない」。何を観られたかにもよるが、よほどこの手の作品に慣れていない限り、あまりの独善性とサービス精神の無さに愕然とした人が多いのではないか。ワケがわからないから、いろんな評論家が深読み浅読み、あれこれ解説を試みていて、それを読んでなんとなく分かった気がする。でも、映画は芸術であると同時に映像による直感的な娯楽でもあるので、能書きがないと理解できないというのは、やはりどこか変。百歩譲って「理解できた」としても、あまり観て楽しいものでは決してなかったろう。「勝手にしやがれ」はまだいいとして、「軽蔑」「訣別」「探偵」「中国女」・・・。政治的なテーマが込められたものは、さらに難解さを増す。
 でも、そんな理屈屋ゴダールも肩の力を抜けば、一人のロマンティックな青年。彼のそうした一面を<引き出して見せた>のは、彼が公私共に愛した女神、アンナ・カリーナその人である。短編を除けば、「小さな兵隊」に始まり、「女は女である」「女と男のいる舗道」「はなればなれに」「アルファヴィル」「気狂いピエロ」「メイド・イン・USA」の七本に彼女は出演。シリアス・ドラマあり、コメディあり、SFありとバラエティに富んでいるのだが、どれも彼女なしの他の作品とは一風変わっている。そう、芯の通ったストーリーのあるドラマとしてちゃんと成立しているのだ。
 中でも特にオススメは「女は女である」「女と男のいる舗道」の二作。前者はカリーナがベルリン国際映画祭で女優賞を獲得したもので、子供を生みたがる女と、その話題から逃げようとする男の痴話喧嘩を描いたもの。ま、女も女なら、男も男。勝手にやってろ!みたいな、実に愛すべき小作品。後者は一転、「自由」を手に入れる為に娼婦となった女性ナナ(これはジャン・ルノワール監督の「女優ナナ」にちなんだもの)が悲劇的な結末を迎えるというもので、清楚な女優を汚れ役に据えることで逆説的に退廃感を倍加させる手法が大成功した重い作品。トリュフォーなどヌーベル・バーグ世代でもロマン派の監督に近い香りを放つこの二作は、ゴダールを意識せずに楽しめるもので、ゴダール入門にぜひ、オススメしたい。

<はみだし>
 以前に一度書いたゴダール初期の愛すべき秀作短編「男の子の名前はみんなパトリックていうの」が、東京下北沢<トリウッド>にて、ジャック・リヴェット監督の秀作短編「王手飛車取り」と同時に再上映されています。上映スケジュールなど詳しくは
http://homepage1.nifty.com/tollywood/
まで

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