「死ぬまでにしたい10のこと」/「キルビル」速報 2003/11/05

■「死ぬまでにしたい10のこと」(加・西) オススメ度★★★★
 監督/イザベル・コヘット
 出演/サラ・ポーリー マーク・ラファロ スコット・スピードマン
 HP/http://www.shinumade10.jp/main.html
□あらすじ
 17歳で初めてキスをした相手との間に子供が生まれ、そのまま結婚して19で二人目の子供ができて、失業中の夫と一緒に母親宅の離れで暮らす23歳のアン。子育てと深夜バイトに追われ、考えるヒマもない毎日を突然襲った激しい腹痛と吐き気。医師の宣告は、既に内臓に転移した末期卵巣ガン。人並みの失望の次に彼女が思いついたのは、2〜3ヶ月の余生を後悔なく過ごすこと。「娘に毎日愛してると何度も言う」「二人の娘が成人するまで、毎年誕生日に送るメッセージを吹き込んだテープを録音する」「刑務所にいる10年間逢っていない父親に会う」「酒と煙草を思い切りのむ」「夫以外の男を自分の虜にさせる」・・・命ある間にすべき10の事柄を深夜の茶店で一気に書き上げた彼女は、誰にも自分の病気を打ち明けることなく、明るく課題をこなして行く。。。
□みどころ
 カナダから届いた、優しくて、温かくて、とてもせつない物語。死の宣告を面と向かってできない主治医、子育てとアンへの愛に毎日を捧げる夫、過食症のダイエットマニアな同僚女性、恋人に家具一切を持ち去られたアンの恋人、刑務所に入った夫の不在を守り、アンの子育てを手伝いながらホテルの厨房で働く""つんく""似の母親、隣家に越してきた子供好きな看護婦アン・・・とにかく、アンを取り巻く人たちはみな、心優しく、温かい。まるで、神に召される人を包む祝福の光芒のようだ。
 予告編で大部分の粗筋は読めているのだが、それでも見る価値は十二分にある、素敵な素敵な物語。病気は不幸だし、青春を楽しむことを許されなかった人生も後悔に満ちてるかもしれないが、それでも、死に直面してなお前向きになれる強い心を与えられ、心優しい隣人たちに恵まれたアンは、幸せだ、と言ってもいいのかもしれない。隣家のアン(同姓)を夕食に招きながら体調が思わしくなく、彼女になついた子供たちと夫がにぎにぎしく食事の準備をする様子をベッドから眺めるアン本人の、寂しさと安堵が交錯する表情が印象的だ。そして、もしかしたら彼女の病状を知っているのかも知れないとドキリとさせる、夫の表情をよぎる影も見逃せない。
 余談になってしまうが、独身で、子供たちと交わった経験もない筆者からすると、アンと夫との子育て奮戦ぶりにはただただ頭が下がる思いだ。また、そういう気分にさせるほどに、この小さな愛に満ちた家族の日常の描写が実に自然で、臨場感に溢れているとも言える。「子供、どうせ作るなら3人は作らないとカワイソウ」などと日頃豪語している自分の無責任さが身にしみる。やっぱり無理かも。結婚も子育ても。

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■「DEAD END RUN」(日)シネクイント他で上映  おすすめ度★★☆
 監督/石井聰亙 
 出演/伊勢谷友介、永瀬正敏、浅野忠信、粟田麗、ロバート・ハリス
    市川実日子、國村隼、田中要次、光石研
 HP/http://www.deadendrun.com/
□みどころ
 3ストーリー約1時間の短編オムニバス。
 タイトルは「行き止まりの疾走」だが、直訳して「死で終わる疾走」と受け取ってもストーリーとよくフィットする。3つのストーリーすべてが、乱闘に始まり、長く苦しい逃亡の疾走を経て行き止まりの地へ辿り着き、そこでの偶然であり必然でもある「出会い」があって、最後は共に手を携えて死を迎える、否、厳密には、生と死の間の永遠の一瞬を共に体験する、という構成。これを、伊勢谷×粟田、永瀬×ロバート、浅野×市川が各様に演じるという企画。
 追っ手と誤認して通りがかりのOLを殺してしまうが、月明かりの中現れ、出会いの喜びを唄い踊る彼女の亡霊とつかの間の逢瀬に酔う第一作、行き止まりで対峙した追っ手に自らの影を見る第二作は、かなりシュールな内容。これらに比べ、、三作まとめての「オチ」がついた第三作はストーリー性が高く、オムニバス全体の印象を落ち着かせる役割を担っている。
 見所は、貴重な粟田麗さんのミュージカル・シーンと、三大俳優の疾走競演。粟田さんは突然唄い、踊り始めるので、そのテの作品かとかなりタジログが、その観客のとまどいをそのまま相方の伊勢谷友介が「代弁」。そんな観客との心のキャッチボール的演出も楽しい。

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 石井聰亙監督と言えば、「五条霊戦記 GOJOE」が近作では思い出されるが、オススメは何と言っても「ユメノ銀河」(浅野忠信&小峰麗奈)。選りすぐられた最小限の古語調の台詞、眼と表情のみの演技で惹き付ける無言の「間」、モノクロームの映像効果に酔いしれる、伝説的名作だ。
 他には、都市性ノイローゼに苛まれた家族の危機に立ち向かうべく過剰に孤軍奮闘する<家長>の悲しい空回りを描いた「逆噴射家族」(小林克也&工藤夕貴)が面白い。
 また、現在上映中の、陣内孝則監督「ロッカーズ」のモデルであり、神内監督自身がリーダーを務めた伝説のバンド「ロッカーズ」の本物が出演し、暗いエネルギーのたぎる福岡という街を独特の映像センスで描いた「爆裂都市」も必見。

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■「ロッカーズ」(日) オススメ度★★★★
 監督/陣内孝則
 出演/中村俊介、玉木宏、岡田義徳、佐藤隆太、塚本高史、上原美佐、
    浦田賢一、玉山鉄二、白竜、大杉漣
 HP/http://www.gaga.ne.jp/rockers/top.html
□みどころ
 陣内孝則が福岡で結成し、やがてプロとして東京に進出し、彼を今日の芸能界での成功に導いた伝説のロックバンド、ロッカーズを、陣内自らが発案し、メガホンを取って自伝的に描いた作品。
 こういう作者の思い入れの強い作品は、原作者自身が素人ながら監督を務めるという「不幸」もあって、得てして大失敗の悲劇に終わることが多いモノなのだが、本作はなかなかどうして、演出といい、カメラワークといい、脚本といい、編集といい、すべてハイレベル。シリアス・シーンとオチャラケとのバランスもよく、何よりもキレやリズム感が絶妙(特にロックバンドコンテストでのカット割りは最高!)。若手ながら実力あふれ、しかも楽器を実際に演奏できる役者を揃え(そうでない役者にも長期の特訓を事前に受けさせて、絵にウソが出ないようにしてある)、演奏も実際、出演者自身によるものということで、絵にウソがない。完璧主義者な陣内御大のこだわりが奏功したと言える。

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■「キルビルVol.1」(タランティーノ監督)オススメ度★★★★
 出演/ユマ・サーマン、ルーシー・リウ、栗山千明、千葉真一、國村隼、
    北村一輝、森下能幸、田中要次、麿赤兒
 HP/http://www.killbill.jp/
□みどころ
 日本映画オタクのタラちゃんによる、深作欣二監督と梶芽衣子にオマージュを捧げた邦画パロディ大作。マニアックな出演日本人映画俳優ラインナップにも唸らされる。
 鑑賞を百倍楽しむために、深作監督の「仁義なき戦い」シリーズと、梶芽衣子主演の「修羅雪姫」シリーズ(釈由美子版ではない!)と「女囚サソリ」シリーズを是非事前に見てから劇場へ行って欲しい。そして、クライマックスのルーシー・リウ&ユマ・サーマンの決闘シーンと、エンドロール後半に流れるBGMに大注目。タラちゃんの梶姫への思い入れ度がよくわかる。そして、これが全世界に鳴り渡るかと思うと、何とも愉快。


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