東京国際映画祭レポート/招待作品紹介 2003/11/19

 11/2〜11/9の一週間にわたり、東京・渋谷文化村を中心会場として日本最大の国際映画祭である東京国際映画祭が開催された。
 チケットが非常に確保しにくく、当日券も映画毎に行列しなければならずハシゴ観賞の計画が立てにくいということと、また、招待作品やコンペ参加作品のラインナップがアジア指向ともハリウッド指向とも付かず、映画祭自体のコンセプトが曖昧で、無理してまで通う動機付けが得にくいことなどと言った理由で、例年、よほど観たい作品を一つ観るかどうか程度だったこの映画祭(ハリウッド大好き人間にとっては、オープニング・クロージング作品としてビッグなゲストを迎えてのハリウッド新作先行上映があることから、それなりの魅力があったのだろうが)だが、今年は昨年までとはガラリと趣向を変えて独自色を発揮。筆者のようなアンチ・ハリウッド派にとっても実に魅力的な映画祭へと変身した。
(1)チケットの入手方法が多様化
 ぴあの前売りだけではなく、発売開始日をズラせての電子チケットによる発券も加わり、さらに当日券も劇場毎に朝の会場時に一日分を一斉に発売するなど、チケット入手方法が多様化しつつ連続観賞したい観客の便宜を考慮したものへと変わり、結果的に観賞のチャンスが増えたこと。電子チケットや後発チケットに関しては発売日や対象作品に関し宣伝不足でシステムも複雑など改良の余地はあるが、来年以降も継続・発展を期待したい。
(2)赤絨毯
 今年初めての企画として、初日開会式に出席すべく会場を目指すゲストのスーパースターたちを迎える赤絨毯が、なんとBunkamura前の屋外公道上100mにわたって敷設された。タダでも狭い劇場前が実質通行不能となってしまうのはイタダケナイが、マスコミ受けもよく、イベントを盛り上げる効果はかなりあったようだ。一般人には、貴重かつ効率のいいVIP撮影チャンスでもある。
(3)アジア・日本指向
 日本やアジアで今作られ、あるいは、日本やアジアに今紹介したい作品がコンペ、招待作品に揃ったこと。オープニング上映作に、昨年までのハリウッド映画ではなく、「阿修羅のごとく」という、「8人の女たち」の向こうを張るように日本の新旧トップ女優が顔を揃えたスター邦画をぶつけたことからも、主催者サイドの意気込みとメッセージが窺える。
 いまひとつコンセプトがはっきりせず、「東京FILMEX」という11月下旬に銀座界隈で開催される映画祭にお株を奪われがちだった今までのTIFFとはひと味違う印象を受けた。
 今年は結果的に、受賞作が日本映画に偏ってしまったが、主催者サイドが今後どういう方向に位置づけて行こうとするのか、期待しつつ見守りたいところ。
(4)撮影全面禁止・・・
 これはちょっと残念。劇場外がロビーでは撮影OKだが、劇場内は今年から全面撮影禁止となってしまった。監視員の取り締まりも厳しく、デジカメや携帯電話でこっそり、ぐらいなら可能かも知れないが、望遠レンズを用いた撮影はまず不可能。理由はわからないが、日本映画の比率が上がって、アイドルや若手女優の登場機会が増えたため、とも推測できる。まぁ、それで舞台挨拶に来てくれるキャストが増えるのなら、喜ぶべきなのでしょう。

 それでは、映画祭でプレミア上映された話題作をまとめてご紹介。

■「ミシェル・ヴァイヨン」 おすすめ度:★★★★☆ 
監督/ルイ=パスカル・クーヴレール
脚本/リュック・ベッソン
出演/サガモア・ステヴナン、 ディアーヌ・クルージェ、ピーター・ヤングブラッド・ヒルズ、 ジャン=ピエール・カッセル
公式HP/ http://www.mv-hero.jp/

□あらすじ
 ル・マン24時間耐久レース。ここを舞台に25年間もしのぎを削り合ってきたヴァイヨン家率いる「チーム・ヴァイヨン」とワン会長が率いる「チーム・リーダー」。会長の死により5年間レースから退いていたチーム・リーダーは、ワンの愛娘をヘッドに据えて、故会長が長年辛酸を嘗めさせられたヴァイヨンへの復讐を期してレースに復帰。かくして、サーキット内外で、殺人さえ厭わない無法な激しい謀略戦が展開される。

□みどころ
 わずか10日前に完成したばかりのフィルムを東京国際映画祭でワールドプレミアとして世界に先駆けての初公開。
 原作はヨーロッパNo.1のカリスマ・コミック。ハリウッドが映画化を断念した企画がベッソンの許に持ち込まれ、彼が脚本を担当し、アクションや派手な演出、そしてCGに頼らないアンチ・ハリウッドなヒューマン・ドラマに仕上げた快作。
 「ドカベン」のように連作となっている長編コミックから見事なドラマを切り取ったベッソンの脚本力と、それをスピード感あふれるカメラワークと緊迫感に満ちた演出で映像化した監督の二人三脚による大勝利。ひとつのレースに掛ける人々の執念とその先にある栄光とを描いた秀作という点では、「優駿」の感動に重なるものがある。
 ストーリー展開も、前半部はひたすらコトの背景を描き出すことに徹し、後半、いよいよル・マンという段になって、物語の流れは足を早め、犯罪アクション的な要素まで帯びてきて、その極みに感動のエンディングを迎えるという、興奮必至の構成。100分という尺も心地よく、何より、感動が最高潮に達した場面そのまま終幕を迎える構成が素晴らしい。

■「阿修羅のごとく」 おすすめ度:★★★ 
監督/森田芳光
出演/大竹しのぶ、黒木瞳、深津絵里、深田恭子。八千草薫、小林薫、中村獅童

□あらすじ
 離婚、未婚、亭主の浮気、同棲。それぞれに人生の波間にあえぐ年の離れた四姉妹が、偶然見つけた父の「浮気」を母にどう伝えたものか隠したものか、侃々諤々を繰り広げる群像劇。

□みどころ
 とにかく、この見るもあでやかな新旧5大女優の揃い踏みを見よ!「小林薫」まで女優の名かと思ってしまうほどに、現場女性上位な作品なのだ。ミニシアターを席巻しロングヒットを記録したフランス映画「8人の女たち」すら彷彿とさせる豪華さだ。
 監督は、「模倣犯」でトンデモナイ演出をして世間を驚かせた森田芳光監督だが、さすがに女優力に圧倒されたのか、いつもの毒も遊び心もなく、穏やかな作風で、女系家族の中に渦巻く不可思議な反目と相互理解の相矛盾する感情を描き出している。
 この原作は、かつてNHKでテレビドラマ化されているので、記憶に残っている方、レンタルビデオ屋でドラマのビデオが入手可能な方は、ぜひ両者を見比べてみて欲しい。

■「きょうのできごと」(日) ★★★☆
監督/行定勲
出演/妻夫木聡、伊藤歩、池脇千鶴、田中麗奈、佐藤仁美、山本太郎
□あらすじ
 友人の引越祝いに集まった若者たちを軸に、何気ない一日に起こった社会の、そして個々人の様々な出来事をコミカルに、叙情的に描き上げる、行定監督お得意の群像劇。
□みどころ
 舞台は京都で、出演者たちは全員、全編関西弁での演技。役者の大部分は関西以外の出身だが、現場での丁寧な方言指導の甲斐あって、ネイティヴから観ても問題ない程度に全員見事にイントネーションをマスター。ほのぼのとした掛け合いが耳に心地いい。
 原作自体が平板なものらしく、決して起伏に富んだ展開ではないのだが、それでも、原作にない「難破鯨」と「ビルの隙間に挟まれた男」のエピソードの挿入が奏功して(これらがなかったら、さぞかし退屈な映画だったろう・・・)、集中力が途切れずに最後まで観賞することができた。少し冗長にも思える時の流れがそのままに、「考えてみればいろいろあった一日」の長さを身を以て感じさせてくれる。「かつての小津作品のように、現代の若者たちの何気ない日常を描いた作品を撮ってみたかった」という監督の意図は、十分に果たせたのではないだろうか。

■「着信アリ」 ★★☆ 
監督/三池崇史
出演/堤真一、柴咲コウ
□あらすじ
 携帯に自分の携帯電話番号から未来の着信時刻で死の瞬間の自分の声が届く。そして、ちょうどその時刻になると、その電話の声と同じ台詞を発し、突如死を迎える。そして、その犠牲者の携帯に登録されているアドレスから次の犠牲者が決まる。。。
□みどころ
 秋元康原案、三池崇史監督。この意外な取り合わせによる本作は、ホラーに分類されてはいるが、特に目を背けるようなシーンもなく、不可解で理不尽な運命と最後まで闘おうとする柴咲コウと堤真一の迫真の演技によって、安心して観賞できる一作だ。映画というより、どこかテレビドラマのような印象。
 三池監督っぽい演出と言えば、思い切りのいい轢死シーンと、「坊主が飛ぶ!」怪現象
シーンぐらいだろうか。監督にしては、遊びの少ない保守的な演出で、三池苦手派でも特に問題なく見られそう。とりあえず、堤真一・柴咲コウのファンは必見の一本。柴咲コウが唄うエンディング・テーマは、「黄泉がえり」以来の名曲で、こちらのヒットも期待できそうだ。

クチコミ
「マトリックス レボリューションズ」
意外性はないけれど、誰もが納得のシリーズ終結編。第二作で設定が難しくなりすぎて訳がわからなくなったが、あまり深く考えなくてもよいのでは?前二作を観た人は必見、まだの人も、壮絶な戦闘シーンは劇場観賞の価値大。 <koala> ★★★

インフォ
■多摩映画祭(TAMA CINEMA FORUM)開催(11/22-11/30)
 コンペ部門には、koalaイチオシの名作「Mine」がノミネートされているので、近くの方はぜひこの機会に観賞してもらいたい(24日(祝)於・聖蹟桜ヶ丘)。ちなみに、コンペは一日通し券で全作品が見られて前売りたったの1000円也。コンペの一般審査員も募集しているようで、近所の映画好きサンはぜひご応募を!
 その他、都内では上映が終了した各種話題作をテーマ別に集めての上映企画が連日用意されていて、普段劇場へ行くチャンスがない方は、この機会にまとめて観賞してみてはどうだろうか?
 多摩映画祭 公式HP http://www.tamaeiga.org/
 「Mine」公式HP http://www.si-ta.net/mine/
 「Mine」監督所属の制作集団HP http://www.si-ta.net/

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