翻案作品特集 「復活」「seventh anniversary」 2003/12/03

■「復活」 (イタリア) ★★★★
監督/パオロ&ヴィットリオ・タヴィアーニ
出演/ステファニア・ロッカ、ティモシー・ピーチ、セシル・ボア、マリーナ・ヴラディ
上映/新宿武蔵野館 ほか
http://www.alcine-terran.com/main/resurrection.htm
□あらすじ
 ご存知、文豪トルストイの同名原作を、イタリアでリメイクした異色作。
□みどころ
 インディーズ作品やB級映画も、挑戦的であり野趣にも富み、感性も豊かだったりと、それなりに面白いものなのだが、たまには本作のように丁寧に作られた、地に足のついた作品も鑑賞すべきだと、改めて痛感。映画とは、ドラマとは本来、こうあるべきものなんだ・・・そんな気持ちにさせる、素晴らしい一作。言語がイタリア語だという違和感を除けば、原作に忠実に作り込まれていて、それでいて戯曲にありがちな「舞台演劇臭さ」も全くない。3時間余りに及ぶ長編であり、しかも、さしてドラマに起伏があるわけでも、劇的な演出があるわけでもないのに、全く集中力が途切れることなく、時を忘れてドラマの世界に浸ることができる。あまりに大きな身分の違いが屈折させてしまった、純粋であったはずの恋心。長い月日を経て再会叶ってもなお、思いを素直に伝え合うことができないまま、自分を偽って行く道を選択する二人・・・スクリーンに展開するドラマを観つつ、「プライド」が人を高めると共に苦しめる、その矛盾に思いを巡らせるひとときだった。  
 そして、こうした人間ドラマとは別に、貴族であることの利益を存分に享受しつつ農地解放を理想に掲げてみせる貴族たちの矛盾と、農地解放=農奴制の廃止が意味するものを理解できない、しようとしない小作人たちの矛盾といった、革命前夜のロシア社会の現実さえ、メインストーリーと絶妙なバランスを保ちつつ描き出されて行く。
 精緻な作りだけに、原作を今更読むのが面倒、あるいは、学生時代に読んだが忘れてしまった・・・などという向きにもオススメ。
 なお、「復活」は、同名タイトルのものだけでも過去に1918、1927、1931、1934、1961の五回制作されている。

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 「復活」と言えば思い出すのは、その大胆な翻案とも言える泉鏡花の「瀧の白糸」。
 水芸芸人の少女と、法律家を目指す貧しい青年とが恋に落ち、少女は芸で稼いだ僅かの金を青年に仕送りして学生生活を支えるが、彼の大願成就を目前に金策が尽き、そこにつけ込んで手込めにしようとした悪徳な興行主を、彼女は誤って殺してしまう。そして裁判官となった青年が初めて担当するのは、なんと彼女の事件だった。。。というもの。
 こちらも名作で、1915、1933(溝口健二監督)、1937(マキノ正博監督)、1946、1952、1956年(島耕二監督・若尾文子主演)の6回制作されている。ビデオや回顧上映で観る機会があればぜひ。ちなみに筆者が観たのは島耕二版で、若尾文子が水芸に挑戦するシーンが見もの。

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■「Seventh anniversary(セブンス・アニバーサリー)」(日) ★★☆
監督/行定勲
出演/小山田サユリ、柏原収史、津田寛治、秋本奈緒美、豊原功補、堀江慶、池内博之、武田真治、堀北真希、前田綾花
上映/渋谷シネ・アミューズほか
http://www.multi-cinema.com/report/seven/index.html
□あらすじ
 失恋するたびになぜか尿道結石を激痛と共に「生む」女・ルル(小山田)と、彼女の七回目の失恋直後に産み落とされ「seventh anniversary」と命名された結石にまつわる、奇想天外な一種のファンタジー。恋の痛みを象徴する結石はやがて女学生の間でブームとなり、ブルセラ興味で売買をする者たちが現れ・・・
□みどころ
 見終わってからふと思いついたのだが、これは、5年前に公開されたハーヴェイ・カイテル&ミラ・ソルヴィーノ主演の米画「ルル・オン・ザ・ブリッジ」の大胆な翻案だ。主人公の名前がルルでなければ気付かないところだった。興味ある人はぜひ見比べて欲しい。
 原作での「青く光る不思議な石」があろうことか「尿道結石」に化けたおもしろさはともかくとして、小山田サユリ(「オー・ド・ヴィ」「東京ゴミ女)がとにかくいい。ストーリーは想像がふくらみすぎてついて行けなかったり飛躍があったりと、なかなかその世界に浸れないのだが、ルル=サユリ嬢について回想される恋とその終わりの風景は、彼女の無垢な表情のために、一層切なさを募らせる。ファンタジー仕立てということもあり、全体よりも瞬間瞬間の断片を楽しむ作品なのかもしれない。

 ──────────────参考資料───────────────
■「ルル・オン・ザ・ブリッジ」(1998年 米) ★★★
監督/ポール・オースター
出演/ハーヴェイ・カイテル、ミラ・ソルヴィーノ、ウィレム・デフォー
□あらすじ
 狂った青年が乱射した銃弾で片肺を失い演奏家生命を絶たれたサックス奏者イジーは、九死に一生を得て退院後、道ばたで射殺されている男の鞄を思わず持ち帰る。鞄から青く光る不思議な石を見つけ、ティッシュに走り書きされた電話番号に電話した彼は、美しい女優の卵セリアと知り合い、石の神秘的な光に導かれるように恋に落ちる。。。

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 その他、翻案モノと言えば、トルストイの「罪と罰」に対しての、フィンランドの巨匠アキ・カウリスマキ監督による「罪と罰 白夜のラスコーリニコフ」、同じくカウリスマキ監督による「ハムレット」に対する「ハムレット・ゴーズ・ビジネス」、大島渚監督による「天草四郎時貞」、オリジナルに対し時代背景を変えて描いた「クレーヴの奥方」(マノエル・デ・オリヴェイラ監督)、戦前の吉村公三郎監督版に対し、主人公の看護婦を進歩的女性に翻案した増村保造版「暖流」、同じく増村保造監督による「シンデレラ」の翻案「青空娘」、キリスト教における聖母マリアの「処女懐胎」を、愛に失望した幼少時のトラウマのためにフィアンセに対して体を開けないまま懐妊した少女の物語へと大胆に翻案した「ゴダールのマリア」、シェークスピアの「マクベス」を見事に翻案した黒澤明監督の「蜘蛛巣城」、遠藤周作原作で、同名で浦山桐郎により映画化もされた「私が、棄てた女」を翻案した「愛する」などなど、枚挙に暇がない。単なるリメイクではなく、時に原作の原型すら止めない翻案ワールド。翻案の事実が公にされていなくても、ふと有名作との着想点の共通性に気付いたりすると、妙に嬉しくなったり。なかなか奥が深い世界なのだ。

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■「MUSA〜武士〜」いよいよ公開  http://www.musa-jp.com/
 今年2月、ゆうばり映画祭報告で速報したチャン・ツィイー主演の中韓合作大作が遂に12/13から新宿・シネマスクエアとうきゅう他で順次全国公開されます。城を飛び出した明の皇女(チャン)を無事送り届ける使命を負った高麗(朝鮮)の使節団やそれに同行した明の領民たちが、彼女を人質に取ろうとする元の猛攻に遭い、次々と彼女の犠牲となってゆくという非条理な運命を壮大なスケールで描いた感動作。オススメです。

■「ジョゼと虎と魚たち」いよいよ公開(12/13〜)
 池脇千鶴・妻夫木聡主演作。世界観が心地いい。期待大。
  http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD4269/link.html

■「 最後の恋、初めての恋 」12/20公開
 渡部篤郎主演最新作。期待大。
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD4047/link.html

■行定勲監督幻のデビュー作「OPEN HOUSE」公開!(12/13〜)
http://movie.goo.ne.jp/contents/news/NFS20031115-s-19/index.html

■「アイデン&ティティ」は傑作!  <★★★★>
 「プロジェクトX」で有名な怪優・田口トモロヲの初監督作は、親友・みうらじゅん氏の原作コミックを題材にした、素敵なラブ・ストーリー。主演のロッカー、峯田氏演じる主人公の夢見る表情と、そんな彼を心から愛する恋人を演じる麻生久美子のすさまじい存在感に酔いしれる90分。オススメ。12/13公開。

■「ブラウン・バニー」 <★★>
 ヴィンセント・ギャロ(「バッファロー'66」)監督・主演最新作は、愛する妻の衝撃的な最期を受け入れることができない冴えないバイク・レーサーが、妻の幻影を求めて二人が暮らした地・カリフォルニアを目指すロード・ムービー。予告編は素敵なのだが・・・

■「ニワトリはハダシだ」 <★★>
 舞鶴を舞台に、朝鮮人妻とその別居中の日本人夫、そして知能障害を持つ息子、彼の通う養護学校の女教師を軸とする人情サスペンス。森崎東監督&原田芳雄の組み合わせは「夢見通りの人々」以来十数年ぶり。在日モノということで、ちょっと力が入りすぎたかも!?



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