2003-2004 年末年始、秀作目白押し! 2004/01/10

■「最後の恋、初めての恋」 ★★★★ 
主演/渡部篤郎
http://www.movie-eye.com/saigonokoi/index.html
□あらすじ
 上海を舞台に、時間が止ってしまった男と、叶うなら時間を止めたいと願う女が運命的に出会い、互いに癒し合いながら、深い恋に落ちて行く。。。
□みどころ
 思えば渡部篤郎という俳優は、死に行く愛すべき存在を見守る役どころが実に似合う。最近まで放映されていたドラマ「恋文」もそうだし、古くは常盤貴子・木村拓哉共演の「ビューティフル・ライフ」での常盤の兄役とか、映画では「愛する」なんてのもそうだった。特に技巧派というわけでも無いのだが、彼の持つえもいわれぬナチュラルさ、無垢さが、ドラマに温かい詩情を与えてくれるのだ。
 丁寧な作りの演出と映像が、国境を越えた切ない物語の世界に見るものを引き込んで行く。こんな素晴らしい作品が単館上映とは実にもったいない。新春から予定されている拡大公開の規模に期待したい。必見。

■「ジョゼと虎と魚たち」 ★★★★★ シネクイント他で上映中
監督/犬童一心
主演/池脇千鶴・妻夫木聡
http://jozeetora.com/index_f.html
□あらすじ
 生まれつき足が不自由な偏屈少女と、今を適当に楽しむイケメン大学生とが運命的に出会い、深い愛の日々を送り、やがて必然的に別れの時を迎える、ほろ苦い青春の追想。
□みどころ
 この冬一番の名作。フェリーニの「道」の世界が好きな人には特にオススメ。ラストでの妻夫木の慟哭は、ジェルソミーナを棄てたザンパノの喪失感に重なり、あまりに切ない。
 過去、数多の映画が「好きなのに別れるしかない」という状況を描き出してきたが、この実生活ではあまりお目にかかれないドラマティックな愛の終末を、これほど身に沁みて実感させてくれる作品には出会ったことがない。
 田辺聖子の手によるこの愛らしい素敵な物語の鍵を握る、「日陰者のカワイイ奴」ジョゼのキャラクターを、声から仕草から、彼女なりのイメージで完全に作り上げて表現した池脇千鶴の演技力は驚嘆に値する。話題になっている、ヌードも濡れ場も辞さない役者魂も確かに凄いが、そんなことは些細に思えるほどに、彼女の演じるジョゼは、実際に出会った人物であるかのような強烈な印象と余韻を観客の心に刻む。
 彼女とはある意味対極を成す、浮気なイケメン男を、実に自然に、かつ、繊細に演じて見せた妻夫木の成長もまた著しい。
 池脇は、独特のクセがある関西弁を駆使して演じるので、このニュアンスがわからない非ネイティヴにこの情感がどれだけ伝わるのか不安ではあるが、偏屈でワガママな中に垣間見える、愛すべき一面=カワイサを感じ取ってもらえれば幸いだ。

■「イン・アメリカ」 ★★★ 
http://www.foxjapan.com/movies/inamerica/index.html
□あらすじ
 愛息を失った夫婦と二人の娘は、父親の失業を機にニューヨークへ移住。スラムでの極貧の暮らしの中、彼らは失った家族への思いから解放されるべくもがき続ける。そんな彼らは、同じアパートに住むAIDSに冒された黒人との心の交流を通じて、今生きていること、今生きている者の大切さに気付かされてゆく。
□みどころ
 主役の二人の少女たちがあまりにかわいらしいので思わず観てしまったが、この二人(本物の姉妹)、演劇を本格的に学んでいるという背景も影響してか、意外にも大人びた冷めた演技を見せてくれる。それが、失った兄弟のことを惜しむあまり現実に、今そこにいる家族に目を向けられなくなっている両親のカスガイとして懸命に家族の絆を支えようとする健気な少女という設定とうまく結びついていて、さらには、深刻で教訓的な物語に涼しげな風を吹かせてくれもしている。逆に言えば、壮大な家族のドラマをあまりにもサラリと流してしまった感にも繋がるのだが、根底に流れる強い宗教色を薄めてくれていて、日本人には見やすい作品になっていると言える。

■「OPEN HOUSE」 (1998年) ★★★ 
監督/行定勲
□あらすじ
 家族の絆がひとたび結ばれてから失われることの痛みを、二人の女性と一匹の犬を軸に描き出す叙情的で時に幻想的な一本。
□みどころ
 行定監督幻の初監督作。辻仁成原作・主題歌、南果歩主演という、曰く付きながら今まで公開されなかったのが不思議なくらいのゴージャスさ。椎名英妃の憂いもなかなかいい。
 主人公たちが自らの心の傷と向き合うことができるまでの時間を、実時間でゆっくりと、透明感溢れる張りつめた映像で描き出してゆく。彼らの次の一言、次の行動、次のできごとが予想できなくて、気が付くと息を止めてスクリーンに見入っている自分に気付く、そんな感覚の作品だ。東京のみの単館上映なので、地方の方はビデオ待ちでしょう。MovieWalker (http://www.walkerplus.com/tokyo/movie/)の「DVDお知らせメール」などに登録しておくとよいかも。

■「コール」
主演/ダコタ・ファニング チャーリーズ・セロン ケビン・ベーコン 
http://www.call-movie.jp/
□あらすじ
 3人の誘拐犯が、父・母・子3人の被害者それぞれに付き、3つの場所に分れて短い連絡を交わし合い、金だけせしめて全員無傷で24時間以内に解放する。成功率100%、通報率ゼロの誘拐計画を着実に実行してゆく犯人たちは、遂に待望のターゲットに手をつけた。しかし、彼らが誘拐した娘は、薬なしでは命さえ危うい重度の喘息。これと、思わぬ被害者3人の抵抗が、彼らの計画を少しずつ狂わせて行く。それでも銀行に出向かせて金を引き出すことには成功したが。。。

□みどころ
 誘拐の手順は面白いし、ラストにかけての息詰まる展開も見事。登場人物6人の演技も素晴らしい。ドラマの深みには不満が残り、「フォーン・ブース」のようは観賞の驚きは無いのだが、単純なサスペンスとして、一級俳優たちの演技とスリルを楽しむには十分すぎるほど。観た後、すごい満足感をかみしめることのできる痛快な一作。ダコタ・ファニング(I am Sam)の演技は子役のレベルを超越していて、ファンは必見!彼女の主演作はこの後も「ハッとしてキャット」「Uptown Girls(原題;邦題未定)」などの話題作が目白押し。今年はダコタ・イヤーになりそう。


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