初恋のきた道 2000/12/30

■あらすじ
 遠い昔、村と町をつなぐ一本の長い長い道が、父と母の恋を温めた。父の死に臨し、母はその日々に思いを馳せ、彼女の父への感謝と畏敬の念はやがて息子に届き、村人や父ゆかりの人々の心を動かしてゆく。

■感想
 20世紀最後に観た本作は、年間ランキングを覆す今年のベスト作となった。

 舞台は中国河北省辺境の村。 
 教師である父が、新校舎建設資金の調達に奔走する中急死したとの知らせに駆け付けた息子は、父の野辺送りを人力で行ないたいと頑なに要望し、その為の布を夜を徹して折り続ける母の姿に驚きつつ、それほどまでに母が愛し続けた父との出会いと恋路に想いを馳せる。
 町から馬車にのって母の住む辺境の村へ来た教師=父。初めて彼を見た日から、彼女=母の一途な恋路は始まる。偶然を装って彼を待ったのも、政治的な理由で彼が村から一時去ったのも、彼を探しに町まで彼女が歩いたのも、彼の帰りを極寒のなか待ち続けて倒れたのも、みんなこの、村と町を繋ぐ長い長い一本の道。

 丁寧に描かれた回想シーンによって、母が何故この道を自らの手で父の亡き骸に歩ませたいと願うのかが、観客にひしひしと伝わってくる。「時間」を効果的に利用した監督の演出はあまりにうま過ぎる。母が父に終生抱き続けた恋と畏敬と感謝の念は、たっぷりと描かれた彼女の恋路によって十二分に観客の胸にも届き、何らのあざとさもないラストシーンでは、彼女の心境とシンクロするかのように、いっぱいの感情とともに涙が溢れ出して止まらなくなる。

 映画のプロモーションの都合上か、本作品はあたかもグルメ映画であるかのように宣伝されているが、それは本作に描かれたエピソードのほんの一部にしか過ぎず、すべてを表わすキーワードではない。確かに恋する若き母は、憧れの若き父に面識もないまま毎日丹精こめて弁当を作り続ける。また、彼が宅を訪問した際にも、心のこもった料理でもてなす。しかし、そうした料理について特に詳細に語られている訳でもなく、それは彼女の「思い」を表現する一道具に過ぎないのだ。だから、グルメを目当てに鑑賞して当てが外れただの、また逆にグルメに興味がないから本作を観ない、などといったことだけは、ぜひとも無きように願いたいところである。

 そんな監督の演出意図を見事に実現したのは、主演のチャン・ツイイー。決して並外れた美貌という訳ではないのだが、その一点を見据えた澄んだ眼差しは、身分の違いも社会的な奇異の目をもモノともせず、恋を貫いた主人公の強い意思を素朴に体現している。彼女は本作で高い評価を受け、同年「グリーン・デスティニー」でチョウ・ユンファとの共演でハリウッド進出を果たしている。

 母の想い出のシーンをカラーで、現在を白黒で表現するという、通常とは逆の手法が目を引く。これが、恋によって鮮やかに彩られた日々と、その恋の対象を永遠に失った現在とを実に効果的に、対照的に際立たせすことに成功している。
 米中合作だが、中身は純粋の中国映画。原題は「我的父親母親」(=私の父と母)。

 なお、東京では1月上旬現在も、単館上映ということもあってか劇場のキャパシティをはるかに凌ぐ来場者が殺到し、上映開始時間の2〜3時間前に来場して整理番号をもらわなければ入場できないという状況が続いている。とりわけ好事家の多い東京という土地柄のせいもあろうが、地方でも来場前には一度劇場に混雑状況を問い合わせられることをお勧めする。

<koala>

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