Guns & Teens / 「卒業の朝」 | 2004/04/03 |
今回は、暴走する十代をテーマにした三本をまず紹介。 ■「エレファント」 オススメ度 ★★★★ 監督/ガス・ヴァン・サント 出演/アレックス・フロスト エリック・デューレン ジョン・ロビンソン http://www.elephant-movie.com/elep_index.htm □あらすじ アメリカ・コロンバイン高校で起きた、二人の学生によるライフル乱射事件を、加害者や被害者となった学生たちの視点で描いた衝撃作。 □みどころ 銃が火を噴き、平和な高校の昼休みが阿鼻叫喚に包まれるまでの数時間を、加害者、被害者、そして難を逃れたクラスメートそれぞれの時間で同時進行的に描いて行く手法が面白い。引金を引いた二人も、被害者になったそれ以外の学生たちも、それぞれに抑圧が鬱積していて、事件直前まで誰が犯人となるのか予想がつかないところが空恐ろしい。 この事件を契機に、銃器天国・アメリカを痛烈に風刺し、その風土に根ざす精神構造や社会構造に鋭く切り込んだルポルタージュ・エンターテインメント「ボウリング・フォー・コロンバイン」(マイケル・ムーア監督)をぜひ合わせて観賞して欲しい。 ──────────────────────────────── ■「Lovely Lita」 オススメ度★★★ 監督/ジェシカ・ハウスナー 出演/バーバラ・オシカ クリストフ・バウアー ペーター・フィアラ http://bitters.co.jp/rita/ □あらすじ 体は大人なのに、社会的にも家庭的にも子供でいることを強いられる思春期。その真っ只中にいる少女リタは、行き場のない抑圧感を募らせ、問題行動をエスカレートさせて行く。それは、父の誕生日を機に彼女が再び家族に受け入れられることによって落ち着いたかに見えたが・・・ □みどころ 奇しくも「エレファント」と同日に観てしまい、ダブルの衝撃で暗澹たる思いに支配されつつ家路につくことに。ライフル乱射の後は、ちょっと不満げなカワイイ女の子のささやかな反抗劇で癒されようと目論んだのだが、甘かった。 衝撃のクライマックス。これが無ければ、単なる思春期少女の憂鬱を描いたロリータ映画なのだが、主人公がこの行動に至ることで、にわかにそれまで彼女にふりかかった様々な小さな出来事が意味を持って来る、この感覚が面白い。かのジョディ・フォスターが主演した名作「白い家の少女」を彷彿とさせるラストも実に印象的。ストーリーの流れから言って、本作がこの「白い家の少女」にそのまま繋がって行くと考えても違和感がないぐらいだ。 ──────────────────────────────── ■「ワン・テイク・オンリー」(2001年;タイ) おすすめ度★★★ 監督/オキサイド・パン(「the EYE」) 出演/パワリット・モングコンビシット ワナチャダ・シワポーンチャイ http://www.fullmedia.co.jp/oto/ □あらすじ 麻薬の売人で稼ぐ青年と、母への仕送りのために売春で稼ぐ少女が出会い、恋に落ちる。少女のシノギを知った青年は、彼女に足を洗わせるため、危険を冒して大きな取引の仲介に手を出すが・・・ □みどころ 時折挿入される、欲望や悪夢を表現した感覚的な映像が、単純なストーリーに時に疾走感を与え、時に主人公たちのジレンマを表現いて効果的。 売春、麻薬、困窮、暴力、拳銃、同性愛、賭博、ストリート・チルドレン・・・現代タイのアンダーグラウンドがこの映画に凝縮している。そして、クラブでイカした音楽に身を浸し、エステで磨き、カッコイイ衣装を身につけたいという欲望と現実とのギャップが少女売春の根底に存在することも垣間見えるが、これなどは、そこにつけ込んで彼女たちを買う中年男性の存在と共に、日本のコギャル文化、援交文化と大差なく、貧しさと贅沢願望の同居には少々驚きも感じる。 ━…━…━…━…━…━…━ koala's Info ━……━…━…━…━…━… ☆「きょうのできごと」 一般公開 昨年末、東京国際映画祭上映作の紹介としてレポートした行定勲監督「きょうのできごと」が劇場公開されています。レポートは書きアドレスで。 http://www.asahi-net.or.jp/~ns8m-hgc/movie/column/COL173.HTM ━…━…━…━…━…━…━ word of mouth━……━…━…━…━…━… 先週末公開された秀作をいち早くレポート!! ■「卒業の朝」 おすすめ度 ★★★★★ 監督/マイケル・ホフマン 出演/ケビン・クライン エミール・ハーシュ エンベス・デイビッツ ロブ・モロー エドワード・ハーマン □あらすじ 有名私立寄宿高校の有能な西洋史教師と、そんな彼でも教育出来なかったある名士の不良息子、そして彼らの影響を強く受けることになったその同級生たちとの関係を通して、教育とは何か、知識とは、人格とは何かについて問いかけるヒューマンドラマ。 □みどころ 学業にも人生にもまじめに取り組もうとしないその少年でも、その背景に名士特有の親子断絶があることを見抜いたこの有能な教師によって、一時は知識欲に燃えた時期があった。教師は、他の生徒を犠牲にしてまでも彼のその炎を絶やすまいと盛り立てるが、少年はその教師の信頼と愛情に対し裏切りで応え、教師は深い挫折感を覚える。年は経ち、生徒たちはそれぞれに成功をつかんだころ、長じたその少年は、名誉を挽回する機会を与えてくれるようその教師や同級生たちを招いてパーティを催す。今度こそ、成長した彼を見て安心できると、教師はその誘いに応じるのだが・・・ 無知な者は学べばいい。しかし、愚か者は一生、愚か者である。こんな論語のようなくだりが妙に印象に残る。ひとを教育すること、導くことはこうも難しい。それでも、総じてみれば、教師生活は教師に確かな手応えと達成感を残してくれる。そんな表裏の思いが交錯する、ずしりと重い問いかけを与えてくれる作品だ。 有能な教師の真剣な働きかけによって、周囲をも朱に染める強い影響力を持った問題児に起こった、勉学に燃えた奇跡のような数日は、二度と戻っては来なかった。しかし、あの充実した日々に嘘はなかったと教師は確信し、それがその後の教師人生の支えともなった。こんな物語と、「卒業の朝」というタイトルを合わせてみていると、ふと「レナードの朝」を思い出してしまった。医師の熱意と知力を絞った働きかけで、わずか数日間にせよ、硬直状態の神経疾患患者に「ごく普通の人としての日々」が蘇った。最終的には再びもとの病状に戻ってしまったという結果だけ見れば無意味だったのかもしれないが、そんな風に思う人は数少ないだろう。なぜなら、その数日間、患者は自らの意志を伝え、近しい者たちと、誰もがあきらめていた交流を果たしたのだから。そして、恍惚の病状の下に、確かな人間の感情が息づいていることも証明して見せたのだから。この過去作のエピソードは、そっくりそのまま本作にも置き換えることができまいか。この過去作同様本作も、こんなにも重く尾を引くテーマを、硬軟織り交ぜた巧みな演出とストーリー展開で、十分な娯楽性を以て楽しませてくれる。 <koala> |