恵比寿ガーデンシネマ上映作二本! 2004/05/15

■「グッバイ・レーニン」 おすすめ度★★★☆ 
 監督・脚本/ヴォルフガング・ベッカー 
 出演/ダニエル・ブリュール カトリーン・ザース 
 HP/http://www.gaga.ne.jp/lenin/
□あらすじ
 東ドイツが舞台。ベルリンの壁崩壊直前に心臓発作で倒れ、そのまま8ヶ月、祖国と社会主義が崩壊する歴史的イベントが相次ぐ激変期を意識不明で過ごした後目覚めた母にショックを与えまいと、西側文化が氾濫する中で、彼女の病室だけに「古き良き」東ドイツを演出すべく奔走する息子たちを滑稽かつ切なく描く。
□みどころ
 演出工作が高じて息子は遂に、真実の歴史を東側本意に歪曲した「ニュース」を捏造して母に見せ始めるのだが、彼はこの偽ニュースを通じ、西側住民が堕落と過当競争を逃れて東側に難民として流入しはじめてことを契機として東西統一へ至るという、自らの「理想」をシミュレートしてゆく。これが、西側融合の歓喜の影で祖国と文化を瞬時に失ったことによるアイデンティティの喪失にあえぐ東側民衆の複雑な心境を映し出す。「壁崩壊」を時間軸に沿って描いた作品は数多く制作されているが、本作は、一旦西化した生活をもう一度昔の状態に戻すという特異な状況を設定することで、その変化の大きさと人々の心情をよりデフォルメして描き出している点に、その着想の素晴らしさがある。
 奇しくも今、日本でも、半島と大陸を一度は手に入れながら米国との関係構築に失敗して全てを失ったという苦い歴史を、その発端まで巻き戻し、もうひとつの「成功」の歴史をシミュレートしてみせた「ロストメモリーズ」が公開中。祖国やその文化、思想が「敗北」し「否定」されるということが、その後の暮らしが如何に「結果オーライ的」幸福に満ちていたとしても、やはり民族の「心の傷」として胸の奥にわだかまり続けるのだということに、歴史を成功の方程式に書き換えて見せられることで思いがけず心躍る思いに導かれる、という発見によって気付かされる。その事実にこの二作は普遍性を与えてくれる。

■「ソニー」 おすすめ度:★★★
 監督/ニコラス・ケイジ
 出演/ジェームズ・フランコ ミーナ・スバーリ ブレンダ・ブレッシン
    ハリー・ディーン・スタントン  シーモア・カッセル 
 HP/http://www.gaga.ne.jp/sonny/
□あらすじ
 娼婦の息子として生まれ、自身も12歳から天才男娼として街の人気を一身に集めてきた青年は、長い兵役を機に足を洗うことを決意。しかし、帰郷した彼を待っていたのは、「商品」の復帰を喜ぶ母と、彼女が彼の相棒として用意した一級の娼婦。憧れた「堅気」の世界の堕落に失望した彼は、半ば自虐的に、慣れ親しんだ世界の底なし沼へと自ら堕ちて行く。
□みどころ
 望まない相手と結婚してまでこの世界から足を洗おうとする「相棒」を娼館の前で見送りながら、ドアを再び開けるべきか、このまま何処へか走り去るべきか、逡巡する主人公の葛藤を描いたラストがいい。

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■「世界の中心で、愛をさけぶ」 おすすめ度★★★★
 監督/行定勲
 出演/大沢たかお、柴咲コウ、長澤まさみ、森山未來、山崎努、宮藤官九郎
 HP/http://aiosakebu.yahoo.co.jp/
□みどころ
 何万年にも及ぶ人類の歴史を経てもなお、我々は、近しい者の死に対し如何に対処すべきなのか、その確かな術を知らない。死は、その者への思いを、永遠に劣化しない乾板に焼き付けてしまう。思いが清ければ清いほど、それに人は囚われ、抜け出せなくなる。でも、そうさせるのは、死人の願いでも思いでもなく、生き残った者の執着に他ならない。そのことをこの作品は、ある種唯物論的な語り口で教えてくれる。特に、<天国>は、生き残った者の、再会に賭ける執念が作り出すんだ、という一言は痛烈に印象に残る。
 表向き、大沢たかおと柴咲コウが主役ということになっているが、その実、大沢たかお=サクが、高校時代のアキとの短くも楽しい日々を述懐するシーンが大半を占め、大沢はまだしも、柴咲の登場シーンはごく僅か。その分、大沢たかおの少年時代を演じた森山未來と、アキを演じた長澤まさみが織りなす恋愛模様が展開の中心を占める。その意味で、まさに本作品の生命線を握るこの二人なのだが、一体どういう演出をしたらこうなるのか、それともこの二人の演技力がが素晴らしいのか、全く演技とは思えない程に、二人は恋人どうしそのもの。その二人の毎日が、間もなくアキの死というあっけない幕切れで終わること終焉に向けて、逆により一層輝きを増して行くのだからたまらない。あまりに切なく、あまりに残酷な二人の無邪気さに、胸は締め付けられ、涙が止まらない。普通、こうして一点収束してゆくストーリーは、「HANA−BI」のように、展開も徐々に収束して切なさを誘うものなのだが、その真逆を行く本作にすっかりハマってしまった。

■「キャシャーン」 おすすめ度★★★
 監督・脚本・撮影・編集/紀里谷和明
 出演/伊勢谷友介 麻生久美子 唐沢寿明 寺尾聰 樋口可南子 
    小日向文世 宮迫博之 佐田真由美 西島秀俊 及川光博 寺島進 
□みどころ
 映像作家であり、宇多田ヒカルの夫でもある紀里谷監督による、往年アニメの実写化。これだけの大作なのに、監督・脚本・撮影・編集を紀里谷氏が担当するという塚本晋也並の私製感と、伊勢谷友介、麻生久美子、寺島進といったキャスティングとが、微妙なカルト・テイスト、インディーズ・テイストを醸し出す。
 オリジナルを知らない者にとっては、ストーリーが今ひとつ飲み込めないし、そもそも悪者が誰なのか、キャシャーンは強いのか弱いのか、彼は何のために闘っているのか、という基本線がなかなか理解できない。でも、監督にははじめから、そんなものを説明しようとする意図はなかったのかもしれない。映像は終始感覚的で、時に極彩色に染まって非常に美しい。まるで全編が宇多田ヒカル唄う主題歌のPVのよう。シーン間の繋がりはしばしば不可解だが、長編と言っていい尺を見ていても飽きないし、終わってみれば、数々のシーンの映像が強く脳裏に焼き付いていることに気付かされる。

<koala>

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