シャンヌのパリ、そしてアメリカ 2000/12/23

■「シャンヌのパリそしてアメリカ」(1998年 英)評価 ★★★☆
監督/ジェイムズ・アイヴォリー
出演/クリス・クリストファーソン、バーバラ・ハーシー、リーリー・ソビエスキー、ジェーン・バーキン(!!)
受賞/1998年ヴェネチア国際映画祭、トロント国際映画祭正式出品
<東京では公開終了>
 
□あらすじ
「シン・レッド・ライン」「地上より永遠に」で知られる米国人作家ジェイムズ・ジョーンズの娘ケイリー・ジョーンズの自伝的小説に基づき、パリからアメリカへと移り過ごした多感な少女時代を支えた偉大な父の肖像を娘の目から描く。

□感想 
 娘が学校や恋愛で何か悩みがあったら、真っ先に相談したくなる父親。娘に恋人ができたら、家に招待してやって、自宅で一夜の床を共にすることを暗に許してやる父親。孤児を引き受けた養子にも実子と分け隔てなく、否、実子以上に接し、万全の環境を与えてやる・・・。
 ""Big Dad""の物語は古今東西数あれど、ここまで頼りになって物分りの良過ぎる父親像はちょっと見たことがない。たとえそれが、心臓疾患による早世という一族の呪われた宿命に促されたものであったとしても。という訳で、あまりにその父親像が現実から遠すぎて、共感もできなければ人間味も感じられない。「夫は癇癪持ち」などという妻の言葉が差し挟まれていたりはするが、結局そうしたシーンは登場しない。系統とすれば「プロヴァンス物語・マルセルの夏」、「プロヴァンス物語・マルセルのお城」の類に属する理想の家族像なのだが、ちょっとやり過ぎの印象が否めない。でも、逆にいえばそれだけこの父親像がすばらしい訳で、単に媚びるのではなく、如何に仕事し如何に家族と接すればその信頼と尊敬を勝ち取ることができるのかということのヒントが数多く散りばめられている。
 ひねくれ者の筆者としては、こうした真正直な描き方ではなく、「BARに灯ともる頃」「エリザ」「キャラクター 孤独な人の肖像」などに見られるような、どこか欠けた人間としての父親像をさらけ出すことで、はじめは強い反発を覚えた子供も、成長と共にその教師たる部分と反面教師たる部分とを自ら感じ、選びとって、人間どうしとして父と接することのできる大人になる、といった描き方や父親像のほうがすんなり受け入れられる。自分は絶対に本作のような理想的な人間を演じることはできない、というひがみから来るものなんだろうけれど。。。


■「日の名残り」 (1993年)
出演/アンソニー・ホプキンス、エマ・トンプソン
□みどころ
 アイヴォリー作品中筆者が最も好きな作品。
 主人への滅私奉公のために排した私情で心凍らせてしまった執事と女中の20年に及ぶ秘められた未達の恋を描く。
 誰もが期待したラストシーンでは、登場人物のあまりにも意外で悲壮な選択に絶句し、次いで涙があふれて止まらない。英国の名優共演による極めて英国的な作品。前半部は展開が遅く眠気を誘うが我慢して終幕のドラマを待とう。

■「眺めのいい部屋」 (1985年)
出演/ヘレナ・ボナム・カーター、アギー・スミス
□みどころ
 英国人娘がイタリア旅行中、「眺めのいい部屋」を譲り受けたことがきっかけで知り合った風変わりな青年。彼女は奥ゆかしい英国にあって唐突でストレートな青年の恋情表現に戸惑いながらも、曲折の末彼を受け入れる。
 娘が装おうとする英国風な気品と、それを破壊せんとするかのごとき青年の奇行。このバランスが絶妙で、忘れがちなディテールを思い出そうと何度も見たくなってしまう不思議な作品。

■「ハワーズ・エンド」 (1991年)
出演/アンソニー・ホプキンス、エマ・トンプソン、H・B・カーター
□みどころ
 資産家の妻が愛した別荘「ハワーズ・エンド」が、妻の死後辿る譲渡先にまつわる数奇な運命を描く。英国社会に色濃く残る身分差別や、親族の名誉を重んじる故の風評への過敏さを浮き彫りにしてゆく。アイヴォリーが米国人の立場で英国社会を客観的に見られるということがこうした視点を可能にしているのだろう。
 
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