カオス 2000/11/06

■「カオス」(1999年 日) 評価 ★★★★
監督/中田秀夫
出演/萩原聖人、中谷美紀、光石研、國村隼、新恵みどり
受賞/2000年第18回ブリュッセル国際ファンタスティック映画祭、第1回ヌシャテル国際ファンタスティック映画祭、第5回ファンタジア国際映画祭 各招待作品
 
■あらすじ
 便利屋に若い女から狂言誘拐の依頼が舞い込む。その裏には大きなトリックが仕込まれていた。女は彼を「利用」したつもりだった。が、依頼の陰の部分を知った便利屋は攻勢に転じ、そこに微妙な男女の恋情が絡んで、事態は意外な展開を遂げる。

■感想 
 出来事を時系列通りに並べれば、きっと他愛も無いサスペンス・ドラマになってしまったであろう。それを、主人公それぞれの時の流れをいくつかのシーンに切り分け、時間と空間とをばらばらにして繋ぎ合わせたことで、三者三様に「一発逆転」を目論む野心と不安が浮き彫りにされ、息詰まる緊張感を醸し出すことに成功している。こうした技法はサスペンスでは常套的に用いられているもので、ちょっと思いつくだけでも
 ●「見知らぬ乗客」 監督:アルフレッド・ヒッチコック
 ●「ジャッキー・ブラウン」 監督:クエインティン・タランティーノ
 ●「現金に体を張れ」 監督:スタンリー・キューブリック
など古今枚挙に暇が無い。

 この作品の生命線は、「開き直り」によるキャラクターの変貌。その意味で、便利屋=萩原の存在は大きい。困った依頼に戸惑うと思いきや、依頼人も血を凍らせる念の入った「リアリティ」を追求する。困った事態に窮すると思いきや、さらに念の入ったトリックで反攻し、見事狙った獲物を仕留める。

 ラストシーンの是非、理解の可否は評価が分かれるところだろう。監督の意図としては、「なんで?」という感覚を残す後味の悪さを狙った、ということらしい。しかし、敗者と思えた男の忍ばせたアイテムがその引き金であったことを思えば、その瞬間に勝者の軍配が彼女の側からその男へと移ったのだ、と、あっさり解釈することも可能だ。ミステリアスと受け止めるか必然と受け止めるかはすべて観客に委ねられている。

 「主人公の男は、あのあとも延々と人生を生きて行くのだろうな・・・」撮影後漏らした主演・萩原の一言が、この作品、特に問題のラスト・シーンを実に深く言い表わしているような気がする。

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<サイコ・サスペンスで暗く輝く萩原聖人>
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 さて、中谷美紀ほどのマドンナを差し置いて、その暗い輝きで常に作品を支配していたのが萩原聖人。ここで、彼が過去に同様に輝いて魅せたサイコ・サスペンス二作を振り返ってみよう。

 まずは奇才・黒澤清監督のイメージを完全にまで体現したこの作品。

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■「CURE」 (1997年 日)  監督:黒澤清
出演:役所広司、萩原聖人、中川安奈、うじきつよし、洞口依子
□あらすじ
 連続猟奇殺人事件を背後で操る元精神科医学生と、一人の刑事との、善悪を超えた精神の攻防戦。
□みどころ
 「羊たちの沈黙」と「ドグラ・マグラ」を融合させたようなストーリーと、暗く息詰まる映像は、従来の日本映画のイメージと限界とを超越している。その後の「リング」など数々の和製サイコスリラー隆盛の発端となるこの作品は、とかく黒澤監督の技量によるものとの評価を受け勝ちだが、実は主人公のサイコを演じた萩原の素材と演技力に負うところが大きい。童顔で、体つきも声も大人になりきっていないことから来る第一印象を見事に裏切る深い心の闇と屈折。鬱屈した激情。僅かに相手から外した視線で、抑揚少なく繰り出される彼の台詞は非常に映画的で、それがさらに観客の想像力を掻き立て、恐怖を誘う。
 大きな期待も無く入った映画館でこの作品を観た私は、国際的名優役所広司を完全に食った萩原の存在感に身震いを覚えたものだ。
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 次いで、その豪華なキャスティングでヒットしたこちらの作品。

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■「マークスの山」 (1995年 日)  監督:崔洋一
出演:中井貴一、萩原聖人、小林稔侍、古尾谷雅人、名取裕子、萩原流行
□あらすじ
 名門大学山岳部出身者の連続殺人が発生。今や高い階級にいる彼らには、全共闘時代のある事件に絡む封印された過去があった・・・
□みどころ
 居並ぶ性格俳優に混じって、萩原は「得体の知れない」存在感を見事に発揮。ラストを予想させず、劇中の殺害ターゲット同様に、観客を恐怖へと導く。そうした破壊的な側面と、名取の前で子供のように甘える男という母性本能をくすぐるような一面とを同居させられるのは彼ならでは。

<koala>

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