ひまわり(2) 2000/08/23

〜久々のイチオシ作品登場!〜

■「ひまわり」(2000年 日) 評価 ★★★★☆
監督/行定勲
出演/麻生久美子、河村彩、袴田吉彦、マギー(ジョビジョバ)、粟田麗、土屋久美子、光石研、北村一輝、ボブ鈴木、ひふみかおり、戸田昌宏
<シネマカリテで上映中(〜9/1)。盛岡・仙台・福島各フォーラム、名古屋ゴールドで9月下旬から公開予定>
 
■みどころ
 最近日本映画の中に確固たる地位を築きつつある、感受性の強い青春の一コマを描いたいわゆる「みずみずしい系」作品の傑作である。全編で2時間強と、この手の作品としてはかなりの長尺でもある。 

 離れ離れになって10年近く経ったある日、小学校時代の同級生の事故死が報道された。主人公の記憶からは消え去りつつあったその名だが、彼女の死の直前、彼の留守電に彼女の謎のメッセージが残されていた。そして地元で行われた葬儀に集い思わぬ旧交を温め合うかつての同級生たち。そして死者の最後の日々や、小学校時代の参列者たちとの関わりについてが、次第に明らかになって行く。その作業の中でおぼろげに、そして遂には鮮やかに蘇る主人公と彼女との淡い恋の想い出。

 そうした過程が、実に自然で繊細な描写で描き込まれていて、観ている方も胸が痛くなるやら涙が溢れるやら。自分の思い出が知らず映画の登場人物たちのそれと重なって、鮮やかに彩られて行くのに気付かされる。

 数ある「恋人」たちの彼女を見る目は表面的。誰も本当の私を、私自身を愛してくれてはいない。でも、小学校のとき、誰もが暗いと言い、自分でも太陽を拒んでいたはずの私を「ひまわり」だと言ってくれた人がいた。もしかすると、彼だけは、本当の私を、いや、私も知らない私の本質を見つめていてくれたのではないだろうか。浮き彫りになった彼女の最後の日々は、そのように淋しく追い詰められたものだった。でも、主人公やその恋人をはじめ、集った友たちもまたそれぞれに、同じような想いを胸に日々を暮らしている。そうしたところを、説明口調でなく自然に映像で伝える監督の手腕には感服。

 死者を肴にした昔語りの中で、彼女には隠れファンもいたりして、以外に本人の知り得ぬところで愛されていたのではないかとも思えてくる。でも、生前の彼女には底知れぬ空虚感が圧し掛かっていたのだ。他人に対して本気で接することを避ける現代の心の闇が垣間見える。一つの宿念が果たされたところに、現在進行中の淋しい魂が電話をかけてくる。この演出も心憎い。

 それにしても「同窓会」というのはなんと詩情溢れる催事なのだろう。本作を始め「コキーユ」や「同窓会へようこそ」。果たしきれずに残された幼い「想い」でこの何れ劣らぬ秀作である三作品は共通する。

 こうした作品はビデオでの鑑賞が主になりがちなのだが、映像の透明感はやはり映画館に限る。こうした小作品こそ、逆に映画館で作品が持つ映像力を存分に堪能して欲しいものだ。

<koala>

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