HYSTERIC 2000/06/11

■「HYSTERIC」(2000年 日本) 評価 ★★★★
監督/瀬々敬久
出演/小島聖、千原浩史、鶴見辰吾、村上淳、余貴美子、阿部寛、寺島進
受賞/第44回アジア太平洋映画祭・第29回ロッテルダム映画祭・
   第24回香港国際映画祭 各正式出品 
<テアトル新宿にてレイトショー公開中>
 
■あらすじ
 不良上がりの水道配管工と夜間短大生が実際に辿った破天荒なロードをモチーフに、フリークを唸らせる名曲というブルース・スプリングスティーンの「生きる理由」をイメージして描き上げられた現代日本版ボニー&クライド。

■みどころ
 ボニー&クライドという物語をご存知だろうか。運命的に出会い結ばれた男女が強盗を繰り返しながら全米を漂泊、神出鬼没の彼らは人々を震撼させつつも、一種のヒーロー的な受けとめられ方をされてゆくという米国人なら誰もが知る実話(宇多田ヒカルも「B&C」で歌ってる)。ウォーレン・ビーティ主演「俺たちに明日はない」ほか、響き合う愛の理想型として数々の映画のモチーフとなってもいる。
 本作は、'90年代というまさに現代日本で実際に起きた放浪アベック強盗事件を巧みに映画的に脚色して描かれた日本版B&C。主人公は、社会の片隅にひっそりと生き、夢を見ることさえ許されない無名の若者たち。アメリカ版のように事件でヒーローになることもなく、破天荒なロードの中でも、絶望と希望が交錯し、ひたすら生きることの輝きを実感する瞬間を求め続ける彼ら。蟻地獄のように、もがいても離れても運命的な縁によって引き寄せられてしまう彼らの<最後の出会い>が招く悲劇的結末に向かって、時間軸を自在に重ねた展開で述懐形式によって語られてゆくスタイルが、彼らの顛末を丁寧に紐解いて行く。
 この映画の成功は、脚本の完成度の高さに加え、的確なキャスティングによっても支えられている。ここでも自然で表情豊かな演技を見せ付け、貫禄と余裕さえ感じさせる主演の小島聖は別格としても、もう一人の主演・千原は、彼女の懐の中で持ち味を充分に出して、抑圧された若者の感情のほとばしりを体当たりで表現。最近こういう役どころは浅野忠信の十八番ではあるが、あえて経験の浅い千原を配したことでかえって薄っぺら感や予測不能な言動の恐怖感を出すことに成功している。

■はみだし
 上映中の<テアトル新宿http://www.cinemabox.com>は新宿伊勢丹隣。もともと邦画上映に積極的な東京テアトル傘下の館の中でも気鋭映像作家の手による日本映画の公開がとりわけ多く催され、目をつけた作家は無名時代から作品をフォローし続けるという地道なプロデュース的姿勢はファンにも信頼感を以って支持されている。近年では、北野武「HANA−BI」や、TEAM奥山プロデュース「SCORE」の成功が目新しいところ。
 毎週水曜日は終日1000円均一の破格値で鑑賞することができる。

<koala>

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