年下のひと 2000/05/17

■「年下のひと」(1999年 仏) 評価 ★★★☆
監督/ディアーヌ・キュリス
出演/ジュリエット・ビノシュ、ブノワ・マジメル、ヴィクトワール(「ポネット」)、イザベル・カレ(「視線のエロス」)
<渋谷ル・シネマにて公開中>
 
■あらすじ
19世紀パリ。若き劇作家アルフレッド・ド・ミュッセと人妻の女流作家ジョルジュ・サンドとの、激しく破滅的な恋路を、実話に基づいて描く。

■感想 
 6才も年上、しかも離婚直後の元伯爵夫人であり、二人の子持ちでもある進歩派の女流作家と、若き新進気鋭の劇作家。現代に於いても十分に衆目を集めるであろうこの組み合わせ。文学と言う共通語が二人を結び付けながら、逆に重なり合うその世界が二人を傷つけ合わせ、年齢や境遇の違いからくる愛し方の違いが破滅へと導く。

 ひとことでいうなら、壮絶である。ひとの性(さが)というものを感じずにはいられない。

 設定も作品の契機も異なるのだが、同じくビノシュが主演し、美しい人妻と若き騎士のプラトニックな恋を描いた「プロヴァンスの恋」(1995)の続編的ストーリーと受けとめてもいいだろう。年下の男。コレラやペストが流行したという時代背景。フランスからイタリアへの道行き。老伯爵の若き夫人であったという点。無関係というにはあまりにこの二作品は符合している。憧れや幻想から一歩、関係を具体化させた途端に破滅への道を歩み始める危うい関係。美しい「プロヴァンスの恋」の想い出が踏みにじられて行くようで、切なさが募る。

 設定やテーマには興味深い点が多いのだが、ベースが実話であるせいだろうか、展開がエピソードをめまぐるしく追うものとなって個々のシーンや心象の掘り下げが浅くなってしまったこと、殊更に感情を抑えたビノシュの演技が画面を沈鬱で変化に乏しいものとしてしまったこと、のために、壮絶さとやるせなさは伝わるものの、不思議に感動は呼ばない仕上がりになっていて少々残念ではある。キレが悪いと言えばよいか。
 劇中の設定同様、ビノシュが12才も年下のマジメルと本当に恋に落ちてしまったといった事情も、多少は影を落としているのかもしれない。

 特筆すべきは、世界を席巻した「ポネット」のヴィクトワールがジョルジュの娘役で、また、『主観カメラ』という技法で中年男性の若き女性に対する思いを表現した「視線のエロス」で主演したカレが、ともに久々、元気な姿を見せてくれたこと。重く壮絶な展開の中、この二人の醸し出す<はんなり>した雰囲気がどれだけスクリーンを和ませてくれたことか。

<koala>

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