フェリシアの旅 2000/04/13

■「フェリシアの旅」(1999年 英加合作) 評価 ★★★★
監督/アトム・エゴヤン(「スウィート・ヒアアフター」)
出演/ボブ・ホスキンス、エレーン・キャンディ、アルシネ・カーンジャン
受賞/第52回カンヌ映画祭正式出品 
<シネマライズにて公開中(〜4/21)>
 
■あらすじ
 恋人を追いかけてアイルランドからイギリスへ渡ってきた少女フェリシアと、不安で壊れそうな彼女に力を貸してやる心優しい優雅な老人ヒルディッチ。でも恋人は見つからず、加えて老人の知られざる恐ろしい一面が次第に明らかになって行く・・・
 「エキゾチカ」「スウィート・ヒアアフター」に次ぐ監督の三部作の完結編とも呼べる一作。

■感想
 ほのぼのとしたオープニング。部下に尊敬され、仕事に情熱を燃やし、充実したプライベートを謳歌する老人ヒルディッチ。観客の誰もが彼のことを好きになったところで、フェリシアの登場。不安げな彼女にヒルディッチは案の定、救いの手を。「やっぱりいい人だ・・・。」安心はしかし、ここまで。歩み去る彼女をバックミラーで見送る彼の視線に影が差す。「・・・?」あとはもう、祈る想いの2時間である。
 展開もなかなか技巧的。二人の事情や過去は、折々に挿入されるフラッシュバック映像で断片的に、しかしわかりやすく観客に説明されて行く。このリズム感が計算し尽くされたように絶妙。プロの仕事を感じさせるキレの良さだ。ヒルディッチの二面性や、「偉大な」母への逃れられないコンプレックスを余裕の演技で魅せてくれたホスキンス
 しかし、この映画の魅力は、こうしたストーリーにも、技巧にも増して、主演のフェルシア役、新星エレーン・キャンディの神秘的な瞳の美しさにある。この猟奇老人をして「アイルランドの瞳」と呼ばしめ、容易に近づくことができないほどの純粋さ、素直さ、真剣さ。こうした少女フェリシアの人となりを瞳だけで雄弁に表現してしまうのだ。そしてそれは、彼女の新人離れした天性の演技力によってしっかりと裏付けられている。
 「息を呑むほど美しいサスペンス」という本作のキャッチコピーも納得。決して美形でもなく、どこか垢抜けないアイルランド片田舎の少女然としたその雰囲気に不釣合いなほどに異彩を放つ瞳。それはどこか、ジプシーの少女の美しさに通じるものであり、エスニックでエキゾチック。まさに神秘そのものだ。

 渋谷シネマライズでの公開はまもなく終了し、その後の全国各地での公開予定は不明だが、機会があればぜひ、映画館でこの瞳を「体験」していただきたい。

<koala>

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