ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ | 2000/02/26 |
■「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」(1999 独) 評価 ★★★★☆ 監督/ヴィム・ヴェンダース(「パリ・テキサス」「都会のアリス」) 出演/ライ・クーダー、イブライム・フェレールほか、グラミー賞アルバム「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」を作ったキューバン・ミュージシャンたち <渋谷「シネマライズ」にて公開中> ■あらすじ 1997年のグラミー賞を獲得したライ・クーダープロデュースによるキューバン・ミュージック・アルバム「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」。音楽的環境の変化もあって情熱を失い、20年以上も一線から退いていた老ミュージシャンたちを蘇らせたギタリスト、ライ・クーダーによるこの企画のメイキング・フィルムであるとともに、ライとの友情でメガホンを取った巨匠ヴェンダースの巧みな映像構成によって、一時はその音楽と共に忘れ去られたミュージシャンたちの人生や苦悩、心の奥に残り火となって燃えつづけてきた音楽への思いが、全編に流れる19曲にも及ぶキューバン・ミュージックと一体となって観客の胸を揺さぶる。 ■感想 これは果たして「映画」か、「メイキング・フィルム」なのか、それとも「プロモーション・フィルム」なのだろうか。映画館でこのような作品を観る事ができること自体、とても不思議な感じがする。そして、これほどに音楽を、演者の個性を、「堪能」することができるフィルムも例を見ない。観終わった後のこの満足感は、名画「太陽がいっぱい」のラストシーンでの主人公の心情にも通じるものがあり、実際フィルム中でも、アルバムのプロデューサーであり、誰よりもキューバン・ミュージックを愛するライ・クーダーが、波打ち際でチェアーにもたれ、老練な演奏に至上の心地で耳を傾ける印象的なシーンが描かれている。演者も、製作者も、そして観客も、皆が満足感に浸ることができ、この時間が永遠に続くことを願わずにはいられない映画。それがこの「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」だ。そのことを証明するかのように、上映終了後のロビーでは、アルバム「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」や関連CDが即時完売となっていた。 現在では、「サルサ」や「レゲエ」などのジャンルに分化し、その位置付けを失ってしまった古き良きキューバン・ミュージック。アンデス、タンゴ、レゲエ、アフリカン・・・。キューバ民族のルーツを彷彿とさせる各曲各様の混沌とした懐かしい雰囲気は、鹿鳴館時代から「ジャングル」ブームを経た今日まで、それぞれの世代の心に失われていた「何か」を呼び覚ましてくれる。渋谷中心部の映画館ながら、高校生から老人まで、幅広い観客が集っていたことに、この映画の、音楽の奥深さが表われている。 カリビアンサウンドのファンも、ヴェンダースファンも、そのどちらでもない人も、可能な限りぜひ、映画館に足を運んで、素敵な二時間を堪能してほしい。とにかく人にそう勧めたくなる。そんな魅力的な映画だ。 <koala> |