BULLET BALLET/バレット・バレエ 2000/04/21

「BULLET BALLET/バレット・バレエ」(1999 日) 
評価 ★★★★ 
監督・脚本・製作・撮影監督・美術監督・照明・編集/塚本晋也
出演/塚本晋也、真野きりな、中村達也(Blankey Jet City)、田口トモロヲ、鈴木京香、井川比佐志
<モノクロ作品//渋谷シネ・アミューズにて公開中>
 
■あらすじ
拳銃自殺によって長年同棲していた恋人を失った男が、その自殺の意味を知るために自ら拳銃入手に奔走し、少年たちの暴力に支配される都市の闇へと深く身を沈めて行く。そこで男は暴力集団のマドンナ的な一人の少女に出会う。
死を願い生存を恐れる二つの魂は不可思議に交錯し、やがて意外な結論へと導かれて行くことになる。

■感想
 奇作「双生児」と相前後して製作された本作品。異彩を放ちつつも独善的カルトの域を出なかった「鉄男」シリーズや「TOKYO FIST」の頃の監督とは明らかに異なって、観念の表現者として大衆にメッセージを伝えるための「共通言語」を持つまでに成長している。しかも、映像の暴力と言う外ない持ち前の圧倒的映像パワーはそのままに。これはとりもなおさず、「無敵」を意味する。末恐ろしいクリエイターの出現である。

 妻の死→死に場所探し→生への回帰という明確なストーリー展開に、乾いた暴力と、純愛とも呼べる千里と男とのピュアな精神の交流という対極的な要素を絡め、膨大な数のカットを駆使した破壊的映像の傍らで、生への回帰が死への恐怖を掻き立てるという微妙な心理の変化をも繊細に描くことに成功した。モノクロという手法の選択も大成功。不必要に流血の赤色が印象に残ることを抑制し、ストーリー展開が前面に押し出される。また逆に、血に鈍感なモノクロスクリーンのおかげで、現実離れした凄惨な暴力シーンが心置きなく描き得たとも言える。

 俳優陣は秀逸。背中に中年の哀愁を漂わせる主演塚本はもちろん、ピュアさ、カリスマ性、娼婦性を併せ持つ真野きりなの不思議な存在感は見事。そして何より特筆すべきは、ロックミュージシャンで映画初出演である中村達也の圧倒的カリスマ性。内田裕也+豊川悦司+原田芳雄=中村達也。こんな方程式が成り立ちそうなゾクゾクする魅力を発揮。今後の俳優活動の本格的展開が楽しみだ。

 音響は大迫力。映画館の床から椅子を伝って体を直にゆさぶるボディーソニックのような重低音の威力は凄まじい。うっかりしていると、この音響と映像の刺激によって自我を失い、精神を冒されそうである。
 小作品でビデオでの鑑賞が主たるものとなりがちな塚本作品だが、<暗闇で大音響>これが本当の鑑賞の仕方なんだと改めて認識させられる。「鉄男」なども、こうして映画館で大音響下に観れば何倍もの刺激を受けたのではないだろうか(正気でいられる自信がないので遠慮するが)。

 本作は本年新春からフランスでまず上映されて、それから日本に逆輸入されるという特異な形で入ってきたもの。死生観はどこか北野監督作品とも通じるものがあり、欧州での高評価はとてもうなずける。

<koala>

koala TOP koalaの映画三昧 TOP koalaのミニシアター 映画メルマガ「movie times」 掲示板