セイヴィア 2000/04/13

■「セイヴィア」(1998年 米) 評価 ★★★★☆
監督/ピーター・アントニエビッチ
製作総指揮/オリバー・ストーン 
出演/デニス・クエイド、ナスターシャ・キンスキー、ナタサ・ニンコヴィッチ、ステラン・スカルスゲールド
<東京上野スター・ムービーにて公開中(予定〜5/19)>
 
■あらすじ
 イスラム原理主義者のテロによって妻子を目前で奪われた米国軍人ジョシュア。彼は自らの手で礼拝中のイスラム教徒たちを皆殺しにし、それでも収まらぬ怒りと憎しみを胸にセルビア側外人部隊として戦火のボスニアへ。際限なき殺戮の日々の中、一人の不幸なセルビア人妊婦ヴェラと知り合い、程なく生まれた赤子を交えた三人での逃避行の中、彼は失いかけていた人間性を取り戻して行く・・・。

■感想
 オリバー・ストーンがまたやってくれた!
 戦争、特に代理戦争の無意味な現実をドラマティックに映画化させれば、この人の右に出る監督はいない。その思いをこの映画は再確認させてくれる。厳密には本作ではオリバーの立場は製作(=プロデュース)サイド。現実にどれほど彼の創造性がフィルムに反映されたのかは定かではない。しかし、彼の作品を知る人なら、これが彼以外の作品ではあり得ないことを誰もが確信するであろう。「プラトーン」や「天と地」と並ぶ、いや、これらを凌駕すると言ってもいいほどの、胸打ち震える感動大作だ。
 
 外人部隊=傭兵という生き方。家庭思いの優しき夫であり父親であった一人の男が、たとえその家庭を奪われたからと言って、ここまで人格を破壊することができるものだろうか。イスラムへの憎悪は彼を、軍人・民間人を問わず、一人また一人、確実冷徹に殲滅してゆくスナイパーへと変容させた。自らの命をも賭けての無差別復讐。彼はその作業が決して自身を苦しみから救い出せないどころか、むしろそれを増大させるであろうことを自覚している。それだけに、撃つジョシュアの苦悩と撃たれるモスレムの無念とが交錯する映像が底知れぬやりきれなさを漂わせる。まさにオリバーの真骨頂。映像力は圧倒的だ。

 そんな主人公は、久々に訪れた村で目にした人々の無残な現実によって突然目覚める。敵機による猛攻の中呆然と絶ち尽くすジョシュアの姿が印象的だ。そして捕虜として陵辱の末モスレムの子を身ごもったセルビア女性との出会い。生前の妻子へ償うかのようにこの母子に愛を注ぐ彼。中盤でのこの流れの転換が実に鮮やか。ここからラストにかけての愛に満ちた展開にはしかし、ジョシュアにとってこの母子は、亡き自らの妻子として映っているのではないか?彼が愛し守ろうとしているものは幻ではないのか。幻覚の映像化などといった安っぽい技法を使っていないだけに、こうした「一度壊れた男」の複雑な心象を表現し得たクエイドの深い演技が光る。

 共演はナスターシャ・キンスキー。しかし出番は冒頭の僅か5分足らず。少しもったいない感じもする。それでも、夫ジョシュアをセルビアへと向かわせる喪失感の原点となるためには、そしてそれを観客に強く印象付けるには、彼女の「格」がどうしても必要だったのだ。「時の翼に乗って」を彷彿とさせる出演形態だ。

 こんな名作が単館上映で終わってしまうのは非常に残念。一連のオリバー・ストーン監督によるベトナム関連作を愛する人々はもちろん、「アメリカンヒストリーX」といった社会派作品に感動を覚えた人にもぜひ観て頂きたい秀作。

<koala>

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