カリスマ 2000/03/11

■「カリスマ」(1999年 日本) 評価 ★★★☆
監督/黒沢清 (「CURE」)
出演/役所広司、池内博之、大杉漣、洞口依子、風吹ジュン
受賞/カンヌ国際映画祭 監督週間正式出品
<テアトル新宿にて公開中>
 
■あらすじ
 休職し、憩いを求めて森にやってきた刑事。しかし意外にもそこは、人も木々も、生きとし生けるものが自らの「生」を賭けてせめぎあう「戦場」であった。そして、刑事の出現=参戦により、それまでかろうじて微妙なバランスを保っていた森の支配構造が乱れ、いつしか彼がその頂点に立っていた・・・。

■感想 
 後味の悪さ絶品の「いやな映画」である。これは決してけなしているのではなく、誉め言葉である。思えば同監督の「CURE」もとても「いやな映画」だった。血しぶきが飛ぶわけでも、幽霊が出るわけでもないのに、二時間かけてじっくりと精神的に追い詰められ、漠然とした底知れぬ恐怖感に陥れられる映画。テーマは異なるが、こうした基本構造では両作品共通している。ホラーでもスリラーでもオカルトでもない「ジャンル・クロサワ」。フランスを中心とするヨーロッパでは近年、「日本にもうひとりのクロサワあり」と評価が急速に高まっているという。

 とりあえず、鑑賞直後の感想は「なんじゃこりゃ」である。契機も結論も展望もない物語に混乱させられたまま無言で映画館を後にするしかない。かといって、「駄作だ」という印象は皆無。帰途、そして帰り着いた自室で音楽もかけず脳裏にフラッシュバックする断片的なシーンの数々をぼんやりとやり過ごすうちに、一つ、また一つと、霧の中からこの映画のいくつかの「細部構造」が浮かび上がってきて、やがて漠然と、大きな流れが見えてくる。支配・権力構造は多重でしかも輪廻の構造を成しているのだ。そこで始めて、役所広司や大杉漣がこの難解な役どころをいかに好演していたかがわかる。

 生か死か。生は他者の死を、他者の生は自らの死を意味するのみで、「共生」という選択肢はないのか。刑事が受け取った「世界の秩序を回復せよ」というメッセージは何を意味し、果たされたのか否か。通貨が無価値化し、街が炎上する終末感に満ちたラストと、それをある達成感を以って受け止める主人公の対比が意味するものは何なのか・・・。

 ぜひ映画館の閉鎖された暗黒の空間で鑑賞して、不安と混乱に苛まれたその後の数日間を過ごしてください。

<koala>

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