アメリカン・ヒストリーX 2000/03/21

■「アメリカン・ヒストリー X」(1998年 米) 評価 ★★★★☆
監督/トニー・ケイ(非承認。E・ノートン助編集)
出演/エドワード・ノートン、エドワード・ファーロング(T2)
受賞/アカデミー賞・シカゴ批評家協会賞最優秀主演男優賞ノミネート
   ほか、受賞・ノミネート多数
<恵比寿ガーデンシネマにて公開中(3月現在)>
 
■あらすじ 
 父を黒人に殺害された息子デレクは、怒りをそのまま狂信的な白人至上主義活動に注ぎ込んで行く。そしてある夜、彼はついに黒人夜盗団を殺害、服役する。獄中で彼は、白人至上主義者たちの矛盾した現実と、黒人社会の「情」に触れ、別人のようになって出所する。しかし故郷では、弟ダニーが兄の後を追って兄のネオナチ仲間たちと行動を共にしていた。デレクは弟を立ち直らせ、抗争の勃発を阻止しようとするが・・・

■感想
 ブロンクス物語の上を行く重いテーマを、目を背けることなく偽善も持ちこまずに見事に描き出した秀作。研ぎ澄まされた脚本と、それに命を与える演者たちの鬼気迫る演技。まるでドキュメンタリーを見ているようだ。
 怒りの権化と化し、黒人を惨殺して雄叫びを上げるデレク(=ノートン)の狂気の眼光は生涯観た者の脳裏を離れないだろう。そして、それとは表面上対照的な家族への愛の深さ。そこで見せる優しい眼差し。さらに、監獄内での怯え、出獄後の憑きものの落ちたような平穏な表情。さぞかしストイックに取り組んだであろうノートンによる同一人物とは思えないこの人格の変化の演じ分けがあまりに見事だ。
 そのノートンを凌ぐ強い印象を残すのが、弟ダニーを演じたE・ファーロングだ。ノートンとは対照的にごく自然体でありながら、家族が経験する過酷な運命に翻弄される思春期の少年の内なる高ぶるエネルギー、危うさ、脆さを見事に体現している。「ターミネーター2」での幸運なデビューから8年。ぜひ数少ない子役からの大成を成し遂げて欲しい。
 しかし、これほどの秀作が単館上映となってしまったのはどういうことなのだろう。資料によれば、監督が編集した本作は90分であったところを、制作側の指示でE・ノートンが再編集に助力してこの公開版が完成したという。監督は未だこれを自作とは認めておらず、こうした混乱も配給の消極姿勢に影を落としているのかもしれない。また、社会派の問題作であり、後味も決して良くないという、娯楽とは程遠い作品であることから、地方での集客力が見込めないという読みもあったのだろうか。何れにせよ全国の多くの人々が劇場での鑑賞の機会を得られないというのは非常に残念だ。身近に上映館のない読者は、是非このコラムを記憶に留められて、将来リリースされるであろうビデオを心待ちにされたい。
<koala>

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