追憶の上海 2000/02/13

「追憶の上海」(1998年 中国) (原題:「紅色恋人」)
評価:★★★★
監督:イエ・イン(葉纓)<「レッド・チェリー」>
出演:レスリー・チャン(張國榮)、メイ・ティン、タオ・ツァオルー
上映:新宿<シネマ・カリテ>

■あらすじ 
 1936年、上海。亡き妻の遺志を継いで共産主義革命の実現に闘志を燃やすジン(チャン)と彼への愛を秘めて従う偽装妻チュウチュウ(ティン)、そして外科医としてジンを救い、彼らと関わるうちチュウチュウに愛にも似た感情を抱くようになる米国人ペインが織り成す壮大な人間ドラマ。

■みどころ
 「上海グランド」、「宋家の三姉妹」、「シュウシュウの季節」、そして本作。コンスタントに近代中国を舞台にした秀作が続いている。それにしても、大東亜戦争を挟む激動期の中国という「世界」は、なんとドラマティックなのだろう。そう、この時代の中国、特に上海という街は、まさに「世界」の縮図なのだ。蒋介石率いる資本主義を標榜する国民党と、農民革命としての共産党との対立の構図の中、各列強の支配する租界が入り組み、そこに強引に割込もうとする日本という後進の覇権国。望まずして国際色豊かとなったこの街では、日夜権謀術数が巡らされ、陰謀を包み隠すように華燭の典が打ち続けられる。
 この物語は、そんな歴史の波に道標を与えるが如く、高邁な理想に命を捧げた男女と、順風満帆、前途洋々な人生を無に帰し、友人をすべて失ってまでも彼らを助け、見守った一米国人の物語。監督がある老人に聞いた逸話を大きく膨らませた脚本だそうだが、「宋家の三姉妹」同様、中国映画の緻密な脚本構成力には毎回舌を巻く。本国中国では、共産主義革命の闘士が恋愛感情を活動に持ち込んでいたという設定が物議を醸したそうだが、ちゃんと鑑賞すればそんな批判が的外れであることは歴然。革命と人民の開放という「ロマン」にすべての愛を同化させて散った彼らの想いが文化大革命で世代を超えて結実するという描写は、その是非を超えてこの上なく美しい。
 この壮大なドラマを演じる名優レスリー・チャン(カッコイイ!)、そして新人のメイ・ティン(美しい!健気!)の二人は実に絵になるすばらしい配役だ。敵役で、後半チュウチュウの数奇な運命の裏付けとして絡む秘密警察幹部ハオミンを演じたタオ・ツァオルーの不気味な存在感もなかなかいい。
 プログラムの中で石子順氏も述べているが、冒頭真紅の文字で掲げられる「紅色恋人」という原題は素敵だ。直訳すれば<共産党員(アカ)の恋人>だが、それだけではないところが表意文字=漢字のすばらしさ。「述懐」「回想」という色合いの強い邦題や米題(""A Time to Remember"")とは違って、時を経てなお鮮やかな色を失わない若き日の愛をも「紅」という文字が物語っている。
 
 神保町・岩波ホールで凱旋上映されている「宋家の三姉妹」とぜひ合わせて鑑賞してもらいたい。期待に応えてくれる秀作だ。
<koala>


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