地雷を踏んだらサヨウナラ 2000/01/31

「地雷を踏んだらサヨウナラ」
評価:★★★★☆
監督:五十嵐匠
出演:浅野忠信、Robert Slater、Thorng Darachhaya、川津裕介、羽田美智子、市毛良枝
<渋谷シネアミューズほか、全国で公開中>

■あらすじ 
 ベトナム戦争末期、フリー戦場カメラマンとして内戦のカンボジアに潜入、クメール・ルージュが占拠するアンコールワットに単身向かう途中消息を絶った故・一ノ瀬泰造の軌跡を浅野忠信が辿るドキュメンタリー・ドラマ。

■みどころ
 奥山和由率いる「チーム・オクヤマ」の製作。やはりオクヤマ作品はレベルが高いということを再認識させられる秀作。
 思うに、この映画を最も歓迎しているのは、きっと泰造の両親だろう。そう確信できるほどに、短い青春のすべてを他国の戦争写真に、そして他国の聖地と相まみえることに賭けた一青年の姿が生き生きと描かれている。この映像のなかで蘇り、輝く泰造を見れば、彼らも愛息の短い生涯を本人同様に肯定することができたのではないだろうか。不思議なことに、観終わって最初に思ったのはそんなことだった。

 フリーの戦場カメラマンというのは予想以上に過酷な商売だ。いい写真が撮れたらその都度フィルムごと通信社に売るのだが、命がけでとった写真も10ドルなどといった信じられない値段で買い叩かれ、死んでしまえばなんの保証もない。確かに、読者が期待するような写真を撮ればその数十倍の値もつき、アンコールワットなどの秘境をもしフィルムに収められれば数万ドルという巨万の富を手中にできるし、それだけを目的とする同業者たちもいる。でも、彼らを飛び交う銃弾の中で突き動かすのが金や名声だけではないことは映像から容易に想像できる。かといって、「戦争告発」などの大義名分でもない。なにか彼らの「内なる声」がそうさせるのだ。それがやがて、恐怖心をも薄れさせて行く。

 驚かされるのは泰造にあまりにそっくりな浅野忠信。これはぜひプログラムを購入して確認して欲しい。本当にそっくり。そして、浅野自信も泰造その人であるかのように終始目を輝かせながらベストショットを追い、アンコールワットを目指す。
 それにしても浅野忠信という俳優は実にズルイ。あの風貌でジャングルに佇むだけでもう、なにもしゃべらなくても、主人公の人となりが観る者に伝わってしまうのだもの・・・。悔しいけど、やっぱりイイんだなぁ。イメージを膨らますために彼をこぞって使う監督たちの気持ちはとてもよくわかる。その中でも、本作は最大級のハマリ役だろう。

 圧巻はラスト。ワットを目前にしてクメール・ルージュの軍隊に逮捕されてしまう泰造。それでも彼は、わずかな望みを賭けて銃弾の中をまた走り出す。カメラさえ奪われ身ひとつで、タッチダウンを目指して倒されても倒されてもただ前を見据えて敵陣に突進するラガーのように・・・。泰造にとっての戦争はこのシーンに集約されている。なんか、映画を観ているような気がしない。実際は彼の最期がどのようなものであったのかは不明だ。アンコールワットを見られたかどうかもわからない。でも、きっとこうだったであろう、いや、こうであって欲しい。彼はきっとたどりついたのだ・・・

 映画には、泰造と現地カンボジアの親友、その村人との交流や、サイゴンでの淡いロマンスなども描きこまれ、戦闘シーンと見事なバランスを醸し出している。でも、これもみんな事実に基づくストーリー。だから、あざとい演出も感動を煽るような細工もなにもない。それでも、畳み掛けるような音楽とのコラボレーションの素晴らしさも手伝ってか、とにかく不思議な魅力を発散する映画なのだ。誘ってくれた友人は何と、二日前に観て取り付かれてしまっての再観覧だった。

 アサタダ・ファンはもちろん、オクヤマ・ファンも、ハリウッド・ファンにも、ぜひぜひ観て欲しい作品だ。

<koala>

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