ノッキン・オン・ヘブンス・ドア 2000/01/10

「ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア」 (1997年 独)
評価:★★★★☆
監督:トーマス・ヤーン(第一回監督作)
脚本:トーマス・ヤーン/ティル・シュヴァイガー
製作:ティル・シュヴァイガー ほか 
出演:ティル・シュヴァイガー、ヤン・ヨーゼフ・リーファース(「ふたりのロッテ」)、
   ティエリー・ファン・ヴェルフェーケ、モーリッツ・ブライブトロイ、
   ルトガー・ハウアー(!!)
<1/15より中野武蔵野ホールで上映開始>

■ あらすじ
 脳腫瘍と骨肉腫。病院で出会った余命幾ばくもない二人の青年が、「海を見たい」とい
う共通の夢と、各々ひとつずつの最後の夢とを叶えるべく、最高にクレイジーな旅をは
じめる・・・

■感想
 ドイツ映画、けっこうやるじゃん!! ドイツ映画の先入観を逆手に取ったような、
殊更に「硬い」演技(ちょっとシュワちゃんっぽい)と、タランティーノばりの滑稽さ
あふれるアクション。ロード・ムービーにアクションや追跡モノの要素を見事に取り込
み、濃厚なドイツ風に味付けしてしまった監督・脚本の手腕に拍手!

■ みどころ
 後の展開の伏線となる断片的なシーンが連続するオープニング。ギャング?やストリ
ップ劇場?列車に乗り合わせた一生反りが合わなさそうな二人の男。これらがどこでど
うつながるのだろう?? もうこの時点で、すっかり監督の術中にはまってしまってい
る。あとはもう、やりたい放題、ハチメンロッピの主人公たちと、ついでに彼らを追い
かける奴らも合わせて、イケイケドンドン、応援したり笑ったり。

 ”♪のっのっのきのんえぶんずどー・・・♪”ボブ・ディランこの名曲(‘73)をモ
チーフにした本作。でもむしろ、ディランと時代を共にしていない我々にとっては、こ
の曲はこの映画のために作られたのではないのか?と思えるほどの名コラボレーション
を見せている。もっとも、映画ではちゃんと使われるのはエンディングだけなのだが、
上映前の場内にもこの曲は流れ、我々を自然に映画の、主人公二人の心の中へと導いて
くれる。挿入歌用には、ドイツのバンド「ゼーリッヒ」によるカバー・バージョンが使
用されている。

 ドイツ映画といえば、ヴィム・ヴェンダースに代表される内省的で暗く難解、なイメ
ージと、ジョーク・センスのなさが真っ先に思い当たるが、この映画はそんな固定観念
を見事に打ち破ってくれる。乱暴者と慎重派の絶妙な主演コンビと、それを取り巻くと
にもかくにもヘボで憎めない人々。これがギャングやポリスなんだから面白さも倍増だ。
特にギャングのチンピラ二人組みは、レザボア・ドッグスに代表されるタランティーノ・
テイストあふれるキャラクターに仕立て上げられ、武骨な彼らの見せる大仰なアクショ
ンもとってもタランティーノ。

 随所にちりばめられたギャグのセンスも抜群。これにはすっかりハマってしまい、途
中からは彼らの一挙手一投足に込み上げる笑いが押さえられなくなる始末。
絵の撮り方も見事。不治の病の二人が旅立つきっかけとなる冒頭の「酒瓶出現」シーン、
後姿でのシルエットを多用した二人の歩く姿(ちょっと「レイン・マン」してる)、ヴェ
ンダースの「都会のアリス」を彷彿とさせる少女に葉巻を手渡すシーン。そして旅の果
て、美しくなぜか悲しさの漂わないラストシーン。とてもこの作品、トーマス・ヤーン
の初監督作とは思えない。もちろんその陰には、脚本・製作・主演をこなしたシュヴァ
イガーの尽力が隠されてはいるのだろうが。

 ジャンル的には「ナチュラル・ボーン・キラーズ」や「俺たちに明日はない」「心の指
紋」などのアクション・ロード・ムービーの部類に属する本作。でも、特筆すべきは、
主人公が決して他人を傷つけないこと。それどころか、「ねずみ小僧」まがいの行動まで
見せてくれる。天国への土産話を求めて車を走らせる彼らだが、もしかして彼らこそが
既に天使なのではないのか? そんな気もしてくる(実はもう一人、意外な「天使」が
最後に出てきて彼らの行路を守ってくれる!)。

 「ラン・ローラ・ラン」に引き続く痛快な本作の来日で、ドイツ映画が本格的にブレ
イクする日も近いかもしれない。ハリウッドファンにも、欧画ファンにも、ぜひ体験し
てほしい、超オススメ映画である。

<koala>

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