ポーラX 1999/12/14

「ポーラX」 (1999年 仏・独・日・スイス合作)
評価:★★★☆
監督:レオス・カラックス(「ポンヌフの恋人」)
出演:ギョーム・ドパルデュー、カトリーヌ・ドヌーヴ、カテリーナ・ゴルベワ、デルフィーヌ・シュイヨー
原作:ハーマン・メルヴィル「ピエール」
<<1999年カンヌ国際映画祭コンペ部門正式出品>>
<渋谷シネマライズで上映中。順次全国単館系劇場で公開予定>

■ あらすじ
 レオス・カラックス監督「ポンヌフの恋人」以来8年ぶりの新作。
 外交官の父を持ち、城に母と住み、強く愛し合う婚約者との結婚を目前にした覆面小説家ピエール。退廃の中で静かに歩みを始めようとしていた彼の人生は、「姉」と名乗る亡国の女性イザベルの出現で一気に混沌と破滅の結末へと駆け下って行く・・・

■ 感想 
 退廃から混沌を経て破滅へ。いままでに、こんな道筋を辿った映画はあったろうか?
 唐突で激しい音響と、まるで連続スチール写真を観ているように見事な構図で撮影された各カット。そしてとても詩的な映像表現。この監督独特の世界を見事に体現してみせた俳優たちがまた素晴らしい。ギョーム・ドパルデュー(ジェラール・ドパルデューの息子!)、カテリーナ・ゴルベヴァ、デルフィーヌ・シュイヨーの三人が交錯するシーンのなんと絵になることか!
 
■ みどころ
 のっけから主人公の呪われた出生の秘密を物語る暗い映像にまず驚かされる。そして一転、シャトーに明ける静かな朝の光景。でも、冒頭の映像のせいで既に不安に苛(さいな)まれている観客の心は、この光景を素直に受け入れることができない。

 果たして、程なく退廃に満ちた彼ら有閑階級の日常の実態が明らかになる。同性愛、近親相姦、愛欲。ストーリーの流れを追えなくなるほどに大胆にカットされたシーンの各断片が、退廃の中にありながら苛立ちもがく主人公の心象を浮き彫りにする。そして主人公ピエールとは何もかもが対極の位置にいる「姉」との遭遇。彼女こそピエールが今まで微かに感じながら目を閉じてきた一族の、そして父の欺瞞と虚飾を象徴する存在。この事実を前に、彼は「出家」するがごとくにすべてを捨て「姉」と連れ立って故郷を離れる。彼にとって彼女は「真実」であり「女」でもある。この破滅感がたまらなくいい。

 そして流れ流れて辿りつく破壊集団の「セクト」。これがまたいい。徹底的に訳のわからない混沌とした空間として描かれている。謎の指導者。その指揮下激しく不協和音を放出する謎の狂信的演奏者たち。猟犬。殺人集団。セクトを占めるこれらの構成要素はそのままピエールの心の混沌を表しているようだ。すばらしいの一言。

***

 筆者が観に行ったのは映画の日。割引日なので劇場は超満員。話題が先行し、この種の映画を観なれていない人たちも多く詰め掛けたと見えて、上映開始10分ぐらいで退屈し始める人もちらほら。確かに始めの一時間ほどは、説明不足気味の展開が続いて取り残されそうになり、眠気が襲い掛かってくる。でも、やがてこの映画の表現手法に慣れて来るあたり、「姉」の登場とともに物語は走り始め、刺激的な映像の連続にいつしかスクリーンの中に引き込まれてしまう。どうかあきらめないでぜひ最後まで集中して鑑賞してくださいませ。意味不明だった事柄もだんだんに結びついてきて、「なんか、わかる。わかった気がする」と思え、引き裂かれるような結末が強い印象を残してくれるでしょう。

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 あ、この作品に関しては映画館には一人で観に行くことをおすすめします。二人で行っても、観た直後にあまり感想を語り合わないほうがいいかも。まずはそれぞれの中でこの映画の「体験」をじっくり消化してみてください。百人百様の感じ方を許してくれる奥深い映画だと思いますから。

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