橋の上の娘 1999/12/13

「橋の上の娘」(1998年 フランス)
評価:★★★
監督:パトリス・ルコント(「髪結いの亭主」「ハーフ・ア・チャンス」)
出演:ヴァネッサ・パラディ、ダニエル・オートイユ
主題歌:マリアンヌ・フェイスフル""Why Will Take My Way?""
<<1999年モントリオール国際映画祭招待上映作品>>
<渋谷文化村ル・シネマにて先行独占上映中。以後の予定は末記参照>
コピー:『くちづけさえ かわさないふたりの 濃密な愛の時間。』

■あらすじ
 刹那的な性の快楽に溺れ愛を見失って絶望した娘アデル。そして、人生と自信を見失ったナイフ投げの芸人ガボール。二人はパリの橋の上で出会い、曲芸のパートナーとしてヨーロッパを巡る。信頼と幸運のみに命を賭けるエクスタシーがアデルを、ユニットが生み出す奇跡の力がガボールを、次第に救って行く。くちづけはおろか、肌さえ触れ合わぬ二人にはしかし、ナイフを投げ、投げられるひとときが究極の恍惚と快楽の時間であった・・・。それぞれの心が癒された果てには何があるのか?別れか?それとも新たな関係の始まりか?物語は後半意外な展開を見せ、ファンタジックな香りを帯びてくる。もしや、すべてが夢の中の出来事だったのか?

■感想
 ほんとうは繰り返し何度も観なおしてみたい(でもお金が・・・^_^;)。一回でこのかつてない「愛」のかたちを受け止め、消化することはとてもできないから。だから今の段階で評価をするということはとても難しい。ただ印象に残るのは、ナイフを投げるガボールの陶酔した眼差しと、刃を受けるアデルの恐怖を超越した恍惚のあえぎ、そしてモノクロ映像の中でさらに美しさが映えるV・パラディ=アデルの麗姿だ。

■みどころ
 そもそもこれは愛なのか?また、現実のできごとなのか?前半は確かに現実の物語だと確信していた。でも、生き別れたふたりの魂の交信が違和感なくうち続けられるに至り、この確信は崩れる。そして奇跡とも言えるラスト・シーン。もはや二人は、少なくともどちらかはこの世にいないのではないか?あるいは、物語り全体が二人のどちらかの夢に過ぎないのではないか?そんな思いさえよぎる。

 一見全く無関係に見えるが、この作品は同じくV・パラディが主演した前作「ハーフ・ア・チャンス」と実は対を成すものと思う。孤独の中で自分を見失った少女が、かけがえのない人との出会いで再生し、人生に正面から向き合う力と勇気を取り戻し、かたや彼女を癒したはずの当人も彼女に力を与えられる・・・という流れはこの二作に共通。アクションやパロディも交えた「ハーフ」が『陽』なら、本作はそこで描ききれなかった微妙な心の動きを中心に表現された『陰』と位置付けることもできる。「ハーフ・・・」もぜひ本作と合わせて観て頂きたい。

 冷静に観ていたはずなのに、そして、涙を誘う何の仕掛けも為されていないのに、目隠しのシーツの裏で容赦なく射ち込まれるナイフへの恐怖と恍惚に身をよじりながら、刹那の快楽と底無しの悲観に生きた過去を振り払って行くかのようなアデルの姿に突然、筆者の目は溢れ出す涙を止められなくなってしまった。自らの体のこの意外な反応に私はとても動揺してしまったのだが、爾後プレス資料を見てさらなる衝撃が。なんとV・パラディその人もまさにこのシーンで涙を流していたというのだ!

 意外なことに脚本には二人の間に流れる「愛」に似た感情は描かれていないという。しかし演じる二人の間には確かにこの感情がほとばしった。その瞬間から映画は脚本を離れ、かつてない愛を表現するものへと変質していったのだ。
だからだろうか、確かにストーリー自体に愛を殊更前面に押し出す演出はない。むしろ二人の間柄は非常にドライに描かれている。そのことで、愛の映画と見てしまうと煮え切らない印象を受けてしまう。恋愛映画とするには決定的にシーンと描きこみが不足しているから。

 だから、観客としてはやはり脚本を尊重してあくまで、年齢の離れた娘と芸人が出会い、互いに癒し癒されてゆく物語であるということを念頭に置いて見るべきだろう。

 主題歌は、同じく大道芸人と少女の純愛を描いた異色フランス映画「ロスト・チスドレン」で用いられたマリアンヌ・フェイスフルの""Why Will Take My Way?""(他の映画のメイン・テーマ曲を流用するのはかなりの反則技なので、賛否両論だろう。)。芸人たちの中に共通する出演者もちらほら見受けられ、監督がこの映画を強く意識していることが見て取れる。事前に、あるいは観終わってから、この「ロスト・・・」もビデオで観てみると、「芸人」という主人公が醸し出す不思議な夢幻感覚が共通していて興味深い。

 この作品は、今まで意思が強くワガママで自分に正直な娘役を多く演じてきたヴァネッサ・パラディにとっても180度異なる役で大きな転機となりそうだ。自殺を考えるまで追い詰められた娘がひとりの男に救われる…。彼女も、初めて真の「演技」を経験した、と述懐している。

■今後の上映予定
 テアトル梅田(大阪)、京都朝日シネマ、名古屋ゴールド劇場、札幌シアターキノ、福岡シネテリエ天神、仙台・盛岡・福島・山形フォーラムなどで、2000年1月末から順次全国公開予定。

■関連ホームページ・アドレス
 http://www.cinemaparisien.com (配給シネマパリジャン)
 http://www.la-fille-sur-le-pont.com/ (公式HP)
 http://www.b-lecinema.com/ (映画館「ル・シネマ」HP)

■はみだし1
 非売品(将来にわたって)のサントラCDと映画チケット、そしてシナリオ・写真集・インタヴュー・プレスリリースを一冊にまとめた豪華本をまとめた「スペシャル・パック」が¥2700にて関東地域限定1000セット(+全国主要都市公演用追加セット)がル・シネマと渋谷HMV、通信販売などで発売中(12/11現在)。詳しくは上記シネマパリジャンHPほかで。

■はみだし2
 この映画がクランク・アップした後、主演のV・パラディは恋人の俳優ジョニー・デップとの間に女の赤ちゃんを妊娠・出産(1999年5月27日)。彼女はリリー・ローズ・メロディ・デップと命名され(「メロディ」は故セルジュ・ゲンスブールへのオマージュとのこと)、ご両人は現在も同棲中とか。

■はみだし3
 この映画の公開に合わせて、映画と監督についての関連書籍が出版されています。
 1.「パトリス・ルコント・トゥルー・ストーリー」(共同通信社刊)
 2.映画「橋の上の娘」写真集

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