娼婦ベロニカ 1999/11/07

「娼婦ベロニカ」 (1998年 米)
評価:★★★
監督:マーシャル・ハースコビッツ
出演:キャサリン・マコーマック、ル−ファス・シーウェル、オリバー・プラット、フレッド・ウォード、ジャクリーン・ビセット
<日比谷 シャンテ・シネにて11/12まで上映>

■ あらすじ
16世紀末期の商都ヴェネチア(ヴェニス)。男の所有物=妻としての人生を拒否し、当代きっての詩人・高級娼婦(花魁=おいらん)として自由と愛に生きる道を選んだ女=ベロニカ・フランコの華麗にして波瀾に満ちた半生を描く。

■ 感想 
「恋に落ちたシェイクスピア」の亜流的作品で、全体に安っぽい印象が漂う。が、それを救って余りあるのは、主演のC・マコーマックの美貌と好演、それに、実話にして小説よりも数奇、国を救い、教会さえも沈黙させたベロニカの人生の輝きそれ自身だった。特に、固唾を飲むラストの目くるめく展開はすばらしい。

■ みどころ
 日本では単館上映=ミニシアター系の扱いだが、配給は20世紀FOX、製作スタッフは「レジェンド・オブ・フォール」と共通し米・英・伊三カ国にわたっているなど、立派なメジャー作品である。ロケはローマで行われ、16世紀のヴェネチア市街や運河はフェリーニも使用したというローマ・チネチッタのスタジオ内に再現されたという。そして衣装。欧州時代劇=「コスチュームもの」という異名からも、当時の装束の再現は映画の重要な部分を占めるが、これもオスカー賞デザイナーを擁し、イタリアの良質な生地と、ルネッサンス絵画にヒントを得たデザインにより完璧なまでに再現されている。

 これだけのパーフェクトな「インフラ」が整備されていながら、映像のかしこから安っぽさ、薄っぺらさが漂うのは、監督が基本的にはTVドラマ製作者であることから来るものであろうか。これはこじつけかもしれないが、観終った後資料で監督のキャリアがTVムービーの脚本・監督で埋められているのを知り、妙に納得が行ったのも事実である。映画素材をTV上で再生すると、素材の魅力は失われるが、TVドラマとしては何の遜色も無く成立する。だが、逆は必ずしもそうではない。TV用に作られた素材は、TV上ではそれなりに楽しめても、映画スクリーン上では明らかに見劣りするということが起こり得る。その理由は、TVと映画フィルムの色や明暗の表現力の違いであったり、鑑賞する環境(映画館かお茶の間か)の違いであったり、画面の大きさに起因するメイクやセットに対する気の使い方の違い、はたまた、長さの違いからくるストーリー展開の違いであったりとさまざまであろう。また、こうした違いから、俳優の「格」や演技の「スケール」の違いも自ずと生じてくる。TVでは観られてもスクリーン上では映えない俳優や演技があることは否定できない。

 存在感のない俳優たち、細かすぎてキレのない演技、映像の奥行きの無さ(照明や色使いによるのだろう)、CGによる合成画像やセットがそれと分かってしまう注意力の不足。これらはみな、TV界でのキャリアが災いした産物であろう。

 でも、そうしたマイナスを補って余りあるのが、C・マコーマックの美貌と、ストーリーそのものの開放感だ。

 マコーマックは、映画女優としての気品やオーラには欠けるものの、やはり顔立ちはとても美しい。そして、ベロニカその人ではないかと思わせるほどのハマリ役ぶりと演技力は見事。

 そして、この映画の魅力は、なんと言っても主人公の高級娼婦ベロニカ・フランコの人生そのものと、彼女を必要とし、彼女に救われ、彼女を捨てなかった特異な男性社会=ヴェネチアの風土の輝きと潔さだろう。

 身分の違いから叶わぬ愛する貴族男性との結婚。一人の男の「所有物」となることで自由を失い、いつか愛をも失うことへの確信と恐怖。それが町方の美しく聡明な娘ベロニカを、憧れの高級娼婦の道へと歩ませる。高級娼婦・・・日本で言う花魁(おいらん)である。英語では""Courtesan""と呼ばれ、いわば宮廷官女といったニュアンスだろうか。映画では、底厚の草履と絢爛豪華な衣装でしゃなりしゃなりと歩き、また運河を行く船上で男の羨望を集めるという花魁そのままの高級娼婦たちの日常が描かれ、その類似性には非常に驚かされる。そして、女人禁制の書庫への入室も、支配階級との交際に必要な高度な教養と礼儀作法を身につけるべき彼女らにだけは許されていた。これが無類の読書好きのベロニカを魅了し、やがて詩人としての彼女の才能を開花させる。美貌と女体としての魅力、教養、そして礼節。家政婦や乳母でしかない妻たちとは対照的に、まさに完璧にして最高の女性の代名詞である高級娼婦は当時、ヴェネチアの象徴的な存在ですらあったという。もちろん彼女たちの影には、落ちぶれ、下賎の男たちを相手にする多くの一般の娼婦たちが蠢いていたのではあるが。ありとあらゆる貴族男性たちはベロニカと関係を持ち、彼女に至福を授かる。そして彼女が彼らに与えたものが命に値する本物であったことは、ラストで証明される。

 映像上の欠陥は差し置いて、こうした事実に裏付けられたストーリーと、もうひとつのヴェネチアの真実を知る喜びをぜひ多くの人に味わってほしい、そんな作品である。

<koala>


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