グレイスランド | 1999/10/31 |
「グレイスランド」(1998 米) 評価:★★★★ 監督:デヴィッド・ヴィンクラー 出演:ハーヴェイ・カイテル、ジョナサン・シャーチ、ブリジット・フォンダ、グレチェン・モル ■あらすじ 交通事故で最愛の妻を失い、絶望のあまり放浪を続ける男と、自らをキング=エルヴィス・プレスリーであると言いきって憚らない「胡散臭い」放浪者とが出会い、寄りつ離れつ続ける聖地=思い出の場所メンフィスへの旅路。 ■感想 体格も何もエルヴィスに似ても似つかないカイテルであり、事実映画の物語り上でも誰も信じないのだが、それが時間を追うにつれ不思議な真実味を帯びてくる。そしてラストにかけて次々明かされる自称エルヴィスの謎。そこへの興味を引っ張るオープニングがいい。そして訪れるハッピーな光景。最後に再び謎に包まれる彼の正体。彼は一体、生身の人間なのか、亡霊なのか、ただの妄想癖の老人だったのか。この尾を引くエンディングが実にいい。そして、しばしばカイテルが見せるエルヴィスの""Remember the King!""と両腕を前に差し出す有名なポーズが印象的。 ■みどころ デヴィッド・ヴィンクラー長編初監督作。 既に有り余る名声を得た怪優が晩年に差し掛かり、あっと驚く新しい役柄や新味あふれる企画に嬉々として挑戦する姿は、我々が見ていても楽しくなるものである。もちろん、決して悪ふざけにはならない確固たる品位を保ちつつ、ではあるが。 ここのところ、そういう作品が相次いでいる。老境に達して「怪傑ゾロ」を演じ、アクションとムチ捌きの虜になってしまったアンソニー・ホプキンス。 パトリス・ルコントが世紀末に用意した最高のプレゼント、アラン・ドロンとジャン=ポール・ベルモンドがそれぞれのキャリアを巧みにパロディ化して銀幕を縦横に飛び回った怪作「ハーフ・ア・チャンス」。 そして、60歳のハーヴェイ・カイテルが似ても似つかないキング=エルヴィス・プレスリーを、しかし不思議な説得力を持たせて楽しそうに演じきった本作もその部類に入る。おまけとして、まだまだ若く美しいながらもベテランの域に達したブリジット・フォンダも、本作ではマリリン・モンローのそっくりさんに扮して実に楽しそうである(こちらは本当に似ている!)。 もともとカイテルは新人監督の初作品や小予算の企画にも好んで出演することで知られている。過去の演歴を見ても、マイナーな作品の方が多いぐらいだ。何しろ、当時まだ学生であったマーティン・スコセッシ監督(のちに「タクシー・ドライバー」などで再びカイテルを起用)のデビュー作がカイテル自身の映画デビューでもあったというのだから、その根は深い。 彼は、自分のネームバリューで新しい才能が世に出るのなら喜んで名前を貸す、という精神の持ち主だが、同時に、第一回作こそがすべての思いを込めた監督の渾身作であり、秀作である確立が高いというその持論もその積極性を後押ししている。 koala自身はエルヴィス世代でもなく、彼の音楽にも特段興味があるわけでもない。でも、ハーヴェイ・カイテル=エルヴィスには正直、惚れてしまった。一世一代、ホールでギンギンの振りで歌い上げるシーンも最高にカッコよかった。両腕を前に差し出して""Remember the King!""。この決めポーズ、映画館を出て思わずやってみたくなる。 今なお伝えられる「エルヴィス生存説」。それを信じる人も、信じない人もぜひ。また、ハーヴェイ=エルヴィスを亡霊と見るも、なりきりおじさんと見るも、本物と見るも、何れも結構。この映画には、どんな立場も見方も受け入れる、不思議な包容力が備わっているようだ。 <koala> |